アジト
煉太郎達は『双頭の犬』のアジトは山奥にある崖下にある洞窟に到着した。
洞窟の入口付近には2人の盗賊が見張りとして配置されている。
「呆れたな……」
樹の陰に隠れながら見張りの盗賊2人を見て言葉通りに呆れた顔で呟く煉太郎。
なぜなら視線の先にいる見張りの2人が座り込んで呑気に酒を飲みながら笑って話しており、見張りとしての役割を果たせていないからだ。
これから襲撃されることも知らずに……。
「まずは内部の状況を確認する必要があるな」
煉太郎は異空間から遠くの場所を写し出すことが出来るマジックアイテム――遠隔の鏡を取り出すと、魔力を流し込む。すると鏡から洞窟の内部の映像が写し出される。
洞窟内は基本は1本道で、その先にある広場で他の盗賊達は宴会を行っている。
その数はざっと20人程。
今まで盗んできた宝は広場の奥にある倉庫に隠しているようだ。
「フィーナ、お前の魔法で見張り役達を仕留めることは可能か?」
視線を見張りの盗賊に向けながら、フィーナに訊ねる煉太郎。
この距離ならタスラムでも充分に届くのだが、銃声を聞きつけて他の盗賊達が洞窟から出てくる可能性が高い。煉太郎としては洞窟内の盗賊達にも奇襲を仕掛けたいのだ。
「出来るよ」
「よし、じゃあ頼む」
「分かった。〝ウインドアロー〟」
詠唱と共に、見えにくい不可視の風の矢が10本程見張りの盗賊達に放たれる。
「――う……」
「――げ……」
風の矢は見張りの盗賊達の顔や首へと殺到し、悲鳴を上げることなく絶命する。
「よし、行くぞフィーナ」
「うん!」
見張りの盗賊達が完全に息絶えるのを確認して、死体は取り敢えず異空間に収納して、洞窟内に潜入する。
暫くは進むと、盗賊達の笑い声が聞こえてくる。物陰から広場を見回すと、盗賊達は酒を飲み、料理を食して宴会を楽しんでいる。
盗賊達は完全に油断しているので奇襲を仕掛けるには絶好のチャンスだろう。
「まずは見張りを倒した時のようにフィーナの魔法で先制攻撃。その後は俺が広場に突入する。フィーナはその援護を頼む」
「任せてよ」
煉太郎の指示にフィーナは頷く。
煉太郎はタスラムとカルンウェナンを取り出し、準備を整える。
「頼む、フィーナ」
「いくよ。〝インパクトフレア〟」
放たれたのは火系統の上級魔法〝インパクトフレア〟。大きめの火球が盗賊6人ほど固まって酒や料理を堪能している集団の中央に命中すると、瞬時に炎が盗賊達の身体を燃やす。
「「「「「「ぎゃああああああああ!」」」」」」
突然の奇襲。断末魔の叫びを上げながら、6人の盗賊達は火達磨となり、その命を散らすことになる。
「何だ!? 敵襲か!? 全員迎え――」
ドパンッ!
火達磨となった盗賊達の周辺にいた盗賊が咄嗟に指示をしようとするが、その前に広場に入り込んだ煉太郎のタスラムの銃弾によって頭部が弾け飛び、絶命する。
「敵襲だぞ! 迎え撃てぇっ!」
広場の奥にいる巨体を誇る頭領らしき男が大声を上げて指示を出す。
その命令を聞いた盗賊達が近くに置いてあった剣や槍、斧といった自分の武器を手に取り襲撃者の煉太郎を取り囲む。
「ガキが、俺達『双頭の犬』のアジトに乗り込むなんて大馬鹿な野郎だ――ッ!」
ドパンッ!
盗賊の言葉を最後まで聞かずにタスラムを発砲して頭部を吹き飛ばす煉太郎。
その直後に煉太郎は一気に盗賊達との間合いを詰めて、カルンウェナンで次々と斬り伏せていく。
「クソガキが! 俺達を舐めるんじゃねえぞ!」
血走った目をした盗賊が煉太郎の背後からバトルアックスを降り下ろそうとする。
しかし――
「〝アイスアロー〟」
氷で作られた矢が次々と盗賊達の頭部を貫通させて絶命させる。フィーナの援護は完璧だった。
煉太郎とフィーナのコンビネーションにより、盗賊達は次々と倒されていき、残りは頭領のみとなってしまった。
「よくもこのラチス様の部下達を皆殺しにしてくれやがったな! ここまで人数を増やすのに俺様がどれほど苦労したと思っているんだ!」
宴会の最中に奇襲を受け、仲間を次々と殺された怒りと焦りで興奮しているのだろう。頭領――ラチスは息を荒立てながら血走った眼で煉太郎を睨んでいる。
「お前らは絶対に許さねえ! 俺様に盾突いたことを後悔させてやるぜ」
ラチスは懐から不気味な輝きを放つ、かなり大きめの宝石を取り出した。
「さあ来やがれ、我が下僕――オルトロス!」
そう叫びながら頭領は宝石を地面に叩きつけた。
宝石が砕け散り、禍々しい光を放出させると――
「「ガルルルルルッ!」」
頭部が2つある黒い巨大な犬が召喚された。