プライド
「……ん」
目覚めると、煉太郎はベットの上に横たわっていた。
(……ここは……宿屋の部屋か……?)
煉太郎がいる場所は『辺境の夕暮れ亭』の借り部屋だった。
窓から差し込む陽光が朝だと知らせる。
(そうか、俺は意識を失ったのか……)
身体を起こすと、胸部に包帯が巻かれているのに気が付いた。
包帯を取り、キングゴブリン(稀少種)に魔剣で貫かれた傷口を見てみると、完全に塞がっており、傷1つ無い状態だった。
周囲を見渡すと、フィーナの姿が無い。
「朝食でも食べに行っているのか?」
そう呟き、ベットから降りようとしたその時――
ふにょん。
右手に伝わる柔らかくて弾力のある感触。明らかにベットの感触では無い。
「んんぅ……」
「――ッ!」
艶やかしい声が聞こえた。
煉太郎は慌ててシーツを捲ると、そこにはフィーナが眠っていた。
どうして自分のベットで寝ているんだ? と思う煉太郎だが、すやすやと眠っているフィーナの寝顔を見て、苦笑いする。
すると、フィーナの目が開く。
「……レンタロウ?」
目を覚ましたフィーナは茫然とした表情で煉太郎を見つめている。
「おはよう、フィーナ」
「レンタロウ!」
「うお!?」
カッ、と目を見開き煉太郎に飛び付くフィーナ。
いきなり抱きつかれて流石に動揺を隠しきれない煉太郎。抱きつかれることによってフィーナの豊かな双丘の感触が伝わる。
しかし、フィーナが煉太郎の胸元にぐすりと鼻を鳴らしていることに気付くと、そっと頭を撫でた。
「随分と心配をかけたな……」
「うん……心配したんだからね……」
しがみついて離そうとしないフィーナ。それだけ煉太郎のことを心配していたのだ。
煉太郎はフィーナの気が済むまで頭を撫で続けた。
暫くしてフィーナは落ち着きを取り戻すと、煉太郎は事情を尋ねた。
どうやら煉太郎は2日間も眠っていたらしい。
煉太郎がキングゴブリン(稀少種)との戦闘で受けたダメージは思いのほか重傷だった。特に魔剣で貫かれた心臓のダメージは煉太郎の驚異的な回復力でも中々完治せず、かなり危険な状態だった。
村中のポーションをふんだんに使い、フィーナの補助系統の光魔法で回復力を高めなければ、今頃煉太郎はどうなっていたか分からなかっただろう。
ちなみに村人の男達は多少の傷を負ったが全員生きているようだ。隣の村に避難していた女や子供達も無事にアルバ村に帰ってきている。
「そうか、ありがとなフィーナ。お陰で助かったよ」
「へへ、どう致しまして」
煉太郎に感謝されたのが余程嬉しかったのか、満面の笑顔を浮かべるフィーナ。
ぐぅ~。
なんとも間の抜けた音が部屋に響く。
「わ、私じゃないよ!?」
慌ててお腹を押さえるフィーナ。
「いや、今のは俺だ」
流石に二日間何も口にしていないので空腹のようだ。
「腹ごしらえとするか」
「うん!」
朝食を取るべく一階の食堂に向かう煉太郎とフィーナ。
「あ、レンタロウさん! 良かった……無事に目を覚ましたんですね。身体の方はもう大丈夫なんですか?」
女将がホッとした表情で声を掛けてくる。
「ああ。お陰さまで無事完治したよ。それより朝食の準備をしてくれないか? 二日間も食事をしていないから腹が減ってな……」
「分かりました! 直ぐに準備をしますので少々お待ちください!」
煉太郎達が席に着くと、女将は料理を持ってきた。二日ぶりの料理に思わずゴクリと唾を呑み込む煉太郎。
「そうそう。レンタロウさんが目を覚ましたら鍛冶屋に顔を見せるようにと、ドーンさんから言付けを頼まれました」
「親父が? まあ、元々親父に用があったからな。朝食を終えたら鍛冶屋に行くとするか」
「うん」
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「村を救ってくれた恩人だぞ!」
「目が覚めたんだな、兄ちゃん」
「お譲ちゃんの魔法、凄かったぞ!」
「村を救ってくれてありがとうございます」
