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落ちこぼれと呼ばれた超越者  作者: 四季崎弥真斗
1章 超越の始まり
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帰還

 「違うよ……あれはモンスターの腕か何かだよ……。多分、ゴブリンか何かじゃないかな……? 荒神くんが倒して違う通路に進んだんじゃないかな……? そうに違いないよ……。皆、早く荒神くんを探しに行こうよ……。きっと私達が来るのを待っているはずだから……」


 完全に正気を失っている愛美。瞳から光沢が消え、焦点が合わずに虚ろ目になっている。


 「レクター団長、モンスターの魔力を感知しました! 数は――100は超えています!」


 アレインが大声でレクター団長に報告する。


 「な、何だと!?」


 予想を遥かに超えるモンスターの数に驚きを隠せないレクター団長。


 体力と魔力が残り僅かとなっている今の状況で戦闘を行うにはあまりにも危険すぎる。


 下手をすれば死人がでるかもしれない。


 「全員、帰還するぞ! 急いで瓦礫を退かすぞ!」


 「「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」」


 レクター団長の指示に騎士団員達は瓦礫を退かす作業に取り掛かる。


 「ま、待ってください!? 荒神くんはどうするんですか!? 荒神くんを置いて私達だけでこのフロアを離れるなんて出来ません!?」


 レクター団長の判断に異議を唱える愛美。


 「すまないが、レンタロウを探索出来る余裕がない……。このままでここに残るのは危険すぎる……。下手をすれば全員死ぬかもしれないんだ……。俺はお前達を死なせるわけにはいかない!」


 レクター団長の鬼気迫る表情に一瞬怯むも、「それでも!」と愛美は食い下がる。


 「そんなの絶対にダメです! 荒神くんを置いていけません! 私だけでも荒神くんを探しに行きます!」


 愛美の形相は、普段の穏やかさが見る影もないほど必死だった。


 「ダメだ愛美! モンスターの大群が迫っているんだ! 愛美を行かせる訳にはいかない!」


 「危険よ愛美!」


 煉太郎の捜索を続けようとする愛美を勇悟と凜が必死に羽交い締めにする。


 「離してよ! 守るって約束したの! だから行かないと!」


 愛美はその細い身体のどこにそんな力があるのかと疑問に思う程尋常でない力で勇悟と凛を引き離そうとする。


 「ダメよ愛美! 愛美っ!」


 凜は愛美の気持ちが痛いほど良く分かるからこそ、掛ける言葉が見つからない。ただ、必死に愛美の名前を言うしかなかった。


 周りの生徒達もどうすればいいのか分からず、オロオロとするばかりである。


 (マナミに恨まれるかもしれないが、仕方がない……)


 レクター団長が愛美に歩み寄ると、愛美の首筋に問答無用で手刀を落とした。


 「――うっ!」


 ビクッ、と一瞬痙攣し、意識を落とす愛美。


 意識を失って倒れそうになる愛美を抱きかかえ、凜はレクター団長に頭を下げる。


 「ありがとうございます、レクター団長……」


 「礼などやめてくれ……。これよりこのフロアから脱出する。マナミを頼むぞ……」


 「はい……」


 愛美を背負い、そう答える凜。


 騎士団員達が瓦礫を全て退かして先に進むと、転移用魔法陣が刻まれている広間に到着する。


 「レクター団長、モンスターの大群が!」


 「「「「「「「「「「ギギギギギギギギギギギギギギイィィィィィィィッ!」」」」」」」」」」


 100を越えるソルジャーアントの大群がこちらに迫ってきている。


 そのソルジャーアント達は先程勇悟達に倒されたクイーンアントの軍団の生き残りであった。


 統率者であるクイーンアントを倒された恨みを晴らしてやると言うかのようにガチガチッ、と顎を鳴らしている。


 「直ぐに魔法陣を起動させろ!」


 レクター団長の指示で魔法陣に魔力を流す騎士団員達。


 すると、魔法陣が眩い光を発し始めた。


 「いつでも起動できます!」


 騎士団員の言葉に全員が魔法陣に入る。


 「すまない、レンタロウ……」


 レクター団長の言葉と同時に魔法陣の光が皆を包み込んだ。


 暫くして光が徐々に収まって視界がクリアになると全員が瞼を開ける。


 そこはトラップ宝箱が設置されている部屋だった。


 「帰れたのか……?」


 「戻れた!」


 「やったー!」


 「帰れたよ~……」


 安堵の吐息を漏らす生徒達。


 へたり込む者や泣き出す者もいた。


 体力に自信がある勇悟や凜でさえも今にも座り込んでしまいそうだった。


 しかし、レクター団長は心を鬼にして生徒達を立ち上がらせた。


 「立てお前達! こんなところで座り込むんじゃない! ここはまだダンジョンの内部なんだぞ!」


 レクター団長の言う通り、ここはまだダンジョンの内部だ。


 まだ階層が浅いとは言え、今の勇悟達には体力も魔力も殆ど残っていない。


 いつモンスターや盗賊のような行為をする冒険者の襲撃を受けるかは分からない。


 なので一刻も早くこのダンジョンから脱出しなければならないのだ。


 レクター団長の言葉に渋々、フラフラしながら立ち上がる生徒達。


 疲れを隠してレクター団長が率先して十階層に向かう。


 極力モンスターと遭遇しないように慎重に進み、遂に勇悟達は十階層にある地上へと繋がる転移用魔法陣を発見する。


 直ぐに魔法陣を起動させ、地上に転移する。


 見覚えのある風景。地上に戻ってこれたのだ。


 全員が今度こそ安堵の表情を浮かべ、生きて地上に戻れたことに喜び合う生徒達。


 しかし、一部の生徒――気を失っている愛美を背負った勇悟と親友の凜は暗い表情をしている。


 そんな生徒達を気にしつつ、レクター団長は急いで受付に向かう。


 九階層の宝箱のトラップに関することを報告するため。


 そして煉太郎の捜索だ。


 まだ煉太郎が生存している可能性はあるが今の状況では再びあのフロアに戻ることは出来ない。


 だから上級冒険者に依頼を頼むことにしたのだ。


 煉太郎の捜索を依頼して直ぐに上級冒険者達が煉太郎の捜索に向かうことになった。


 しかし、煉太郎が見つかったという報告はなかった。

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