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落ちこぼれと呼ばれた超越者  作者: 四季崎弥真斗
1章 超越の始まり
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再びバルロス迷宮へ

 少し時間を遡る。


 煉太郎が1ヶ月に及ぶ実験の末に目覚めた頃、オルバーン王国にいる勇者一行は――


 「よし、もう少しで20階層にある転移用魔法陣に辿り着く。皆、頑張れよ!」


 「「「「「「「「「「「はい、レクター団長!」」」」」」」」」」」


 再びバルロス迷宮に挑んでいた。


 現在、勇者一行は20階層まで到達していた。


 20階層は今までの洞窟とは違い、全体が草木に生い茂られている広大な森林系の階層になっている。


 モンスターの数が非常に少なく、ポーションなどを作るために必要な薬草が生えているので、冒険者には人気のある階層の1でもある。


 順調にダンジョンを攻略しているように見えるが勇者一行だが、煉太郎が死んだとされたあの日から数日の間はまともに訓練が出来る状態ではなかった。


 愛美が目を覚ました翌日に勇者一行は王都・バレリウムへと戻った。


 現段階ではとてもダンジョン内で実戦訓練の継続は不可能だとレクター団長が判断したからだ。


 それに『落ちこぼれ』とは言え勇者の1人である煉太郎が死んだ以上、国王に報告する必要があった。


 勇者の1人が死亡したという報告があった時、国王を含む重鎮達は誰も彼もが愕然としたが、それが『落ちこぼれ』の煉太郎だと知ると安堵の息を漏らした。


 世界を救うはずの勇者達がダンジョンで死ぬことなどあってはならぬことだ。勇者達は誰よりも強い存在でなければならないのだ。


 重鎮達の中には煉太郎の罵る者がいた。


 やれ勇者の一人でありながら無能だっただの。やれ死んだのが落ちこぼれで良かっただの。勇者の恥さらしだの。


 公の場で発言したものではなく、物陰でこそこそと重鎮達は好き放題に煉太郎を貶していたのだ。


 それを聞いた愛美は憤怒に駆られて重鎮達に手を出すという事件が起きた。その後、愛美を含む凜と勇悟が激しく抗議したことで国王はこれ以上悪い印象を持たれるのはマズイと判断したのか、煉太郎を悪し様に罵った重鎮達に厳しい処分を与えることにした。


 しかし、煉太郎は他の勇者の足手まといになっていた『落ちこぼれ』という評価は変わることはなく、逆に勇悟達は『落ちこぼれ』にも心を砕く勇者であると噂が広まることになった……。


 変化はそれだけではなかった。


 『死』というものを強く実感させられてしまったのが原因で、訓練を拒む生徒が現れた。


 当然、王国関係者はいい顔をしなかった。


 傷付くのは一時だけ、時間が経てば癒える、また戦えるだろうと、毎日のように復帰を促してきた。


 しかし、人は1度心に傷を負えばなかなか立ち直れないもの。一種のトラウマというやつを抱えてしまったのだ。


 そんな中、ある生徒が再びバルロス迷宮に挑みたいと言い出した。


 その生徒は勇悟だった。


 煉太郎の死をいつまでも引きずってはいられない。 


 魔王を倒して元の世界に帰還する。それが死んだ煉太郎の弔いになる。そのためには訓練を継続すべきだと勇悟は熱弁を振るう。


 元々実戦訓練を継続するつもりだった愛美と凜も再度バルロス迷宮に挑むと言い出し、他の生徒も勇語の熱意ある言葉が心に響いようで、再度バルロス迷宮に挑むことを決意させることになった。


