和食料理
チュン、チュン、チュン、チュン……。
「ん……」
小鳥の囀ずりを目覚し代りに目を覚ます煉太郎。欠伸を1つして起き上がろうとするが、何故かそれが出来ない。
その理由は――
「すぅ……すぅ……」
煉太郎の腕を抱き枕代りにして恋人のフィーナが眠っているからだ。
煉太郎とフィーナは恋人同士になってから一緒のベットで寝るようになった。もちろんフィーナの要望でだ。
元々女の子に対する耐性が皆無だったので最初はあまりの恥ずかしさに抵抗ぎみだった煉太郎だが、今ではすっかり馴れていた。
「あ……」
フィーナが目を擦りながら頬笑む。
「おはよう、レンタロウ……」
「ああ、おはようフィーナ」
優しく頬笑むフィーナに煉太郎も微笑み返す。
すると――
「レンタロウ……ん」
フィーナが静かに目を閉じる。煉太郎におはようのキスを強請っているのだ。
「……仕方ないな」
恥ずかしげに頬を掻くと、煉太郎はフィーナの唇に自分の唇を重ねた。軽く触れ合うだけの、ささやかなキスだ。
「ん……」
暫く時間が経過すると、フィーナはにこやかに微笑み、「へへへ……」と嬉しそうにして唇を離した。
(まあ、何だ、こういうのも良いものだな……)
言葉では言い表せない程の幸福感。
今まで恋人がいたことがなかった煉太郎にとってはまるで夢のような出来事だった。
異世界に召喚されたは良いが落ちこぼれ扱いにされ、悪意あるクラスメイトに裏切られ、狂人の魔法使いに実験体にされるなど不運の連続だったが、最近では異世界に召喚されて良かったと思うようにまで煉太郎はなっていた。
それも全てフィーナのお陰だろう。なんだかんだで煉太郎はフィーナに色々と救われているのだ。
「今日はドーンさんに呼ばれてる日だよね?」
「ああ、魔動ジープの一件で話があるようだ。朝食を食べたら親父の店に行こう」
「うん」
着替えて1階の食堂に向かう煉太郎達。
「おはようございます、レンタロウさん、フィーナさん。そろそろ起きるかと思って朝食の準備を用意しておきましたよ」
女将が朝食を用意して待っていた。
「――な!? これは……まさか……!?」
用意されていた朝食を見て思わず目を丸くする煉太郎。
ほかほかに炊かれた白い穀物。
豆腐のような食材が入ったスープ。
焼き加減が絶妙な焼き魚。
塩と酢の香りがする野菜の数々。
「和食料理だ……!?」
間違いなくそれらの料理は煉太郎達の故郷、日本の料理の数々だった。
【ラディアス】に召喚されてから1度も口にしていない和食料理にゴクリと唾を呑む煉太郎。
まずは白米を一口。
白米の匂いがふわりと香り、噛む度に甘味が増す。
次は野菜の漬け物。
ポリポリと音を立てる野菜の数々。強い塩気が白米と非常に合う。
次はスープを啜る。
「味噌汁だな……」
味噌と思われる調味料で作られたスープ。それは正しく味噌汁の味だった。中に入っている四角形の白く凝固された食品も豆腐だった。
最後に焼き魚。
塩だけで味付けされたシンプルな焼き魚だが、隣に置かれている黒いソースに煉太郎は注目する。そしてその黒いソース焼き魚にかけて食べてみる。
(間違いない……。これは醤油だ!)
醤油独特の香りと味が焼き魚の旨味を引き出す。
(美味い!美味い美味い美味い美味い美味い!!)
日本にいた頃は毎日のように食べていた和食料理。この世界に召喚されてから久しく食べれていなかったせいか、煉太郎は故郷の地球のことを思い出しながら、無我夢中で和食料理を平らげていく。
「……ふぅ」
和食料理を食べ終えた煉太郎は思わず息を漏らす。
「……美味かった」
「気に入って貰えて良かったです」
「女将さん、この食材はどこで手に入れたんだ?」
「こちらの料理は全てリムラスカ連合国から取り寄せた食材で作ったものです」
リムラスカ連合国。
このネーデン大陸の北東に位置する大陸一の国土を誇る国だ。
女将によると、この和食料理に使われる調味料はリムラスカ連合国の初代国王が開発した物で国の名物商品のようだ。
「女将、この料理の食材を売ってくれないか? 金なら幾らでも出す!」
日本人である煉太郎にとってはこの食材は非常に魅力的だった。
それこそ今持っている金を全て渡してでも構わないと思えるほど。
「わ、分かりました。この村を救って下さったレンタロウさんの為です。流石に他のお客様の朝食分は渡せませんが、残りは全てレンタロウさんに差し上げましょう」
「すまないな、女将さん!」
煉太郎は女将に約1ヶ月分の和食食材を譲ってもらうことになった。
(リムラスカ連合国に行ったら毎日旅で和食料理が食べられるように食材を買い占めてやるぞ!)
そう誓う煉太郎だった。




