ラナファスト大森林
明けましておめでとうございます!
二章開始です。
「はぁ、はぁ……もう少し……もう少しで出口だ……!」
不適な笑みを浮かべながら黒装束の男は深夜の森を駆け抜けていた。
黒装束の男はいわゆる密売人と呼ばれる者だった。
背負っているリュックの中にはエルバナ公国でしか採取出来ない幻覚作用がある麻薬を作るために必要な植物――イーマ草が入っている。
その量は売れば一生遊んで暮らせる程だった。
「まったく、ドジな野郎がミスをすると、同業者が苦労するぜ……」
憎々しげに密売人は呟いた。
過去に密売人と同じように麻薬植物を隣国で売ろうとした同業者がちょっとしたミスで騎士団に捕まってしまった。そのせいで国境付近は騎士団が管理するようになり、麻薬植物を隣国で売ることが困難になってしまった。
だが、どこにも抜け穴と言うものは存在する。
それはこの森――ラナファスト大森林を通ることだった。
ラナファスト大森林は世界最大の森林地帯で、古の時代から生えている聖なる樹――創世樹があることから『創世樹の森』とも呼ばれている。
人間嫌いで有名なエルフ族が統治する領域であり、どの国とも友好関係を結んでいない為、騎士団はこの森に手出し出来ないでいた。
「この森を抜ければ俺は大金持ちだぜ!」
大量の硬貨想像して密売人はニヤリと笑みを浮かべる。
その時だった。
ズシン……ズシン……ズシン……ズシン……。
「な、何だ……?」
突然の地鳴りに動揺する密売人。
するとそこに――
「オオオオオオ……」
呻くような声を上げて植物の巨人が現れた。
3メートルを優に超える巨体は濃い緑色の蔓草で形成されている。
「何だよこいつ……!?」
今まで見たことの無いモンスターの出現に密売人は動揺を隠しきれなかった。それに密売人の勘が告げる。このモンスターは危険だと……。
しかし、大金を手にする為にはここで引き返す訳にはいかなかった。
密売人は腰にさしていたロングソードを引き抜くと、それを植物の巨人に向けた。
「モンスター如きが俺の邪魔をするんじゃねえよ!」
俊敏な動きで植物の巨人に先手を打つ密売人。
密売人は元々名の知れた冒険者だった。ロングソードも冒険者をしていた頃から愛用している鉄よりも硬度が高い黒鉄鋼と言う素材でで鍛えられた自慢の逸品だった。
しかし――
キィィィィィィィンッ!
植物の巨人の身体は非常に硬く、黒鉄鋼で造られたロングソードの刀身は真ん中からへし折られ、吹き飛んだ。
「嘘だろ……!?」
自慢の愛剣を意図も簡単に折られ、驚愕する密売人。折られたロングソードを投げ捨て、右手を植物の巨人に向ける。
「剣がダメならこれならどうだ! 〝火球をここに――ファイアーボール〟!」
火球が植物の巨人に直撃。火は瞬く間に全身を燃やす。
「オオオオオオ……」
呻き声を上げながら植物の巨人は燃え尽きる。
「へへ、俺を舐めるなよ……」
密売人は燃えて灰になった植物の巨人の亡骸を見て呟く。
すると――
「ほう、あの巨人を倒すか……」
「――ッ!?」
突然話し掛けられて身構える密売人。
密売人に話し掛けて来たのはフード付きのローブを纏った人物だった。顔はフードで隠れて見えないが、声からすると男だと分かった。
「だ、誰だあんた!?」
「貴様が知ることではない……」
そう言ってローブ男は懐にしまっていた袋から一粒の種を取り出してそのまま地面に落とす。
すると――
「オオオオオオ……」
呻き声と共に種が急速に育つ。
種からあふれ出す蔓草が次第に人型へと変化する。それは先程密売人が倒した植物の巨人と同じモンスターだった。
「さっきの植物野郎じゃねえか! こうなったらまた俺の炎魔法を喰らわして――ッ!?」
密売人が魔法を発動するよりも先に植物の巨人が動いた。
まるで丸太のように太い指を伸ばし、密売人の胴体、両手両足を拘束する。
「何しやがる!? 離せ!」
植物の巨人の力は強く、振りほどくことも出来ない。
「抵抗されて逃げられては困る。そいつの腕と足を折れ」
「オオオオオオ……」
ボキボキボキボキッ!
ローブの男の命令で密売人の両手両足の骨をへし折る植物の巨人。
「ギャアアアアアアアアッ!! 俺の腕と足がぁぁぁぁぁぁっ!?」
両手両足の骨をへし折られ、密売人の悲痛の叫びが森に響いた。
「連れて行け……」
「オオオオオオ……」
「おい、俺をどこに連れていくんだ!? 離せ! 離してくれぇぇぇぇぇ!!」
叫びも虚しく、ローブの男の命令で植物の巨人は密売人を連れ去っていく。
「もう直ぐだ。もう直ぐ私の野望が叶う……」
ローブの男はそう呟くと、森の闇へと消えて行った。
今日中に新作小説を投稿しようと思います。