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落ちこぼれと呼ばれた超越者  作者: 四季崎弥真斗
1章 超越の始まり
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トレント戦 後編

 「そうはさせないよ!」


 そう叫んだのは愛美だった。


 「〝天から清らかなる雨をここに降らせ――ウォーターレイン〟!」


 愛美は水系統の中級魔法である〝ウォーターレイン〟を発動させる。マタンゴの周辺だけ豪雨のように水が落ちていく。


 「「「「「「「「「「ロロロロロロロロロロッ!」」」」」」」」」」


 豪雨によって全身を水浸しにされたマタンゴ達。その身体から胞子が飛び立つことはなかった。


 「良くやった愛美! 行くぞ皆!」


 マタンゴの1匹に勇悟はエクスカリバーを振るい、マタンゴの頭部と思われる部位を切断する。


 「ロロッ!」


 頭部を切断されたマタンゴは短い悲鳴を上げて絶命する。


 「胞子さえなければただの動くキノコね!」


 勇語に続いて凜もマタンゴの1匹を白雪で斬り裂いた。


 「このキノコ野郎が!!」


 「よくもやりやがったな!!」


 「残らずぶっ殺してやるよ!」


 身体に付着した胞子によるダメージを愛美の異能で回復した加賀と遠藤、その友人である中村の3人組もマタンゴに攻撃を仕掛ける。


 先程の胞子攻撃が相当腹が立ったのだろう。加賀と遠藤の目が血走っている。


 「俺達も勇悟達に続け!」


 「「「「はい!」」」」


 レクター団長を含む若手騎士4人も加わり、マタンゴの群れは一気に蹂躙されていった。


 残りはトレント1匹となった。


 「決着を着けてやる! 〝破邪の力を宿す光よ、ここに集いて悪しき者を討ち滅ぼす聖なる極光を放ちたまえ――セイクリッドセイバー〟!!」


 勇悟が振るうエクスカリバーから放たれる極光がトレントへと直撃する。


 轟音と爆発。周囲が白い煙に覆われる。


 「どうだ!」


 勇悟は会心の笑みを浮かべる。


 しかし、粉塵が晴れたその先には――


 「オオオオオオオオオオッ!!」


 無傷のトレントの姿がそこにあった。


 「――なっ!? 嘘だろ!?」


 勇語の声が虚しく響き、激しく動揺する。


 光系統の上級魔法である〝セイクリッドセイバー〟は現在勇語が修得している魔法の中でも断トツに威力が高いものだ。


 そんな勇悟の一撃を受けても無傷という事実にショックを受けたのか、思わず立ち竦む勇悟。


 他の生徒達も勇悟の一撃が全くトレントに通じなかったことに動揺している。


 すると、愛美が何かに気がついたように声を張り上げた。


 「勇悟くん見て! 今の一撃、どうやら直撃していなかったみたいだよ!?」


 「何!?」


 勇悟が愛美の視線を辿ると、トレントの周辺にうっすらと光る壁が構成されていた。


 先程の勇悟の一撃はトレントに直撃することなく、この壁によって防がれたようだ。


 「け、結界だと!?」


 勇悟の〝セイクリッドセイバー〟にも耐えられる程の結界を張り巡らせていることに驚く勇悟達。その中でも特に驚いているのはレクター団長だった。


 (トレントが結界を張るだと……!? まさか稀少種か……。 いや、稀少種なら倍以上の大きさはあるはずだ……。それに稀少種のトレントでも結界を張ることは出来ないはず。なら、このトレントはいったい何なんだ……)


 レクター団長の予想通り、現在対峙しているトレントは稀少種ではない。では何故、トレントが結界を張ることが出来たのか。それはレクター団長にも分からなかった。


 「オオオオオオオオオオッ!!」


 怒号にも似た咆哮を上げて、トレントは動揺している勇悟達に攻撃を再開した。


 「ぐぬぅ……!?」


 振り下ろされる枝によるトレント猛攻を必死で耐える勇悟。


 先程放った〝セイクリッドセイバー〟により魔力を使い過ぎたようで思い通りに力が入らない。


 (このままではマズイ……! どうすればいいんだ……!)


