フウラの実
「これは……凄いな……」
「どうしたのレンタロウ?」
「いや、モンスターの気配が多くてな……」
結界から一歩出た瞬間に煉太郎が感じたのは圧倒的な数のモンスターの気配だった。
マーディンの実験により煉太郎は、五感以外にも第六感も向上している為、森中に漂うモンスターの気配を感じることが出来るようになっていた。
煉太郎は幼少の頃から父親の祖父母が住む東北の田舎町によく帰省しており、川や山で遊んだ。
山には鹿や狐、猿、兎、猪などの動物達を見るのもそう珍しくなかった。少し山奥の方まで行けば熊が発見されることもあった。
しかし、今煉太郎が感じているモンスターの数はそれを遥かに凌駕する程の量だった。しかも、それら全てが敵意、殺気にも似たものだった。
「流石は危険地帯にも指定されるいる森なだけはあるな。モンスターがうようよいるのを感じられる。これは早いところこの森から出る必要があるな……」
そう言って煉太郎はふと空を見上げる。
(本当なら俺がフィーナを背負って空を飛んで村まで行くのが手っ取り早いんだが……それは無理っぽいか)
マーディンの手帳によればこの人喰いの森の周辺の空には地上にいるモンスターよりも遥かに危険な主が生息している。それはドラゴンだ。
ドラゴンはモンスターの中でもトップクラスの危険性を誇るとされている。1番弱い種類のドラゴンでもランクCもある。
この森付近に生息するドラゴンはランクAもあるのだ。まだ今の身体に馴染んでいない煉太郎には正直強敵過ぎる相手とも言えるだろう。
(俺だけなら何とかなるかもしれないが――)
チラリと隣にいるフィーナに視線を向ける。
(フィーナを守りながらは流石に難しいか……)
煉太郎だけならドラゴンから逃げ切れる可能性は高いだろう。しかし、フィーナを庇いながらとなるとその可能性はかなり低くなるだろう。
(それを考えるとやはり森を突き抜けるしかないか……)
周囲を確認しながら煉太郎は異空間から導きの羅針盤を出す。
「確か目的の場所を念じれば針が示すんだよな?」
煉太郎は目的地のアルバ村を脳裏に浮かべる。
すると、導きの羅針盤の針が独りでに動き出した。針は一周ぐるりと回ると、北東を示して動かなくなってしまった。
「おお。便利だなこのマジックアイテムは」
感嘆の声を上げる煉太郎。
煉太郎はフィーナと共に導きの羅針盤の針に従って森の中を歩き始めた。
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
森には道らしき道はない。
モンスターによって作られた獣道があり、見上げる程高い大木が多数生えているので適当な間隔があるので多少は苦労するが、歩けないという程でもない。
しかし――
「少し休憩するか、フィーナ?」
自分の後ろを歩いているフィーナに視線を向ける煉太郎。
「はぁはぁ……大丈夫、だよ……レン、タロウけほっ、はぁはぁ……」
歩き出してまだ数十分ぐらいしか経過していないのだが、既にふらふらの状態のフィーナ。
どうやらフィーナの体力は煉太郎が思っていた程ないようだ。
「ん、あれは?」
煉太郎少し先にある黄色い果実が実っている樹を発見する。
「丁度いい。少しあそこで休むとしよう」
「う、うん……」
煉太郎はふらふらになっているフィーナと共に黄色い果実実っている樹に近づく。
煉太郎は手を伸ばして樹に実っている黄色い果実を手に取る。
色は黄色だが、見た目は林檎に似ている。
「これは確か……フウラの実だったな」
煉太郎はマーディンの書斎にあった植物図鑑に載っていた情報を引き出す。
『フウラの実』
エルバナ公国にしかない果実の一種で果肉は甘酸っぱくて非常に美味。
果実を絞った汁を使って飲料水にすることも出来る。
「これなら食べても大丈夫だな。フィーナ、これでも食べて少しでも体力を回復させておけ」
そう言って煉太郎は手にしたフウラの実をフィーナに渡す。
「ありがとう、レンタロウ」
渡されたフウラの実を一口食べるフィーナ。
「美味しい……!」
先程まで苦しそうだったフィーナの表情が和らいでいく。
「俺もいただくとしよう」
フィーナに続いて煉太郎もフウラの実に噛り付く。
「ほう、これは……」
噛んだ瞬間口の中に広がる爽やかな甘みと少しの酸味。見た目は林檎だが、味は蜜柑のような柑橘系に近かった。
「確かに美味いな」
予想以上に美味かったフウラの実。煉太郎とフィーナは満足するまでフウラの実を腹に収める。
フウラの実を食べてフィーナの体力も回復だいぶ回復したようだ。
「そうだ、旅の食料用に全部持っていくか」
そう言って煉太郎はフウラの実を手にして次々と異空間に収納し始める。
(ん、そう言えば……)
大半のフウラの実を異空間に収納し終えると、煉太郎はふとあることを思い出す。
それはフウラの実に関する最後の項目だった。
※ただし、フウラの実はモンスターも好んで食すので、もしフウラの実が実っている樹を見つけた場合は周囲にモンスターがいないかを確認する必要がある。
最後の項目を思い出した煉太郎の顔が引きつる。
「フィーナ、急いでここから離れるぞ。このフウラの実には――」
「グオオオオオオオオオオッ!」
すぐにフウラの実が実っている樹から離れようとする煉太郎だったが、何かの雄叫びのようなものが周囲一帯に響き渡る。
「――チッ! 遅かったか。しかしこの雄叫びは……」
それは煉太郎にとって聞き覚えのあるものだった。
「まさか、こんなところにも生息しているとはな……」
雄叫びの主が姿を現した。
「ヒト、ノニク、 ダ……」
2メートルを超える巨躯に青色の肌。腐臭が漂う口から生えている鋭い歯。額に生えている角。右手には巨大な棍棒を持っている。
そいつはかつてバルロス迷宮で煉太郎の右腕を切り落とし、苦しめた同じ種類のモンスターであるオーガだった。




