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落ちこぼれと呼ばれた超越者  作者: 四季崎弥真斗
1章 超越の始まり
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実験

 煉太郎が目覚めると、そこは見知らぬ部屋だった。


 周辺には実験で使われる容器や道具、書類、怪しげな薬品などが机や棚に置かれている。


 「ここは……何処だ……? 確か俺は……オーガと襲われて……」


 目覚めたばかりで意識が曖昧な煉太郎。


 しかし、ふと自分の右腕に視線を向けると、そこには肘から先がない右腕があった。


 それを見て、煉太郎の意識は完全に覚めた。

 

 「そうだ! 確か俺はオーガに襲われッ!?」


 身体を起こそうとした瞬間、煉太郎は初めて自分の現在状況を理解した。


 煉太郎は拘束されていた。


 上半身の服を脱がされ、硬い寝台に寝かされ、身体中をベルトで幾重にも巻かれて身動きが取れないようにされていた。


 「何だ!? どうしてこんなことに!?」


 意味不明な状況に混乱する煉太郎。


 「目覚めたようだな……」


 「――ッ!?」


 突然の声。


 煉太郎は視線を声のする方へ視線を向けると、そこには黒灰色のローブを纏った男性の老人の姿があった。


 老人が放つ禍々しい威圧感。


 老人の姿を見た瞬間、煉太郎はすぐにこの老人が只者ではないと理解した。


 煉太郎の全体に冷たい汗を大量に浮き出させ、身体を震えさせる。


 「だ、誰だお前は……!?」


 震える煉太郎の問いに老人は静かに答える。


 「私はマーディン。はぐれの魔術師だ」


 「お前が俺をこんなところに拘束したのか!?」


 「そうだ。私の実験のためにお前をここに連れて行き、拘束した」


 「実験? どういうことだ!?」


 老人――マーディンの『実験』という言葉に声を荒らげる煉太郎。


 そんな煉太郎にマーディンは話を続ける。


 しかし、その内容は煉太郎にとって驚愕する内容だった。


 マーディンの一族は長年ある研究を行っていた。


 それは神の魔力を人に施し、人工的に超越者という存在を創り出すことだった。


 マーディンの一族は古に滅びた神の魔力を所持していた。


 神の魔力を人――実験体に施した結果、その実験体は人智を超えた魔力を得ることに成功する。


 しかし、莫大な魔力に身体が耐えきれず、実験体は死亡してしまった。


 人間族だけでなく獣人族、エルフ族、ドワーフ族、魔人族など様々な種族にも試したが結果は同じだった。


 長きに渡る研究も虚しく、行き詰まったかに思えた。


 しかし、マーディンは別の考えに至った。


 神の魔力に身体が耐えられないのなら、神の魔力に耐えられる実験体に作り変えればいいのだと。


 そこからマーディンの研究は実験体の強化に移行する。


 そして最近、異世界から勇者が召喚されたという噂を耳にした。


 マーディンにとって別の世界から来た人間は興味をそそる存在だった。


 その勇者を実験体として利用しようと考えたマーディン。


 そして、その実験体として連れてこられたのが――


 「お前というわけだ」


 マーディンの実験内容と狂気的な目つきにに背筋が凍るのを煉太郎は感じた。


 「さて、実験を開始するとしようか」


 マーディンはローブから血のように紅い液体が入った注射器を取り出す。


 「や、やめろ! 頼むからやめてくれ!! お願いだ!!」


 必死で大声を上げる煉太郎。


 しかし、身体を拘束されている為逃げ出す事も抵抗することも不可能だった。


 「お前が超越者になることを祈っているぞ」


 そう言ってマーディンは、注射器を煉太郎の首筋に近づける。


 あたかも、標本となる昆虫に致死性の防腐液を注入するかのように。


 直後に針は素早く動き、首筋に小さな痛みが走る。そこから冷たい液体が静脈に注ぎ込まれるのを煉太郎は感じた。


 液体はすみやかに心臓に吸い込まれ、血管を通じて全身に送り出されて行く。


 「――ぐっ! がぁあああああああああああああああああああああああああああっ!!」


 冷たさが突然、烈火の灼熱に変わった。


 煉太郎は白眼を向き、硬化した舌が棒のように突き出され、ベルトに固定された身体が弓なりに反り、頑強な実験用の寝台を軋ませた。


 「がああああああああああああああああああああああああああああっ!!」


 煉太郎はあまりの激痛に意識を手放した。


 今まで味わった理不尽に思いを馳せながら……。

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