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落ちこぼれと呼ばれた超越者  作者: 四季崎弥真斗
1章 超越の始まり
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魔剣の力

 彼は数多く存在するゴブリンと呼ばれるモンスターとして生を受けた。


 その中でも彼は特別とも言える存在だった。生まれつき肌が黒く、成長も早い。そう、稀少種だったのだ。


 他のゴブリンより早く狩りを覚え、どのゴブリンよりも早くウォーリアーゴブリンに進化し、次期群れの長になるとまで言われていた。


 そんなある日、彼の巣穴は冒険者達に襲われた。


 何十匹の同胞が斬られ、焼かれ、殺される中、彼だけ生き延びた。


 彼は自分の人生を復讐に捧げると誓った。


 身体を鍛え、武器の扱いや防具を纏うことを覚えた。


 村人や野宿する冒険者から話を盗み聞きして言葉を習い、魔法を覚えた。


 軍隊が行う演習を見て、上手く群れを率いる方法を学んだ。


 全ては復讐の為に……。


 長い年月が過ぎ、遂に彼はジェネラルゴブリン(稀少種)に進化を果たした。


 しかし彼は、冒険者との戦いで重傷を負った。そして痛感した。まだ自分は非力な存在なのだと。


 ――足りない。力が足りない。もっと力が欲しい……。


 そう思っていた時、彼は魔剣を見つけた。


 洞窟で発見したその魔剣はジェネラルゴブリン(稀少種)に生き血を求めた。それと引き換えに力を与えると。


 ジェネラルゴブリン(稀少種)魔剣の力を振るい、次々と村人や冒険者を襲った。男は魔剣の生け贄として。女は軍勢を増やすための繁殖用として。


 こうしてジェネラルゴブリン(稀少種)は100匹を超えるゴブリンの軍勢を作り出し、野望の為に動き出した。


 まずは小さい村から襲い、男の村人や家畜で腹を満たし、女は殺さずに攫って犯し、孕ませゴブリンを生ませる。数を増やしたら次は街を襲い、最後は公都に向かって民を皆殺しにした後、そこにゴブリンの王国を築く。


 それこそジェネラルゴブリン(稀少種)の復讐であり、野望でもあった。


 そして、その野望の第一歩としてこのアルバ村を滅ぼそうとしたのだが……。


 「これで半分は片付いたか?」


 「煉太郎と私にかかれば楽勝だよ!」


 たった2人の少年と少女――煉太郎とフィーナによって阻まれることになった。


 長年かけて増やした百を超える軍勢の半分が僅か数分で蹂躙されるという異常。主戦力とも言えるウォーリアーゴブリンとメイジゴブリンは1匹も残っていない。


 更に村人達の加勢により軍勢の3分の2以上が殺される。


 予想外の出来事に憤りを感じるジェネラルゴブリン(稀少種)。彼の胸の奥にどす黒い感情が沸き起こる。


 (もっと力を! こいつらを殺せる程の力が欲しい!)


 そんな彼の想いに共鳴するかのように魔剣が妖しげに光りだす。


 生き血を捧げろと。さすれば更なる力を与えると。


 ジェネラルゴブリン(稀少種)は配下のゴブリン達を生け贄にすると決めた。


 ここまで増やし、育てるのに苦労したが、今は自分が生き残ることを優先したのだ。復讐を成し遂げる為に。


 生け贄として次々と配下のゴブリン達を斬り捨てていくジェネラルゴブリン(稀少種)。魔剣はそれに答えるかのように力を彼に与える。


 そして彼は遂に、ゴブリン種の最上位に位置する存在――キングゴブリンへと進化を果たしたのだ。


 しかも、ただのキングゴブリンでは無い。


 今まで誕生したキングゴブリンの中でも異常とも言うべき個体だろう。


 稀少種なので本来のランクであるBからAに変わり、更に魔剣によって力を増大させている。その力はランクSに認定されるモンスター程にまでなっていた。


 今までにない力をキングゴブリン(稀少種)は感じると、不適に笑みを浮かべる。


 「我が力を見るが良い!」


 そう言ってキングゴブリン(稀少種)は煉太郎に向かって魔剣を振るう。


 「――ッ!」


 予想以上の素早さに煉太郎は咄嗟にカルンウェナンでその一撃を防ごうとする。


 しかし――


 キィン!