 ちなみに今回も若手騎士団員達も参加している。


 「……愛美、大丈夫? ちょっと無理しすぎてない?」


 隣を歩いている愛美に飲料水が入った水筒を手渡して呼び掛ける凜。


 「心配しなくても、私は全然大丈夫だよ」


 凜から水筒を受け取り微笑む愛美。


 しかし、凜にはどうしても愛美が無理をしているように見えて心配になってしまう。


 煉太郎が死んだとされるあの日から愛美は変わってしまった。


 元々争い事が苦手な性格だった愛美。しかし、今では皆が止めたくなるくらい率先して訓練に打ち込んでいるのだ。


 (今の愛美に何を言っても無駄のようね……)


 あの日、愛美は魔王を討伐することを心に誓った。煉太郎の仇を討つ、と。愛美は一度決めたことは絶対に曲げない頑固者だ。そんな愛美の性格を知っているからこそ、もう何を言っても無駄だと凜は判断した。


 「無理はしないでね愛美。何かあったら遠慮なく相談しなさい」


 凜もまた愛美に微笑む。


 「うん、ありがとう凜ちゃん」


 愛美と凜が会話していると、3人の生徒が割り込んできた。


 「櫻井さん、先程美味しい果実を見つけたんだ。1つどうだい?」


 「ずるいぞ加賀。櫻井さん、そんな果実よりこっちの薬草なんてどうだい? 地上に持ち帰ったら高く売れるよ」


 「櫻井さん、これを見てくれよ。綺麗な花だろう? 受け取ってくれないか?」


 加賀、遠藤、中村だ。


 煉太郎の死んだあの日以来、加賀達は愛美に熱烈なアプローチを掛けていた。


 「うん、ありがとう。でも、私には必要ないから他の皆にあげたらどうかな?」


 穏やかに断りを入れる愛美。


 愛美は加賀達に好印象を抱いていていなかった。むしろ軽蔑していると言ってもいいだろう。


 やはり、加賀達が煉太郎をリンチしていたイジメ事件が一番の原因だろう。


 それでも加賀達は食い下がろうとするが――


 「いい加減にしなさい」


 愛美に乗じて凜も加賀達に答える。


 「愛美が必要ないと言っているんだから、これ以上愛美に付きまとわないでくれないかしら。目障りだから……」


 凜のキツイ言葉と冷たい眼差しに加賀達の表情は曇り、ぶつぶつと独り言を言いながら去ってしまった。


 「ありがとう、凜ちゃん……」


 「いいのよ。あんな連中はハッキリ言わないと分からないのよ。それに、前から私もあの三人が気に入らなかったから……」


 凜も愛美と同様に加賀達のことを快く思っていなかった。


 地球にいた頃から煉太郎にちょっかいを出していたことは知っていたし、このラディアスに召喚されてからの加賀達は強力な異能を手に入れ、更に王国関係者達に煽られて天狗になっていた。


 それに、時々愛美を見つめるその目は狂気的な光を放っていることに凜は気づいていた。


 (どうもあの3人のことが気になるのよね……。荒神くんが亡くなった日から愛美に何度もアプローチを掛けきた。もしかして……)


 凜は1つの推測を考える。


 (荒神くんの死に……あの3人が関わっているんじゃないかしら……)


 大正解を言い当てる凜。


 しかし、今の時点では証拠が何一つないので確証は出来ない。


 (どちらにせよ、あの三人には警戒しておいた方がいいわね。それと、今の推測は愛美に話さないようにしないと……)


 いつものようにニコニコとしているように見える愛美だが、心の底では煉太郎の仇を討つことに執着している危険な状態でもあった。


 もし、凜の推測を愛美に話せば加賀達に何を仕出かすか分から1ない。それほど今の愛美は危うい状態なのだ。


 「? どうかした? 凜ちゃん?」


 急に立ち止まり、黙り込む凜に首を傾げて尋ねる愛美。


 「な、何でもないわよ。さあ、行きましょ、愛美」


 「ふふ、変な凜ちゃん」


 くすりと笑う愛美。


 (どうやら、僕が思っていたよりも櫻井は大丈夫なようだな……)


