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落ちこぼれと呼ばれた超越者  作者: 四季崎弥真斗
1章 超越の始まり
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墓参り

 時間を少し遡る。


 煉太郎達がゴブリンの軍勢に対抗するべく、村の周辺に防護柵を設置したり、武器の手入れをしている頃、勇者一行はバルロス迷宮での訓練を中断して王都・バレリウムに帰還していた。


 バルロス迷宮による訓練の疲れを癒す為だ。


 久しぶりの王都なので買い物を楽しむ者。知り合った貴族にお茶会へ誘われた者。休日だと言うのに訓練に励んでいる者。皆それぞれ休日を過ごしていた。


 そんな勇者一行の1人である愛美は王都の西側にある王国が管理する墓地を訪れていた。


 愛美は献花台に先程花屋で購入した花束をそっと置くと、合唱する。


 「久しぶり、荒神くん。1ヶ月ぶりだね」


 愛美は墓石に向かって呟いた。そう、この墓石は煉太郎の墓石だった。


 墓石には日本語で煉太郎の名前が刻まれている。


 愛美は王都にいる時は毎日のように煉太郎の墓参りをしていた。


 「荒神くん、今回はバルロス迷宮20階層まで到達したよ。皆、どんどん強くなってる。私も以前よりは成長してると思う。それに見て、装備も新しくしたんだよ」


 愛美は立ち上がると、自分の姿を見せるようにくるりと回った。


 手には以前討伐した異常トレントから手に入れた枝で造られた魔法杖。特殊な糸で作られた魔法耐性に優れた魔法ローブを身に纏っていた。


 「明日から訓練が再開するから、当分の間はここに来れないね……」


 少なくとも、数ヶ月は帰って来れないだろう。


 バルロス迷宮は20階層からより一層強力なモンスターが出現し、範囲が広がり、難易度もぐんと上がる。攻略するのに一週間は掛かる階層も存在する。


 「私、頑張るから。だから応援してね、荒神くん……」


 首から下げているハート型のペンダントを握り締める愛美。


 すると、こちらに向かって来る足音が聞こえた。


 愛美はそちらに視線を移す。


 「やっぱり……」


 「ここにいましたね」


 「凜ちゃん、それにエミリアも……」


 愛美に話し掛けて来たのは親友の凜とオルバーン王国第一王女・エミリアだった。


 凜は普段着ではなく、訓練用の服を着ている。先程まで訓練に励んでいたのだ。


 エミリアは普段着ている装飾が付いたドレスではなく庶民が着ているような服装をしている。どうやらお忍びで外出をしているのだろう。


 2人共手には花束を持っている。


 「勇悟くんとの訓練は終わったの? 凜ちゃん」


 「ええ、勇悟がやっと解放してくれたわ。もう、折角の休日なのに訓練に付き合わされるとは思わなかったわ」


 凜が休日なのに訓練を行っていたのは勇悟に付き合わされていたからだ。


 勇悟は異常トレントとの戦闘で苦戦したことを気にして更なる強化を求めてより一層訓練に励むようになった。勇悟の成長速度は凄まじく、その実力は《オルバーン王国最強の騎士》であるレクター団長に引けを取らないまでになっていた。


 いつもはレクター団長が勇悟の訓練に付き合っているのだが、今日は騎士団の重要な会議に出ている為現在は不在。他のクラスメイト達も不在で、凜だけしかいなかったのだ。


 「愛美が部屋にいなかったからもしかしたらここだと思ってね。エミリアとはさっきそこで偶然会ったの」


 「はい。花屋さんで凜さんにお会いしまして、私も同行させて貰いました」


 エミリアは国民にも大変人気のある王女だ。真面目で温和、気品が良く、使用人とも親しく接する人当たりの良さを持っている。


 勇悟達がラディアスに召喚された時は誰よりも心を痛めてくれた。戦いとは無関係の彼らを戦争に巻き込んだ罪悪感があるのだろう。


 エミリアは率先して生徒達と関わり、親しくなった。特に愛美と凜とは直ぐに打ち解け、今では呼び捨て、時々お忍びで城下町に出かける程の仲になっていた。


 凜とエミリアは花束を献花台に置くと、合掌する。


 「久しぶりね、荒神くん。細かいことは愛美が報告したと思うけど、私から言いたいことは一つよ。愛美は時々無茶をする時もあるけど、誰よりも貴方の為に頑張っているわ。だから、愛美のことを頼むわよ」


