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落ちこぼれと呼ばれた超越者  作者: 四季崎弥真斗
1章 超越の始まり
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銀髪少女

 見た目の年齢は煉太郎と同い年ぐらいだろう。


 腰まで届く美しい銀色の髪。透き通るような白い肌。小ぶりな顔立ち。長いまつ毛。薄桃色の唇。程よく通った鼻筋。着ている白いドレス越しからでも分かる形の良い豊かな双丘。綺麗な長い脚。全てが完璧だった。


 「……」


 少女の美貌に思わず見惚れてしまう煉太郎だが、首を横に振って我に返る。


 「いやいや、何見惚れてんだ俺。女の子のはずがない。きっと人形か何かだろう……」


 自問自答していると――


 「すぅ……すぅ……」


 可愛らしい寝息が聞こえた。人形――少女は息をしていた。


 「人形じゃない、のか?」


 信じられないと思いながらも、煉太郎は恐る恐る少女の頬に触れる。柔らかな肌の感触と温もり。人形では決して感じられない、生身の感触だった。


 「……本当に、生きているのか?」


 そう煉太郎が呟いたその時――


 パチ。


 少女の閉じられていた瞳が開かれた。


 それは吸い込まれそうな、蒼く美しい瞳だった。


 一瞬、煉太郎は呼吸さえも忘れた。ただ、魅入られたようにその瞳を見続けていた。


 すると、少女は身体を起こすと、ジーと煉太郎を見つめ始める。


 煉太郎も何となく目があったまま逸らさずジーと少女を見つめ返した。


 「……」

 

 「……」


 意味不明な沈黙が暫く続いた。


 そして、その沈黙を先に破ったのは少女だった。


 「貴方は誰?」


 鈴を転がすような美声で少女は煉太郎の名を尋ねた。


 「……煉太郎。荒神煉太郎だ。お前は?」


 自分の名前を告げると、煉太郎も少女の名を尋ねる。


 「……」


 しかし、少女は黙りを決め込む。


 そんな少女の態度に苛立ちを覚える煉太郎。


 「おい、俺はちゃんと名前を教えたんだ。お前も名乗ったらどうなんだ?」


 いつまでも沈黙する少女に怒りを含めた声音で睨む煉太郎。


 すると、少女は首をふるふると横に振るう。


 「……分からない」


 「は?」


 「名前……分からない。名前以外のことも全然分からない……」


 「もしかして、記憶がないのか?」


 「……うん」


 煉太郎の言葉に少女はこくりと頷いた。


 「マジかよ……」


 少女の予想外の回答に煉太郎は唖然とする。


 (いやいや、記憶がないとかそんな都合のいいことなんて有りえるのか? もしかして、俺を騙すために嘘をついているのか?)


 少女の言っていることを素直に信用することが出来ないでいた煉太郎。


 厳重な封印が施されていた柩の中に入っていたのだ。何か訳ありの可能性が高いと煉太郎は考えていた。


 しかし、少女の真剣な表情は嘘を言っているようには見えなかった。


 (そうだ、確か嘘を見抜くマジックアイテムがあったな。あれを使ってみるか)


 煉太郎は先程異空間に収納しておいた真偽のオーブを取り出すと、再度少女に問い掛ける。


 「もう1度聞くぞ。本当に記憶がないのか?」


 「うん」


 少女の返答に真偽のオーブは――青い光を発する。青い光は真実を言っている証。どうやら少女の言っていることは本当のようだ。


 「どうやら嘘は言っていないようだな」


 溜め息を吐きながら煉太郎は真偽のオーブを異空間に収納する。


 「ねぇ、ここはどこ? どうして私は柩の中に?」


 少女が現在の状況を把握しようと煉太郎に質問する。


 「ここはエルバナ公国にある人喰いの森にある実験施設だ。俺がこの柩を開けたらお前が入っていた。どうしてこの柩に入っていたのかまでは知らん」


 少女の質問に淡々と答える煉太郎。


 「……そう」


 少女は沈んだ表情で顔を俯かせる。


 そして、ポツリと呟いた。


 「……だったら私に名前を付けて」


 「名前?」


 「名前が分からないなら、貴方に名前を付けて欲しい。お願い、私に名前を付けて」


 「急にそう言われてもな……」


 名前を付けろという突然の要望に困惑する煉太郎。


 そんな煉太郎を少女は期待するような目で見ている。


 煉太郎は腕を組んでどんな名前がいいか考える。


 そして煉太郎は少女の銀色の髪を見て、ある名前を口にする。


 「『フィーナ』なんてどうだ?」


 「……フィーナ?」


 フィーナとは、煉太郎が執筆しよう考えているラノベ小説に出てくる銀髪のメインヒロインの名前だ。


 初めて煉太郎が少女の姿を目にした時、その容姿がそのメインヒロインにそっくりだったからだ。


 「フィーナ……フィーナ……フィーナ……」


 少女はさも大事なものを内に刻み込むように繰り返し呟いた。


 「うん、今日から私はフィーナ。ありがとう、レンタロウ」


 嬉しそうな瞳を輝かせながら微笑む少女。どうやら気に入ったようだ。


 「お、おう……」


 そんな少女――フィーナに少しドキッとしてしまう煉太郎は少し照れくさくなって頬を掻く。


 これがいずれラディアスに伝説を残すことになる二人の出会いだった。

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