 どうにかしてこの難局を打開出来るのかを頭をフル回転させる勇悟。


 そんな勇悟の様子を見て凜が叫んだ。


 「勇悟! 『限界突破』を使いなさい!」


 「なっ!? ダメだ、発動するまで時間が掛かる!」


 勇悟の有する異能の1つ『限界突破リミットオーバー』。


 発動するまでおよそ1分間意識を集中させなければならない。


 その間の勇悟は無防備といってもいい状況になってしまうのだ。そんな状況で1分間無防備になるのは危険過ぎるだろう。


 「この状況を覆すにはそれしかないわ! 私達が全力で守るから大丈夫よ! 信じなさい!」


 「……凜」


 凜の必死の説得に覚悟を決める勇悟。


 「分かった! 頼むぞ!」


 勇悟はその場で目を瞑り、仁王立ちなって意識を集中させて『限界突破』の発動準備を開始する。


 「任せなさい! 皆、勇悟を守るのよ!」


 「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」


 「オオオオオオオオオオッ!!」


 トレントは本能的に勇悟がしようとしていることに危険を察知したのか、勇悟に目掛けて枝を振り下ろす。


 「させないわ!」


 「邪魔するな!」


 勇悟に目掛けて振り下ろされた枝を防ぐ凜と剛田。


 「私達もいくよ!」


 「うん!」


 「ええ!」


 「分かりましたわ!」


 後衛の愛美と早乙女、天野、有栖川の4人も遠距離からトレントに攻撃を仕掛ける。


 「俺達を無視してんじゃねえよ!」


 「食らいやがれ!」


 「おおおおおっ!」


 加賀達3人組もトレントを挑発するように攻撃する。


 「お前達、必ず勇悟を守るんだ!」


 「「「「はい!」」」」


 レクター団長も勇悟に迫るトレントの猛攻を防ごうと、全力で護衛に徹する。


 そして、勇悟が意識を集中させてから一分が経過した。


 目を開き、エクスカリバーとマジックソードの柄を強く握り、大きく息を吸うと、勇悟は叫んだ。


 「『限界突破リミットオーバー』発動!!」


 カッ!!


 勇悟から凄まじい光が溢れ出し、それが奔流となって天井へと竜巻の如く巻き上がる。消耗しかけていた体力と魔力が嘘の様に癒える。


 「す、凄い……」


 そう呟いたのは若手騎士のアレインだった。彼の有する異能『魔力感知センサー』によって勇悟の魔力を感じ取っていた。先程までとは比べ物にならない程の魔力を。


 勇悟は鋭い眼光でトレントを睨みつけた。それと同時に竜巻の如く巻き上がっていた光が勇悟の身体へと収束されていく。


 「これで終わりだ! 〝破邪の力を宿す光よ、ここに集いて悪しき者を討ち滅ぼす聖なる極光を放ちたまえ――セイクリッドセイバー〟!!」


 先程放たれた極光よりも遥かに強力な極光が地面を抉りながら真っ直ぐトレントへと直進する。


 トレントは結界を張って極光を防ごうとするが、まるでガラスが割れるかのように結界は砕け散ってしまう。


 「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?」


 トレントは断末魔のような悲鳴を上げながら極光に包まれる。極光が消えるとトレントの姿はなかった。消滅したようだ。


 勇悟は背筋を伸ばし、エクスカリバーを頭上へと真っ直ぐ掲げた。


 「勝ったぞ! トレントを倒したぞ!」


 輝くエクスカリバーを掲げながら勝鬨を上げる勇悟。


 他の生徒達もその声に勝利を実感したのか、一斉に歓喜の声を上げる。


 男子生徒達は肩を組み、女子生徒達はお互いに抱き合って喜びを露にしている。


 「皆、良く頑張ったな、今回の訓練はここまでにする! 全員、地上に帰還するぞ!」


 「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」


 レクター団長の指示に従って一行は転移用魔法陣に入り、地上へと帰還する。


 今回の実戦訓練は無事に終了するのだった。



 ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



 ――とある宿屋の一室。


 ブレフはアルセリオに今回の勇者一行による実戦訓練による報告をしていた。


 『なるほど、勇者達も少しは成長しているようだな。やはり、仲間の死が切っ掛けか』


 「そうだね~。仲間が死んでちょっとはやる気が出たみたいだよ。ま、それでも僕達魔人族には到底及ばないけどね。トレントくらいで苦戦しているようではまだまだ力不足だね~」


 ケラケラと笑うブレフ。


 煉太郎が死んだとされた日から1ヶ月が経過し、勇悟達は更なる過酷な訓練により目まぐるしく成長していた。


 しかし、ブレフによる勇者一行の評価はまだまだ低いようだった。


 『それで、例の薬の効果はどうだ?』


 アルセリオが問うと、ブレフはニヤリと笑みを浮かべて懐から不気味な緑色の液体が入った小瓶を取り出した。


 「ロンダーヌが作ったモンスターを強化させるこの薬、なかなか面白い結果が出たよ~。雑魚のトレントがまあまあ強くなったかな。まさか結界を張る能力を使えるようになるなんて、ちょっと予想外だったかな。これで失敗作だなんて全く信じられないよ~」


 二十階層で勇者一行と対峙したトレント。本来なら結界を張る能力を持つはずないトレントが結界を張るという異常。どうやら全ては魔人族によるものだったようだ。


 『そうか。変人と呼ばれていても魔人族随一の頭脳を持つだけのことはあるか。来る日の為に薬の完成を急がさねばならぬな。実験の資料は後ほどこちらに送れ。それと勇者達の監視を怠るなよ』


 「了解了解~♪」


 『頼んだぞ。この世界を我ら魔人族の手に』


 「我ら魔人族の手に♪」

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