責任
「ごちそうさまでした!」
満面な笑みを浮かべて手を合わせるフィーナ。
「お、お粗末さま……」
煉太郎は満足そうにしているフィーナに頬を引きつらせながら言う。
テーブルの上には皿の山が置かれていた。フィーナはたった1人で数十人分の料理を平らげてしまったのだ。
(いったい、この細い身体のどこにこれだけの量が入るんだろうか……?)
不思議に思う煉太郎。
「? どうしたのレンタロウ?」
「いや、これだけの料理を一人で平らげるのは凄いなとおもってな……」
どう考えても、フィーナの胃袋に収まる量ではない。異世界は不思議なことだらけだと思う煉太郎。
「あんまり美味しくて、つい夢中になって食べちゃった。特にオムレツが一番美味しかったよ!」
「そ、そうか……」
自分の作った料理を褒められて照れくさくなって頬を掻く煉太郎。
「それにしても、レンタロウは料理が上手なんだね」
「ああ、元の世界では俺が料理を作ることが多くてな。ある程度の料理は作れるぞ」
「? 元の世界? レンタロウは別の世界の人なの?」
首を傾げながら訊ねるフィーナ。
「ん? そう言えばまだ言っていなかったな。俺はこの世界――ラディアスの人間じゃない。地球という異世界から他の連中と一緒に勇者として召喚された人間なんだよ」
「レンタロウ以外にも仲間がいるの? でも、ここにはレンタロウだけしかいないよ? 他の勇者達はどこにいるの?」
「あ~、それはだな……。面白くないが、聞くか?」
「聞く!」
興味津々のフィーナの質問に煉太郎は答える。
魔王討伐の為にクラスメイトと共にこの世界に召喚されたこと。
自分が他のクラスメイトに比べて劣っていて周囲から落ちこぼれと呼ばれて蔑まれていたこと。
悪意のあるクラスメイトに貶められてダンジョンに取り残されてモンスターに襲われたこと。
イカれた魔術師の実験体にされて人外の存在になってしまったこと。
少し愚痴を言いながら煉太郎は全てをフィーナに話した。
フィーナは煉太郎の話を聞いている最中に息を呑んだり、悲しそうな顔をしたりと、真剣に煉太郎の話を聞いている。
「ぐす、酷い……レンタロウ、辛い思いをしたんだね……」
鼻を啜りながら涙を溢しているフィーナ。
煉太郎は思わず手を伸ばして涙を拭くと、苦笑いを浮かべる。
「フィーナは優しいんだな。ありがとう」
煉太郎は自分の為に泣いてくれるフィーナの頭をそっと撫でる。フィーナの優しさが煉太郎には嬉しかったのだ。
「俺はどうしてもオルバーン王国に戻らないといけないいんだ。必ず俺を貶めた連中に必ず復讐すると決めたんだ。それに、元の世界に帰るにはオルバーン王国にある召喚の祭壇というマジックアイテムが必要だからな」
煉太郎の故郷に帰りたいという言葉に、フィーナはピクリと反応する。
すると、何かを決意したかのように煉太郎に訊ねた。
「レンタロウの世界……私も一緒に行っていい?」
「えっ? 俺の世界にか?」
「うん、私には過去の記憶が一切ない。どこにも帰る場所がない。だから私もレンタロウの世界に連れて行って」
どこか寂しげな表情のフィーナの様子を見て、煉太郎は頭を掻いた。
「……分かった」
ポツリと呟いた煉太郎の言葉に反応するフィーナ。
「本当? いいの?」
煉太郎の言葉に期待の色が宿る美しい蒼い瞳に見つめられて何となく落ち着かない煉太郎は話を続ける。
「ああ。フィーナを目覚めさせたのは俺だからな。責任は取るつもりだ。だから、俺と一緒に来い、フィーナ」
「うん!」
先程まで悲しげな表情が嘘のように、花が咲いたかのように微笑むとフィーナは煉太郎に抱きついた。
「――ッ!?」
突然抱きつかれて内心で動揺する煉太郎。生まれてこの方女の子に抱きつかれるという経験がなかったせいか、免疫がないのだ。
(む、胸が……)
豊かで柔らかい2つの感触を感じる煉太郎。その表情はまるで茹で上がった蛸のように真っ赤であった。
「どうしたのレンタロウ? 顔が赤いよ?」
「な、何でもない!」
「?」
赤面して目を逸らす煉太郎にフィーナは首を傾げるのだった。