 そんな妃2人のやり取りを微笑ましそうに眺めているのは勇悟だった。


 煉太郎の死が原因で愛美の様子が変わってしまったことに勇悟は痛ましく思っていた。


 しかし、最近ではいつもの明るい愛美に戻っていることに安心感を抱く勇悟。


 どうやら勇悟には愛美が煉太郎は死んだという悲惨な出来事を完全に乗り越えたと思っているようだ。


 愛美が未だに煉太郎が死んだ暗い過去を引きずっていることも知らずに……。


 「お、あれって魔力草じゃないか?」


 そう言って歩を止めるのは剛田だった。


 視線の先には紫色の草が生えている。


 『魔力草』


 大気中に漂う魔力を吸収して育つ薬草で、魔力を回復させるマナポーションを作るために必要な素材の1つなので稀少とされている。


 剛田は土を手で掘り返して、根っこが千切れないよう慎重に採取する。


 「お~い天野! ちょっと来てくれ!」


 剛田の呼び掛けに溜息を吐きながら近寄る天野。


 「もうまた? いい加減にして欲しいのだけど?」


 「仕方がないだろ? アイテムポーチを持ってるのは天野なんだからよ」


 天野が持っている『アイテムポーチ』はいわゆるアイテムボックスの一種と呼ばれている代物だった。特殊な素材とドワーフ族の『錬金』という特殊な技術によって造られた袋で、通常では考えられないほどの多くの物を収納出来るようになっている。


 「それにしても本当に便利ですよね、そのアイテムポーチ。私も欲しいですわ」


 羨ましそうにアイテムポーチを見つめて有栖川は呟いた。


 「でも、荒神の『異空間収納ストレージ』みたいに収納出来る量は限られてるからね……」


 天野の持っているアイテムポーチは100キロまでの物を収納出来た。対して煉太郎の『異空間収納ストレージ』は無限に物を収納出来た。雲泥の差である。


 「天野さん、荒神くんのことは迂闊に喋らないよう凜お姉様に言われたでしょ!? 櫻井さんに聞かれちゃうよ……」


 慌てて天野の口を塞ぐ早乙女。


 愛美の前では煉太郎の話をしない。それが暗黙の了解になっていた。凜が皆に、極力愛美の前では煉太郎のことを話さないようにと頼んだのだ。


 煉太郎が死んだとされた日の愛美の取り乱し様に、愛美の気持ちを悟ったため、凜の頼みを快く受け入れた。


 「ごめんごめん、ついうっかり……」


 「もう、次からは気をつけてね。凜お姉様に迷惑を掛けたくないんだから」


 凜に『お姉様』をつける早乙女。前回のバルロス迷宮でソルジャーアントから凜に助けられた時、早乙女は完全に惚れ込んでしまったのだ。


 流石に同級生から『お姉様』と言われるのは嫌だったので止めるように言ったのだが、早乙女はそれを断固拒否。渋々だが凜はそれを了承することになった。


 「あれが転移用魔法陣じゃないか?」


 暫く進むと、転移用魔法陣が見えてきた。


 生徒達は無事に辿り着いたことに安堵の息を吐く。


 「よし、今回の訓練はこれで終わりだな。全員、転移用魔法陣に――ッ!」


 レクター団長が転移用魔法陣に入ろうとした直後――突如地面から植物の根のようなものが飛び出してきた。


 反射的にその根を回避するレクター団長。


 更に転移用魔法陣を囲むように次から次へと植物の根が飛び出す。


 「転移用魔法陣が! 全員戦闘準備! モンスターだ!」


 鞘から剣を抜いて指示を出すレクター団長。


 すると、周囲の樹々に比べて明らかにサイズが異なる巨木が動き出した。


 樹の幹に顔がある様な姿で根を使って歩いている。


 「オオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 巨木モンスターが凄まじい咆哮を上げる。


 「現れたな、この20階層の主――トレント」

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