異能
「これから皆様の歓迎を祝する晩餐会を行う会場に案内します。私について来て下さい」
アルフレド国王との謁見を終えて、煉太郎達はエミリアに晩餐会が開かれる会場に案内された。
「ここが晩餐会を行う会場です」
その会場も例に漏れず煌びやかだった。
会場はとても広く、豪華絢爛な装飾がそこかしこに施されている。
立食形式のパーティで、テーブルに純白のテーブルクロスが敷かれ、その上には何百種類の料理やデザートが並べらてれている。
しかも礼儀作法弁えた熟度のメイド達が颯爽とグラスを配り歩いている。
日本が誇るオタクの聖地・秋葉原にいるようなメイドではない。本物のメイドだ。しかも全員美女・美少女で、男の夢を具現化したようなものだった。
男子生徒の大半はメイドに釘付けだ。やはりメイドというものはオタク関係なく、興味を持つものなのだ。
煉太郎も思わず凝視――しそうになるが、突然悪寒を感じて視線をメイドから逸らす。
チラリと悪寒のする方を見ると、満面の笑みを浮かべた愛美が煉太郎を見つめていた。
冷や汗が止まらない。
ニコニコと笑っているはずなのになぜか愛美に恐怖を感じる煉太郎。
ザワザワ……。
広場に入ってきた煉太郎達を貴族のような煌びやかな衣装を身を包んでいる者達がこちらに視線を向ける。
ここにいる者は全員、オルバーン王国の貴族や文官、武官といった重鎮達だった。勇者一行が召喚されたことで召集を受けたのだ。
「さあ皆様、今宵の晩餐会を存分にお楽しみください!」
エミリーナの言葉と同時に、煉太郎達は貴族達から積極的に声を掛けられる。
何せ煉太郎達はこれから世界を救うために召喚された勇者であり異世界から来た人間だ。彼らからすれば何とも興味をそそる存在なのだろう。
あわよくば個人的な繋がりを持ちたいという下心を持つ者もいれば、純粋に異世界について興味を持つ者もいた。
中でも勇悟と愛美、凛を中心に重鎮達は積極的に声を掛ける。どうやらこの3人の魅力は異世界でも健在のようだ。
「やあ、確か君はマナミ=サクライだったね。宜しければ私と一曲踊っては頂けないだろうか」
愛美に話し掛けてきたのは金髪の美少年――このオルバーン王国の王子であり次期国王と称されるクロウド=ダン=オルバーン殿下だった。
日本人離れした美貌に周囲の女性達は「ほぅ」と熱い吐息も漏らし、うっとりと見つめている。
クロウド殿下は玉座の間で愛美を一目で気に入ったようで、どうやらアプローチを掛けているようだ。
「私とですか? でも、私躍りなんて踊ったことがなくて……」
「心配しなくていい。私がリードする。さあ、こちらに……」
クロウド殿下が愛美の手を取ろうとすると――
「クロウド殿下、櫻井が困っています。離れてください」
勇悟が愛美とクロウド殿下との間に割って入る。
愛美との会話を邪魔されて、一瞬クロウド殿下の眉がピクッとなるが、微笑みは崩れない。
「ユウゴ=イチノセか。私は今、マナミと話しているんだ。邪魔しないで頂きたいのだが?」
「彼女が困っているのなら話は別です。僕は全力で貴方の前に立ち塞がります」
「……」
「……」
無言で睨み合ったまま動かない勇悟とクロウド殿下。周囲の人間はどうすればいいのか分からずにおどおどし始める。
そんな時――
「止めなさい勇悟」
「お兄様、皆様の前でみっともないですよ」
勇悟とは顔馴染みである凛とクロウド殿下の妹であるエミリアが止めに入ったことで何とか穏便に済ませることになったのだが、勇悟とクロウド殿下は互いに馬が合わないと感じ、暫く不機嫌だった。
凛とエミリーナは互いに境遇が似ているからなのか、すっかり意気投合することになった。
色々あったが、その後は異世界の料理を存分に味わうことになった煉太郎達。
殆どの料理は地球の洋食料理と変わらなかったが、たまに虹色に輝くジュースや青色のソースが掛かった料理が出て困惑することもあったがどれも非常に美味しく、生徒達は満足し、有意義な晩餐会となった。
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
晩餐会が終わり、それぞれの部屋に案内される煉太郎達。
壁には高そうな絵画が複数飾られており、床にはふかふかな絨毯、天蓋付きのベット、豪華なランプが置かれていた。
ここがもし地球だったら一泊数万円はすると思わせる部屋に、煉太郎は心底驚いた。それは他のクラスメイトも同じだろう。
煉太郎は豪華な部屋にイマイチ落ち着けなかったが、それ以上の疲れに思わずベットに寝転がる。
突然魔法とは無縁の地球から異世界に召喚され、勇者として魔王を討伐ことになり、晩餐会では貴族達に色々と質問攻めになったりしたのだ。疲れが出るのも当然だろう。
(しかし、本当に異世界に召喚されるとはな……)
天井を見上げながら、そう思う煉太郎。
煉太郎にとってファンタジー世界は憧れであり、夢でもあった。
そんな世界が存在しないと分かっていてもその手の漫画や小説を読んでは夢想することもあった。
そんな煉太郎であるから、異世界に召喚された事実を理解した時は嬉しかった。
――叶うはずがない夢が叶ったのだと。
そして自分には異能という特殊な力が備わっているということ、魔法が使えることが煉太郎をさらに奮い立たせた。
(まだどんな異能なのか分からないけど、王様の話では強力な異能が備わっているらしいな。明日の訓練前に調べると言っていたけど、どんな異能なんだろうな……)
明日から魔人族との戦争に備えて、訓練が始まる。
魔王討伐を決意した以上、煉太郎達は戦う術を学ばなければならない。
しかし、いくら強力な力を有しているといっても煉太郎達は戦争とは無縁の生活を送っていたのだ。いきなり魔人族と戦うのは危険過ぎる。
明日の予定は午前を座学に、午後を訓練に分けている。その訓練前に煉太郎達がどのような異能を有しているのかを調べることになっている。
(考えても仕方ない。今日はもう寝よう……)