 カルンウェナンの刃が真っ二つに切断される。


 「何!?」


 高い硬度を誇るミスリルで出来たカルンウェナン。それが意図も簡単に切断され、思わず絶句する煉太郎。


 「死ね小僧!」


 「――ッ!?」


 再度煉太郎に向けて魔剣を振ろうとするキングゴブリン(稀少種)。


 「レンタロウ!? 〝サンダーランス〟!」


 フィーナが雷の槍がキングゴブリン(稀少種)に目掛けて放つ。


 「無駄だ!」


 キングゴブリンは(稀少種)は放たれた雷の槍を斬り裂き、消滅させる。


 「そんな、〝サンダーランス〟を……魔法を斬った……!?」


 魔法である〝サンダーランス〟を斬るという行為に驚きを隠しきれないフィーナ。


 その現象を見ていたドーンは驚いたように目を見開いていた。


 「間違いない……。あれは魔剣ヴェルシオン。魔力又は生命力と引き換えに所有者の力を増大させ、オリハルコンや魔法、ありとあらゆる物を斬ることが出来る幻想級の魔剣だ!」


 ドーンの説明に煉太郎は舌打ちする。


 「力を増大させるだけでなく何でも斬れる魔剣――チート過ぎるだろう……!」


 思わず声を荒げる煉太郎。


 「〝火球をここに――ファイアーボール〟!」


 魔法を発動するキングゴブリン(稀少種)。本来の威力よりも格段に威力が高い無数の火球が煉太郎に放たれる。


 「〝ウォーターウォール〟!」


 水の壁が煉太郎を火球から守るべく出現する。だが、火球の数が多すぎる。全てを防ぐことが出来ずに水の壁は消滅し、残った火球が煉太郎に直撃する。


 「ぐ、ああああああああ!」


 普通の者なら耐えらることが出来なかっただろう。それを防げたのは煉太郎が持つ驚異的な回復力と身に纏っている不死鳥のローブのお陰だった。


 しかし、今ので煉太郎はかなりのダメージを負ってしまった。仁王立ちしたまま全身から煙を噴き上げている。身体の至る所に重度の火傷を負っている。


 煉太郎はグラリと揺れると、そのまま前のめりに倒れこんだ。


 「レンタロウ!?」


 フィーナが倒れた煉太郎に駆け寄る。


 「レンタロウ!? しっかりしてレンタロウ!?」


 返事をしない煉太郎。微かに息をしているので死んではいないようだ。


 「ほう、今の受けてまだ生きているか。中々しぶとい奴だ」


 キングゴブリン(稀少種)が煉太郎達に近づく。


 「近づかないで! レンタロウにこれ以上酷いことは絶対にさせない! 〝ダークエンド〟!」


 右手をキングゴブリン(稀少種)に向けて、残りの魔力を全て使いきって闇属性の最上級魔法を発動させるフィーナ。


 右手から黒い球体が出現する。球体は徐々に大きくなる。球体がサッカーボール程の大きさまでになると、キングゴブリン(稀少種)に向かって放たれる。


 この球体は触れた物を跡形も無く消滅させる程の威力を持つ。これを受ければ流石にキングゴブリン(稀少種)でもただでは済まないだろう。


 しかし――


 「無駄だと言っているだろう!」


 一閃。キングゴブリン(稀少種)は魔剣を振るい、球体を斬る。斬られた球体は何事も無かったかのように消えてしまった。


 「小娘が!」


 「きゃあッ!」


 キングゴブリン(稀少種)に肩を掴まれ、尋常ではない力で投げ飛ばされるフィーナ。地面にぶつかって飛び跳ねる。


 「……痛い」


 柩から目覚めて初めて感じる痛み。あまりの痛みに目が眩む。


 「さあ、もっと苦しめ」


 「あ――つうっ!」


 顔を殴られ、腹を蹴られるフィーナ。口と鼻から血が出る。


 「これ以上我の邪魔をすると言うのなら貴様を殺す。それが嫌なら大人しくしていろ」


 「う……うう……」


 痛みと恐怖で身体が震える。しかし、フィーナはそれに耐えながら立ち上がる。


 「守る……。レンタロウは……私が守る……!」


 痛く、辛く、怖いがそれでもフィーナは煉太郎の盾になるようにキングゴブリン(稀少種)の前へと立ち塞がる。


 「レンタロウは、記憶の無い私に名前をくれた……。美味しい料理を作ってくれた……。故郷に連れて行ってくれると言ってくれた……。いつも優しくしてくれた……。レンタロウは……私の全てなの! だから、これ以上レンタロウを傷付けさせない!」


 そう言ってフィーナは恐れずに――恐れを飲み込んでキングゴブリン(稀少種)を睨み付けた。


 「そうか。ならば貴様から死ね、小娘」


 キングゴブリン(稀少種)は魔剣を高く掲げると、そのままフィーナに振り下ろす。


 (ごめんね、レンタロウ……)


 目を瞑りながらフィーナは煉太郎に謝罪した。先に死ぬことを。そして、煉太郎を守りきれなったことを……。


 魔剣の刃がフィーナに迫ったその時――


 ドパンッ!