 「アラガミさん、お久しぶりです。マナミはとても頑張っています。だからお願いします。どうかマナミを見守ってください」


 「凜ちゃん、エミリア……。ありがとう……」


 親友の優しさに心から感謝する愛美。


 「いいのよ」


 「そうだ、この近くに美味しい料理を出すお店がありますから一緒にいきましょう」


 「うん。また来るね、荒神くん……」


 そう呟いて、愛美達はその場を立ち去るのだった。



 ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 愛美達が墓参りを終えて暫くすると、三人の少年が煉太郎の墓石の前に姿を現す。加賀と遠藤、中村の3人組だ。


 「よう、落ちこぼれ! 死んでも俺達をイラつかせる奴だな!」


 加賀は愛美達が手向けた花束を踏みつけた。


 「櫻井さんに花を手向けて貰えるなんて憎たらしいぜ!」


 「ホントだな!」


 遠藤と中村も加賀に続いて墓石を蹴る。


 「それにしても、東郷の奴がいると無闇に櫻井さんに話し掛けられないな」


 「確かにな。もしかして、俺達がしたことに気づいたんじゃないか……?」


 「ま、マジかよ……」


 遠藤の言葉に中村が心配そうに言葉を発すると、加賀はニヤリと口角を上げる。


 「心配するなよ。俺達がしたと言う証拠は無いんだ。バレることは無いさ。それに、もし俺達のことが東郷にバレれば……あいつも消せば良いだけだ」


 「あ、ああ……」


 「そうだよな……」


 3人が不気味に笑っていると――


 「相変わらず物騒な話をしているね、君達は」


 「「「――ッ!?」」」


 突然の声に動揺が走る加賀達。


 「お前かよ……。急に話し掛けるなよ……」


 舌打ちをしながら加賀が声の方に視線を向けると、そこには道化のような格好をした男――ブレフがそこに立っていた。


 「それに、まだ人が出歩く時間帯に現れるな。誰かに見られたらどうするんだ……」


 幸い周囲に人はいない。


 「ははは、それは失敬失敬♪」


 相変わらずのふざけた態度に思わず睨む加賀達。


 敵である魔人族と繋がりがを持つことを周囲に知られれば、彼らは間違いなく終わりだ。だから密会の時はいつも慎重に行動していたのだが、ブレフはそんなこと関係無いと言った風な態度を取っているので加賀達は内心苛立っていた。


 「それで、俺達にいったい何の用だ?」


 「君達に渡しておきたい物があるんだ♪」


 ブレフは懐から三つの小瓶を取り出した。中には妖しい紫色の液体が入っている。


 「な、何だよそれ……」


 加賀が恐る恐る小瓶を指差す。

 

 「そんな不安そうな顔をしないでよ。これは僕の知り合いが作った薬品でね、飲めば力が増す効果があるんだよ」


 「力が増す……?」


 「そうそう。身体能力、魔力、異能の力が増すようになっている。凄いでしょ? これを次のバルロス迷宮での訓練で飲んでほしいんだ」


 「これを俺達に飲めと……?」


 「怪し過ぎるだろ……?」


 遠藤と中村が不安そうに呟く。


 「断ったら君達の秘密を皆にバラすよ? そうなれば君達の計画も無駄になるね~? いいのかな~?」


 躊躇う加賀達にブレフは脅迫する。


 「「「分かったよ……」」」


 彼らに拒否権は無かった。


 渋々加賀達は薬品を受け取った。


 「素直で宜しい! じゃ、用事が済んだから僕は行くね。バイバーィ♪」


 そう言い残して、陽光が雲間に隠れた一瞬のうちにブレフは消えていった。


 「チッ。あの野郎、調子に乗りやがって……」


 「まあ、今のうちは従っておこうぜ」


 「ああ、俺達の目的が果たされるその時までな」


 汚泥のような瞳をさせて3人はそう呟くのだった。

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