朝食を終えて《辺境の夕暮れ亭》を出ると、煉太郎達は村人達に囲まれることになった。何せ煉太郎達はゴブリンの軍勢からこのアルバ村を救った英雄だ。注目の的になるのは当然のことだろう。
するとそこに――
「おお、レンタロウさんではないですか! 目が覚めたんですね!」
アルバ村の村長が現れた。
村長は煉太郎の手を取ると、涙ながら感謝する。
「このアルバ村を救ってくださり感謝します! お2人がいなければこの村はゴブリン達によって滅ぼされていたでしょう! 村人からも犠牲者は出ていません! 本当にありがとうございます。ありがとうございます!」
「あ、ああ……」
戸惑いながら返答する煉太郎。だが、ここまで感謝されると、悪い気はしなかった。
「それで、これからどちらに?」
「ドーンに呼ばれて鍛冶屋に行こうと思っている」
「そうですか。今日の夜にお二人を歓迎する宴会を行おうと思いますので、ぜひいらしてくださいね」
「分かった」
「楽しみにしてるね!」
そう言い残して、煉太郎達はドーンの鍛冶屋に向かうのだった。
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「来たぞ親父」
「ドーンさん、来たよー」
「おう……」
相変わらず無愛想な表情で煉太郎達を出迎えるドーン。
「傷は完治したようだな」
「お陰さまでな」
「まずは礼を言いたい。ゴブリン達を討伐してくれて感謝する」
「気にするな。礼ならこれから働いて貰うからな」
「まったく、人の誠意を何だと思っているんだお前は……」
ぶつぶつと呟くドーン。
「まあいい。まずはこいつを返す」
それはキングゴブリン(稀少種)に真っ二つにされたはずのカルンウェナンだった。完全に修復されている。
「ミスリルで造られているから修復するのに苦労したぞ」
「流石親父だな」
「それと、坊主にはこいつもやろう」
「これは……」
机に置かれたのは、キングゴブリン(稀少種)が持っていた魔剣ヴェルシオンだった。刀身には札のようなものが貼られている。
「この魔剣は俺の手に余る代物だ。特殊な札で効果を抑えているが、こいつに少し触れただけで俺の魔力を根こそぎ持っていかれそうになって死に掛けた。生半可な奴が持てば確実に魔力を枯渇させられて生命力まで吸われて死ぬ。その点坊主ならこの魔剣を扱えるほどの魔力があるから心配無いだろう」
「確かに俺ならこいつを扱えるかもな。幻想級の魔剣――折角だから貰っておくか」
そう言って煉太郎はヴェルシオンを手に取り、札を剥がす。
「む……」
札を剥がした瞬間、煉太郎の持つ魔力が消費するのを感じた。ヴェルシオンが煉太郎の魔力を吸い取っているのだろう。
しかし、その程度では煉太郎の持つ莫大な魔力を枯渇させることは出来なかったようで、煉太郎はピンピンしている。
「確かに俺しか扱えないようだな……」
そう呟きながら煉太郎はカルンウェナンとヴェルシオンを異空間に収納する。
「それで、お前はまだ俺に造ってほしい物があるんだよな?」
椅子に腰掛け、2日前の続きを聞くドーン。
「ああ。こいつだ」
タブレットの電源を入れて、設計図を見せる煉太郎。
「何だ、こいつは……?」
拳銃と同様に今まで見たことの無い構造が描かれている設計図に目を丸くするドーン。
「馬車にも見えるな……」
「こいつは自動車という乗り物だ」
煉太郎がドーンに見せているのはこの世界に存在しない自動車の設計図だった。
「こいつはケンジュウよりも容易に造れる代物ではないな。構造もかなり複雑だ……」
「流石の親父もこいつを造るのは無理か?」
煉太郎の『無理』と言う言葉にピクリと眉をひそめるドーン。その言葉がドーンの職人としてのプライドを滾らせるた。
「馬鹿野朗! 誰が造れないと言ったんだ! 俺に――ドワーフ族に造れない物は無い! 良いだろう、ドワーフ族の誇りにかけてこのジドウシャを造ってやるぜ!」
こうしてドーンはこの世界で初の自動車製作に取りかかることになるのだった。
次は大晦日に投稿します。