煉太郎は室内用のランプに手を伸ばして灯りを消すと、そのまま意識を落とした。
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
翌日。
午前中の座学(魔法に関する基礎知識)を終えた煉太郎達は午後の訓練のため、訓練所に案内された。
「オルバーン王国の騎士団団長のレクター=バルドスだ! 今日から皆の指導をすることになった! よろしくな!」
レクター=バルドス。37歳。
彼はわずか20歳という若さで騎士団長になった傑物で『オルバーン王国最強の騎士』と呼ばれている。
国に対する忠誠心は誰よりも厚く、民や騎士団員にも慕われている。
そんなレクター団長が煉太郎達の教官として抜擢された。勇者一行を訓練するのにこれ以上の人物は他にはいないだろう。
「早速だがこれを使って皆の異能を調べさせて貰うぞ」
そう言ってレクター団長はソフトボール程の大きさの水晶玉を取り出す。
レクター団長が取り出した水晶玉は異能を調べるマジックアイテム(魔法が付与された道具)だ。異能を有するものが触れると光り、どのような能力があるのかを知らせるものだ。
レクター団長が触れて光る様子がないことを見ると、彼が異能を有していないことが分かる。
それでもレクター団長がオルバーン王国最強の騎士と呼ばれるのは彼の血の滲むような努力と数多の戦闘による経験があるからだろう。
「まずは僕からだ」
勇悟から水晶玉に触れる。
すると水晶玉が輝き始め、異能名と説明が表示される。
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『魔法強化』
魔法の威力を上げる。
火、水、風、土、雷、氷、光、闇の八属性全ての魔法を使用することが出来る。
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『限界突破』
自身の身体能力と魔力を爆発的に増大させる。
一日に一度しか発動出来ない。発動後わしばらくまともに動けなくなる。
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「おおっ! これは強力な異能だな! しかも異能が2つも……。流石勇者だな!」
「いや~、ははは……」
レクター団長の称賛に照れたように頭を掻く勇悟。
異能を有する者は少ない。数万人に一人の割合だ。更に異能を二つも有する者は数百万人に一人という割合の希少な存在だった。
「次は私だね!」
愛美が水晶玉に触れる。
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『治癒』
対象者の傷、病を回復させる。
ただし、消費した体力や魔力、完全に失われた部位は回復出来ない。
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愛美のイメージにピッタリの異能だった。
「回復系の異能だな。非戦闘系だがかなり稀少な異能だ。戦場では回復要員の存在が何よりも貴重だ。頼りにしているぞ」
「はい! 頑張ります!」
気合を入れる愛美。
「私の番ね」
凛が水晶玉に触れる。
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『加速移動』
驚異的な速度で移動が可能。
ただし、長時間使用すると身体に負担が掛かる。
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「私の剣術に相性が良さそうな異能ね」
凛の剣術の腕は折り紙つきだ。
凛の剣術に加速系の異能が加われば、強力な戦力になるはずだ。鬼に金棒とはまさにこのことだろう。
次々とクラスメイト達が自分の異能を確かめる。どの異能も戦闘に特化したものばかりで尚且つ強力だ。
強力な異能だと知り、嬉しそうに騒ぎ出す生徒達。
強力な異能にレクター団長の表情は非常に満足そうだ。頼もしい戦友になると喜んでいるのだろう。
「俺の番だ……」
そして最後は煉太郎だ。思わず薄ら笑みを浮かべている。
今までの流れだと、自分も強力な異能に違いない! と内心期待しているのだ。
煉太郎は水晶玉に触れる。そして煉太郎の異能名と説明が表示される。
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『異空間収納』
対象物を異空間に収納することが出来き、収納された物はいくら時間が経過してもそのままの状態である。
生きている生物、魔法は収納することは出来ない。
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「……えっ?」
戦闘向けとは思えない異能だった。
レクター団長も「うん?」と笑顔のまま固まる。
煉太郎は自分の異能が表示された水晶玉を見つめたまま動かない。
煉太郎の異能は非戦闘系だ。他の生徒達と違い戦闘では役に立ちそうにない。
そんな様子に煉太郎を目の敵にしている男子達が食いつかないはずがなかった。
「おいおい荒神、お前の異能、全然戦闘に役立たねぇな~!」
「そんなんで戦えるのかよ?」
「荷物持ちとしてなら役に立つんじゃね」
ゲラゲラと笑いながら煉太郎を嘲笑う加賀達。
「やっぱり、駄目な奴はどこに行っても駄目なんだな!」
「おいおい言いすぎじゃね? 事実だけど!」
「ぎゃははははは!!」
加賀達に続いて笑い出す生徒に愛美は憤然と動き出す。そのお陰で煉太郎に対する嘲笑はなくなった。
「異能だけが全てではない。だから気にするな」
レクター団長が煉太郎の肩に手を置き、励ます。
「……」
しかし、その励ましの言葉は煉太郎の耳には入っていなかった。
(どうして……俺だけが……)
煉太郎はただ呆然と自分の異能が表示されている水晶玉を見続けるのだった。
他の生徒の異能は後々出していきます。