幸運の獣
煉太郎達は盗賊達が溜め込んだお宝を期待しながら、奥の倉庫へと向かう。
倉庫に繋がる扉は非常に大きく頑丈そうな鋼鉄の扉で出来ており、しかも特殊な魔法陣が刻まれている。
試しに扉を開こうとしてみるが、煉太郎の力でもピクリとも動かなかった。
これは倉庫内の宝を盗まれないようにする為の強力な盗難防止用の魔法が施されている特殊な魔法陣で、頭領だけがこの扉を開けられる仕組みになっていた。
その頭領が死んだ今、誰もこの扉を開くことは不可能だったはずなのだが――
「ふんっ」
ヴェルシオンを異空間から取り出し、魔法陣ごと鋼鉄の扉を斬り裂く煉太郎。強力な盗難防止魔法が施されている扉でも、あらゆる物を斬り裂くことが出来るヴェルシオンの能力の前ではまるで意味をなさなかったようだ。
「さーて、お宝お宝♪」
胸をワクワクさせながら倉庫に入ると、中にはとても高価そうな指輪やネックレスなどの装飾品、剣や鎧などの武器や防具、宝石や金貨などが入った箱などが置かれている。煉太郎の予想以上に『双頭の犬』は宝を溜め込んでいたようだ。
これだけあれば旅の資金を充分に蓄えられるだろう。
倉庫内の宝を片っ端から異空間に収納していく煉太郎。
すると――
「クルル~……」
どこからか動物の鳴き声が聞こえる。
作業を止めて煉太郎達はその鳴き声が聞こえた方に視線を向けると、木箱の上に布を被さった小さな檻が乗っていた。
「……何だ、あれは?」
煉太郎達は檻に近づき、布を取ると、そこには小動物のようなモンスターが閉じ込められていた。
見た目はリスに近いが、体格は普通のリスよりも一回り大きい。身体全体は真っ白い体毛で包まれており、柔らかそうな尻尾は体長の半分以上を占めている。
耳は長くて垂れ下がっていてまるで兎のようだ。
特に目を引くのは額に埋め込まれている楕円形の赤い宝石だろう。もし売ればかなりの金額になるだろう。
「おいおい、こいつはもしかして……カーバンクルじゃないのか?」
『カーバンクル』
ランクBのリス型モンスター。
別命『幸運の獣』。
極めて温厚、人懐っこい性格で人の言語を理解するほど高い知能を持つとされている。
強さはランクFだが非常に稀少性が高く、滅多なことでは人前に姿を現さないのでランクBに位置付けられている。
額の赤い宝石は強力なマジックアイテムを造るのに使用されることが多く、オークションに売れば一生遊んで暮らせるほどの大金が動くとされる。カーバンクルを手に入れた者は富と名声を得られるという言い伝えがある。
「か、可愛い……!」
フィーナがあまりの可愛さにうっとりとした表情でカーバンクルを見つめる。
「取り敢えず檻から出すか」
煉太郎はカーバンクルを閉じ込めている鉄格子を掴むと、いとも容易くグニャリと捻じ曲げる。
「クル~……」
しかし、カーバンクルは檻から出ようとせずにぐったりとしている。
キュルルルル……。
小さい腹の虫が鳴り響く。フィーナはフルフルと首を横に振っているので、どうやらカーバンクルが腹を空かして動けないようだ。
「そう言えば、昼食用のパンがあったな」
煉太郎は異空間から昼食に食べるために用意していたパンを取り出し、食べやすい大きさに千切ってカーバンクルに食べさせる。
「クルルルル!」
差し出されたパンを受けとるとカーバンクルは高らかに鳴き、美味しそうにパンを食べ始める。
「クルルルル!」
カーバンクルはもっと欲しい、と言った感じで鳴き声を上げる。
「レンタロウ、今度は私があげたい!」
目を輝かせてフィーナはパンを千切り、それをカーバンクルに渡す。
「クルルルル!」
パンを腹いっぱい食べてすっかり元気になったのか、カーバンクルは檻から出ると煉太郎の肩に乗って頬にすり寄ってくる。
「こっちにおいで!」
フィーナがカーバンクルに呼び掛けると、フィーナの肩へと飛び移り、頬にすり寄る。どうやら2人はカーバンクルに懐かれたようだ。
「ああ~、可愛いな~。ねえレンタロウ、このカーバンクル飼おうよ!」
カーバンクルの可愛さにすっかり虜になってしまったフィーナ。煉太郎もフィーナが気に入ったのなら別に良いか、と了承する。
「飼うなら名前を付けないとな。どんな名前が良いんだ?」
「クル?」
煉太郎の言葉にカーバンクルは小首を傾げる。そんなカーバンクルの様子を見て、フィーナは直感的にカーバンクルの名前を決めた。
「決めた、今日からこの子の名前は『クル』!」
「クルルルルル!」
余程名前が気に入ったのか、カーバンクル――いや、クルは高らかに鳴く。
煉太郎はフィーナの安直としか言えない名前の付け方に若干呆れてしまうが、当の本人が気に入ったのなら仕方がないかと肩を竦める。
「さて、残りのお宝を回収して盗賊達の死体を処理しよう。アルバ村にいるドーンも帰りが遅くて心配してるかもしれないしな」
「うん、そうだね」
「クルルルル」
広場に戻り、盗賊達の死体を火葬した煉太郎達は山を下山し、アルバ村へと帰還するのだった。




