勇者達の盗賊退治
今回は勇者一行の話です。
煉太郎達が魔動ジープの素材を集めていたその頃、迷宮都市メルリオのダンジョンで訓練を行っていた勇者一行は、アルフレド国王の命令で王都バレリウムに帰還していた。
どうやら緊急の用件があるようだ。
馬車が王宮に到着し、全員が降車すると、オルバーン王国の王女であるエミリアが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、勇者様」
ペコリと頭を下げてお辞儀するエミリア。
「ただいま、エミリア!」
久しぶりの友人との再会に愛美がエミリアに抱きつく。
「それで緊急の用件って何なの?」
凛の質問にエミリアは再度頭を下げる。
「詳しいことはお父様がご説明致します。謁見の間へどうぞ」
エミリアについていき、勇者一行はアルフレド国王がいる謁見の間へ向かう。
「訓練中に呼び戻して済まなかったな。早速本題を話そう。これから勇者一行にはコノナ村に行ってもらいたいのだ」
「コノナ村にですか?」
コノナ村は王都バレリウムから馬車で数時間の距離にある小さな村だ。
アルフレド国王曰く、最近その村が『略奪の斧』と言う盗賊団によって襲われ、占領されているようなのだ。盗賊達を束ねているのはその筋では有名なダンバールと言う男らしい。
「一刻も早く勇者一行にはその盗賊団を退治してもらいたい」
本来ならこのような出来事は騎士団を派遣して対処するのだが、今回の件は勇者一行に任せようとアルフレド国王は決めていた。勇者一行はオルバーン王国の希望とも言える存在。その力と威厳を世間に知らしめようと考えているのだ。
「そんな、弱い人達を襲うなんて許されることじゃない!」
拳を握りながら憤りを露にする勇悟。元々正義感の強い性格なのでそういったことが許せなかったのだ。他の生徒達も同じ気持ちのようだ。
「分かりました。盗賊退治、僕達に任せてください!」
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
馬車でコノナ村に向かい3時間が経過した。
「あれがコノナ村か……」
コノナ村から少し離れた丘から双眼鏡で状況を確認する勇悟。
村人達は縄で縛られて村の倉庫に監禁されており、『略奪の斧』の盗賊達は我が物顔で村中の家を荒らしては食料や金品を次々と奪っていく。
「許せない! 直ぐに助けに行こう!」
村人達を虐げる様子を見て、血相を変えてコノナ村に向かおうとする勇悟だが、隣にいたレクター団長に阻まれる。
「落ち着くんだユウゴ、このまま正面に向かっても盗賊達に人質を盾にされるだけだ。しっかりと作戦を考えて行動しろ」
「しかし、このまま盗賊達を放っておけば村人達もどうなるか……」
勇悟が険しい顔をしていると――
「それなら姿が見えないようにすればいいんだよ」
「何?」
「どういうことだ?」
愛美の言葉に首を傾げる勇悟とレクター団長。
「〝形ある実体を透明にせよ――インビシブル〟」
詠唱が終わるのと同時に愛美の姿が徐々に薄くなり、次第に消えていった。
「櫻井!?」
「消えただと!?」
突然姿を消した愛美に思わず狼狽する勇悟とレクター団長。
「これなら盗賊に見つからずに人質のところまで行けるよ」
虚空から愛美の声。
愛美が発動したのは光属性の上級魔法〝インビシブル〟。光を屈折させて人や物の姿を透明にさせる魔法だ。
「おお、これなら盗賊達に気づかれずに人質を救出できるな!」
愛美の作戦に感嘆するレクター団長。
「よし、これならイケるぞ! 透明化して人質を救出するぞ!」
愛美は勇者一行とレクター団長に〝インビシブル〟をかけてコノナ村に潜入する。盗賊達は宴に夢中なので見つかることなく潜入することが出来た。
「今回もなかなかの金品が奪えたな!」
「宴が終わったら村娘達を味見しようぜ!」
「男共は余興で殺してやろうかな!」
「ぎゃははははは!」
盗賊達のぞんざいな物言いに怒りを抑えながら勇悟達は倉庫へと向かう。盗賊達は全員宴に参加しているようで倉庫前には誰もいないので容易に入れた。
「〝解除〟」
愛美が〝インビシブル〟の効力を解くと、監禁されていた村人達に勇悟達の姿は見えるようになる。
「だ、誰だ……!?」
「突然人が現れたぞ!?」
「私達、どうなるの!?」
突然見知らぬ人物が現れて動揺している村人達だが、レクター団長が事情を説明すると、安堵の息を漏らす。
「今縄を解くから」
勇悟達は人質達を縛っている縄を解いていると――
「お前達、そこで何していやがる!?」
倉庫に入ってきた盗賊の一員が村人を解放している様子を目の辺りにして声を荒らげる。どうやら人質の様子を見に来たようだ。
ピィーーーーーッ!
盗賊は直ぐ様警報用の笛を鳴らして周囲の盗賊達に報せる。笛の音を聞いて仲間達が続々と倉庫へと集まり、逃げられないように囲み始める。
「おいおい、人質に何してくれるんだ?」
斧を持った強面の男が勇悟達は達に話しかけてきた。この男こそが『略奪の斧』のリーダーであるダンバールであった。
「僕達は勇者だ。お前達のしていることは許されることではない。今すぐ降伏するんだ」
「へえ、お前達が噂に聞く勇者一行か……」
勇者である勇悟達の存在は盗賊達の耳にも届いているようだ。
「おお、どの女もかなりの上玉じゃねえか!」
「あの茶髪の女、体型は小さいが良い胸してやがるな!」
「俺は断然黒の長髪が好みだな!」
「そっちの大人しそうな女は俺が貰うぜ?」
「おい、抜け駆けは許さねえぞ!」
「お前は壊さないように気を付けろよ。この前だって娼婦を壊したことを知ってるんだからな」
「ヒヒヒ……」
盗賊達はいやらしく頬を歪めながら愛美達女性陣を下卑た視線で見る。
「「「「「……」」」」」
舐めるような視線に晒され、心底気持ち悪いのか、言葉が出ない女性陣。凛に至っては「最低……」と呟きながら今にも白雪を抜きそうな状態だった。
「これが最後の忠告だ。大人しく降伏しろ……」
怒気を含んだ声音で忠告する勇悟。仲間に卑猥な言葉を言われたことに内心かなり腹を立てているようだ。
「おいおい、この人数を相手に随分と強気な奴だな、勇者はよ」
余裕の笑みを浮かべるダンバール。
盗賊達の数はざっと50人はいる。大して勇悟達の方は十数人。数なら盗賊団の方が圧倒的に有利だろう。
しかし――
「降伏する気がないのなら、こちらも容赦はしないぞ」
「ガキが、俺達『略奪の斧』の恐ろしさを教えてや――がっ!?」
盗賊の1人が勇悟に目掛けて前へ飛び出そうとするが、それよりも凛の抜刀の方が速く、盗賊は吹き飛ばされることになった。
次回も勇者一行の話です。