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落ちこぼれと呼ばれた超越者  作者: 四季崎弥真斗
1章 超越の始まり
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イジメ

 城の食堂で朝食を食べ終えて、訓練所を目指して廊下を進む煉太郎。


 「……」


 「ねぇ、あれって……」


 「ええ……」


 「例の勇者ね……」


 「――しっ、声が大きいわよ……」


 「聞かれたらどうするの……」


 (聞こえてますよ……)


 その途中で煉太郎の姿を見て、まるで汚物を見るような目付きで睨む兵士やひそひそと話すメイド達を見つける煉太郎。


 どうやら煉太郎の役立たず振りは城中に広まっていて、評価は最悪らしい。


 他の勇者は強力な異能を有しているのに対して、煉太郎は戦闘に不向きの異能を有している。魔力適性もないから魔法も使えない。魔力が少ないのでマジックアイテムもろくに使用できない。


 しかも、訓練でもクラスメイト達の足を引っ張っている様から煉太郎は周囲から『落ちこぼれ』と呼ばれるようになっていた。


 (もう慣れたから別にいいけど……。それに訓練の時に比べたらまだ良い方だし……)


 憂鬱な気分になりながら訓練場に到着する煉太郎。


 訓練場には数人の生徒が集まっていた。グループを作って談笑していたり、剣を振って訓練していたり、魔法を練習していたりする。


 どうやら煉太郎は訓練の時間より少し早く到着したようだ。


 煉太郎が訓練場に到着するや否や、睨みや舌打ちを受ける。地球にいた頃と変わらないこの態度が煉太郎を憂鬱な気分にさせる理由の1つだ。


 (これじゃあ、地球にいた頃と全然変わらないよな……)


 溜め息を吐きながら、煉太郎は睨みや舌打ちをサクッと無視し、訓練場の隅っこで、支給された細身の剣を使って素振りを始める。


 当初は重くて振れなかった剣も訓練に励んでいるおかげか、だいぶ様になっている。


 煉太郎は不真面目な生徒と思われているが、努力さえすればある程度のことは卒なくこなせる。ただ、趣味ばかりにその努力を費やしているだけなのだ。


 煉太郎が訓練に励んでいるその時――


 「おい、『落ちこぼれ』!」


 声と共に背後から衝撃を受けて、たたらを踏む煉太郎。


 「――ッ!?」


 なんとか転倒は免れたものの、抜き身で本物の剣を目の前にして顔を青褪める煉太郎。一歩間違えれば大惨事になっていただろう。


 (あ、危なかった……!? こんなことをするのは……)


 煉太郎は顔をしかめながら背後を振り返ると、そこには予想通りの面子が揃っていた。


 金色の短髪のをした加賀秋雄かがあきお、茶髪ロン毛の遠藤雅人えんどうまさと、モヒカンヘアーの中村亮なかむらりょうだった。


 「何してんだよ荒神? 剣なんか振り回してさ。『落ちこぼれ』が訓練しても無駄だろ?」


 「目障りなんだよ、落ちこぼれが」


 「ぎゃはははは、2人共言い過ぎだぜ。まあ、『落ちこぼれ』は本当の事だけどさ~!」


 彼らは地球にいた頃からこうして煉太郎にちょっかいをかけている生徒達だ。3人は愛美に好意を抱いており、オタクの煉太郎が愛美と仲良くしていることが前から気に入らなかったようだ。


 煉太郎の異能が非戦闘だと判明した一件以来、彼らは余計に絡んで来るようになった。


 煉太郎が周囲に『落ちこぼれ』と呼ばれるようになったのは、案の定この3人が王宮中に言いふらしているからだ。


 「そうだ、俺達がお前に稽古してやるよ!」


 「おいおい秋雄、お前マジで優しいな。俺も手伝うぜ」


 「感謝しろよ、『落ちこぼれ』!」


 何が面白いのかゲラゲラと笑う加賀達。


 嫌な予感を感じる煉太郎。


 「いや、俺は1人で平気だからさ。俺なんかのためにそこまでしなくていいぞ」


 加賀達の稽古を穏やか口調で断る煉太郎。


 「――は?」


 加賀達の笑いが止まる。


 すると突然、加賀が煉太郎の脇腹を殴る。


 「――ぐっ!」


 脇腹を殴られ、痛みに顔をしかめながら呻く煉太郎。


 加賀は空手部部長、遠藤はレスリング部部長、中村はボクシング部部長で、喧嘩慣れしているせいか腕力も半端なかった。


 そんな煉太郎の髪を強引に掴み、睨む加賀。


 「俺達が『落ちこぼれ』のお前のために鍛えてやると言ってるのに何言ってんの? 断るとかマジでありえないんだけど? お前バカなのか?」


 「お前は黙って俺たちの言う通りにしていればいいんだよ!」


 「これはキツイおしおきが必要だな~」


 そう言って、加賀たちは煉太郎を人目のつかない場所に連行する。


 それに他のクラスメイトは気づいたようだが、トラブルに巻き込まれたくないため、目を逸らしている。


 (目て見ぬふりかよ……!)

 

 やがて人目のつかない訓練場の死角になっている場所に着くと、加賀は煉太郎を突き飛ばす。


 「ぐう!?」


 「おいおい、稽古はこれからだぞ?」


 「折角だからさ、俺達の異能でこいつを訓練してやろうぜ!」


 「遠藤、良い考えだな! それじゃあ、俺から!」


 そう言って中村は拳を握り、煉太郎の腹部を殴る。


 「ゴホッ!!」


 腹部を殴られ、蹲る煉太郎。


 先程加賀に受けた一撃よりも遥かに強烈で、まるで鋼鉄で殴られたかのようだ。


 中村の異能は『身体硬化スティール』。


 身体の一部を鋼鉄のように硬化させる能力を持つ、攻防共に優れた戦闘向きの異能だ。


 中村は煉太郎をサンドバックのように殴りつける。


 「――ぐぅ……!?」


 すでに身体中が痣だらけになる煉太郎。


 (このままじゃ、ヤバイ……!?)