 一発の銃声が響く。キングゴブリン(稀少種)の右肩を銃弾が貫いた。


 「がああああああッ!?」


 右肩を撃ち抜かれて、悲鳴を上げるキングゴブリン(稀少種)。


 がしっと後ろから抱きしめられて目を開くフィーナ。


 「――」


 「……レンタロウ?」


 煉太郎だった。


 「大丈夫か、フィーナ?」


 「私は平気だよ……。でも、レンタロウは……」


 煉太郎の怪我は殆ど治っていない満身創痍の状態だ。恐らく煉太郎の回復力が追い付かない程の重傷だったようだ。実際、煉太郎は気力だけで立っている。


 「後は俺に任せろ。危ないからフィーナは下がってな」


 「でも……!」


 「俺は大丈夫。必ず勝つから。だから信じてくれないか?」


 「……うん」


 煉太郎の強烈な意志の宿った言葉に、フィーナは頷き、後ろに下がる。


 そして――


 「てめえ……」


 ざわり――と、その時空間がざわめいた。


 恐れるように……。避けるように……。秒瞬の後、爆発しようとする何かから逃げるように……。


 煉太郎は肩を撃ち抜かれて悶え苦しんでいるキングゴブリン(稀少種)を睨み付ける。


 「何フィーナを傷付けてんだ、殺すぞてめえッ!!」


 咆哮は轟音に近かった。


 煉太郎の殺意が爆せる。まるで怒りが迸るかのように煉太郎から莫大な魔力が放出され、地面が砕ける。

 

 「――ッ! 何だ、この魔力は……!?」


 煉太郎の放つ魔力を感じて思わず後ずさるキングゴブリン(稀少種)。


 (どうしてこの男は我を前にして身を竦ませない!? どうして背を向けて逃げ出さない!? どうして我に立ち向かう!? こいつはいったい、何者なんだ!?」


 予想外の事態に困惑するキングゴブリン(稀少種)。


 身体が小刻みに震えている。それは恐怖によるものだった。魔剣を手にしてから感じていなかった感情。それをキングゴブリン(稀少種)は煉太郎から感じたのだ。


 (この男は殺さなければならない! 今すぐに!)


 煉太郎の危険性を本能で感じ取ったのか、キングゴブリンは止めを刺すべく動き出す。


 煉太郎もタスラムの銃口をキングゴブリン(稀少種)に向けると、直ぐ様発砲する。


 「チッ!」


 キングゴブリン(稀少種)は驚異的な反射神経で銃弾を避けると、タスラムを持つ右腕を斬る。


 だが、煉太郎から放出される魔力が切断部に集中すると、失ったはずの右腕が瞬く間に再生する。


 「化け物か!?」


 モンスターに化け物呼ばわりされると思ってもいなかったのか、苦笑いを浮かべる煉太郎。宙のタスラムを手にして連続で銃弾を発砲する。


 (失った部位を魔力で再生させるとは厄介だな……。ならば、これならどうだ!)


 キングゴブリン(稀少種は)放たれる銃弾を避けながら煉太郎に接近すると、魔剣を胸部に突き刺した。正確には心臓を。


 「がはッ!」


 口から血を吐き出す煉太郎。


 魔剣の刃は確実に心臓を貫いていた。胸元から夥しい量の血が流れ出る。


 「流石に心臓を貫かれれば一溜まりもなかろう!」


 今度こそ死んだ、とキングゴブリン(稀少種)は確信して笑みを浮かべる。だが、笑みは直ぐに動揺へと変わる。


 「残念……相手が、悪かったようだな……」


 苦しげに言葉を発する煉太郎。


 「バカな!? 有り得ない!?」


 心臓を貫かれても未だに死なない煉太郎。


 (こいつから離れなければ!)


 そう思い、キングゴブリン(稀少種)は魔剣を引き抜こうとするが――


 「逃がすかよ……」


 ガシリとキングゴブリン(稀少種)の腕を掴み、逃がさないようにする煉太郎。


 魔剣で胸部を貫かれたまま、煉太郎はタスラムの銃口をキングゴブリン(稀少種)に向ける。


 「俺の生を邪魔する奴は誰であろうと容赦しない。だから、死ね」


 そう言ってありったけの魔力をタスラムに込めて引き金を引いた。


 ズドン!


 爆発音と共に魔力を纏った銃弾が放たれ、キングゴブリン(稀少種)の頭部を粉砕した。


 頭部を失った身体は魔剣を手放すと、ビクンと痙攣した後、倒れた。


 「おお……」


 倒れたキングゴブリン(稀少種)を見て、ドーンは頬を緩める。


 「「「「「「「「「「やったぁぁぁっ!」」」」」」」」」」


 割れんばかりの歓声を上げる村人達。


 「流石に……心臓は……キツいな……」


 煉太郎は胸部に突き刺さっている魔剣を抜く。魔剣が抜かれると嫌な音と共にまた血が噴き出す。


 魔剣を抜き終えると、煉太郎は力尽きたかのようにその場に倒れ込む。


 「レンタロウ!?」


 フィーナが煉太郎に駆け寄る。


 大量の血を流したせいか、意識が薄れていく。


 「レンタロウ!? しっかりして!?」


 フィーナの呼び掛けが響く中、煉太郎は意識を失うのだった。

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