 そう思った煉太郎は逃げ出そうとするが、遠藤の異能によって邪魔される。


 「逃がさねぇよ! 『魔力糸スレッド』」


 遠藤の手から白色の糸が出現する。そしてその糸はまるで生きているかのように動き出し、逃げようとする煉太郎の両手両足を縛り付ける。


 「――ッ!」


 両足を縛られバランスを崩し、もろに顔面を地面に激突する煉太郎。


 これが遠藤の異能『魔力糸スレッド』だ。


 自身の魔力で糸を作り、それを自在に操る能力を持つ。強度も非常に高く、並大抵の力では抵抗したり引き千切ることは不可能だ。


 「最後は俺だな。『爆炎ブラスト』!」


 加賀の手からライター程度の炎が煉太郎に放たれ、触れた瞬間――


 ドゴォォォォォン!


 煉太郎の背中で小規模の爆発が起きた。


 加賀の異能は『爆炎ブラスト』。


 触れると爆発する炎を放つ。その威力は最大で上級魔法に匹敵する。


 「ガアアッ! う、ぅぅ……!」


 あまりの痛みに苦痛を漏らす煉太郎。背中の肉は爆ぜ、焼き爛れている。


 「ぎゃははははは! 荒神、お前マジで弱すぎだろ!?」


 加賀は痛みで苦しむ煉太郎の腹に蹴りを入れる。


 「落ちこぼれが俺達に盾突くんじゃねぇよ!」


 「ハハハハハッ!」


 続いて遠藤と中村の蹴りが煉太郎の腹に食い込む。


 「オエッ!」


 胃液を吐き、悶える煉太郎。


 「おいおい、だらしがねぇな!」


 「まだまだ稽古はこれからだぞ!」


 「おらよ!」


 暫く煉太郎は加賀達に稽古という名のリンチが続いた。


 「――ぐぅ……!!」


 煉太郎は痛みに耐えながら奥歯を噛み締める。


 (何で…)


 爪が食い込み、血が垂れるほど拳を握り固める。


 (何で俺だけがこんな目に……)


 煉太郎は自分の無力さを恨んだ。


 (何で異世界まで来てこんな理不尽な仕打ちを受けなければならないんだ……)


 「ハハハ! 落ちこぼれが粋がるなよ!」


 「落ちこぼれは落ちこぼれらしくしてろよ!」


 「そうだそうだ!」


 (力が欲しい……。こいつらを――俺を『落ちこぼれ』と蔑む者達を見返すような力が……!)


 加賀達を睨む煉太郎。


 両手両足を縛られて反撃すら出来ない煉太郎のせめてもの抵抗だ。


 「こ、こいつ!」


 「『落ちこぼれ』のくせになめやがって!」


 「俺達にそんな目つきしてんじゃねぇよ!」


 煉太郎の鋭い目つきに苛立ちを覚え、暴行を止めようとしない加賀達。


 (ヤバイ……視界が……朦朧と……)


 そろそろ痛みで意識が遠退いていく煉太郎。


 そんな時――


 「貴方達、何してるの!?」


 怒りに満ちた少女の声が響いた。


 その声を聞いて「ヤバイ!」と呟く加賀達。


 それはそうだろう。その少女は加賀達が好意を抱いている存在――愛美だったからだ。


 愛美だけではなく、その親友の勇悟や凛もいる。


 「櫻井さん、これは、その……」


 「俺達、荒神の訓練に付き合ってただけで……」


 「そうそう!」


 必死になって愛美に弁解する加賀達。


 「大丈夫荒神くん!? しっかりして!?」


 加賀達の弁解を無視して、愛美は苦しむ煉太郎に駆け寄る。


 どうやら煉太郎の無残な姿を見た瞬間、加賀達のことは頭から消えたようだ。


 愛美は煉太郎を優しく膝の上に寝かせると、キッと加賀達を睨む。


 「これのどこが訓練だと言うの!? 貴方達がしていることはただの暴力よ!!」


 「いや、それは……」


 「言い訳はしなくていい。いくら訓練だからと言ってもこれはやり過ぎだ。限度を知らないのか? 二度とこんなことをするんじゃない」


 「貴方達には本当に呆れるわ」


 愛美達に言い募られ、加賀達はチラリと煉太郎を見てそそくさと立ち去ってしまう。


 「直ぐに治療を始めるからね! 『治癒ヒーリング』!」


 愛美は直ぐに煉太郎の治療を始める。愛美の身体から光が放たれ、痛みが和らぎ、傷が徐々に癒える。


 「あ、ありがとう……櫻井……」


 そう言って、煉太郎は気を失う。


 「荒神くん!? どうしたの、起きてよ! どうしよう凛ちゃん! 荒神くんが!?」


 治療が間に合ったにもかかわらず、まるで死んだように眠りに就いた煉太郎を見て、慌てて凛を呼ぶ愛美。


 「落ち着きなさい愛美!」


 そう愛美に言う凛。


 だが、愛美は落ち着くことが出来なかった。


 今の愛美には通常の思考を持ち合わせていない。煉太郎が加賀達にイジメられているのを見て、冷静ではいられなくなっているのだ。


 凜は煉太郎の喉に手を当て脈を計り、呼吸しているか調べる。


 「大丈夫、生きてるわ。でも、急いで医務室に運んだ方が良いわね。勇悟、手伝って!」


 「分かった」


 勇悟と凜はそっと煉太郎を持ち上げ、急いで医務室に運ぶのだった。

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