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落ちこぼれと呼ばれた超越者  作者: 四季崎弥真斗
1章 超越の始まり
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オーガ戦

 煉太郎は目の前でサーベルベアー(稀少種)を咀嚼しているオーガを殺意を込めて睨む。


 (あいつは俺の右腕を切り落とした……絶対に許さない……!)


 自分の右腕を切断したオーガに怒りを露にしながら、煉太郎は愛美から貰ったハイポーションの入った瓶を異空間から取り出し、器用に左手だけだ蓋を開ける。


 そして一気にハイポーションを口にする。


 「――うぐっ!」


 ハイポーションは予想以上に苦く不味い味がした。


 あまりの不味さに吐きそうになるが、強引にハイポーションを飲み込む煉太郎。


 すると徐々に体力が回復し、先程までの痛みが完全に消えた。


 さらに切断された断面の肉が盛り上がり、傷口を塞ぐ。


 流石は稀少な薬草をふんだんに使用して作られたポーション。回復するスピードが半端なかった。


 (櫻井に借りが出来たな……)


 そう思いながら空き瓶を投げ捨てる。


 それと同時にオーガがこちらを見る。


 どうやらオーガがサーベルベアー(稀少種)を骨すら残さずに平らげたようだ。口の周りが血で染まっている。


 そしてオーガは煉太郎の方へと身体を向ける。その視線は雄弁に語っている。


 「次はお前の番」だと……。


 「お前なんかに喰われてたまるか!」


 煉太郎は鞘から剣を抜くと、オーガに接近する。


 「グオオオオオオオオオオッ!」


 オーガは急接近する煉太郎に対して斧を降り下ろす。


 「――ッ!」


 煉太郎はオーガの一撃をサイドステップして回避する。


 「これでもくらえ!」


 煉太郎はポイズンスライムの毒液をオーガに向けて放つ。


 放たれた毒液はオーガの身体に浴びせる。


 「グガ?」


 しかし、オーガは毒液を浴びながらも平然としている。


 どうやら、オーガには毒の耐性があるようだ。


 「毒液がダメなら……!」


 煉太郎は油をオーガに浴びさせる。


 「グルガ……!」


 オーガは全身にべたついた油を拭おうとすると――


 「これならどうだ!」


 ボボボボボボボボボボボボボッ!!


 業火がオーガを包み込む。


 「ギャアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 全身を炎に包まれて悲鳴を上げるオーガ。


 そんあオーガの姿を見て「やった……!」と呟き煉太郎。


 だが次の瞬間――


 「〝ヒノカゴヨ……ワガミヲ……ゴウカカラ……マモリタマエ……――ファイアープロテクション〟!」


 オーガは魔法を使った。


 オーガを包んでいた業火が消える。


 〝ファイアープロテクション〟


 中級火属性魔法で、火に対する耐性を大幅に上げる。


 「ふざけろ! オーガが魔法も使えるって反則だろが!?」


 「ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 今の攻撃でオーガは完全にキレたようで、暴れ出す。


 「――チッ!」


 舌打ちをしながらオーガの猛攻を回避する煉太郎。


 (ならば……!)

 

 煉太郎はオーガの背後に回る。


 (狙うのは、ここだ!)


 煉太郎はオーガがの右足――正確にはアキレス腱に目掛けて剣で斬り付けた。


 アキレス腱は足にあるふくらはぎの筋肉を踵の上の骨に結びつけており、人体で最も強く最大の腱。歩行や跳躍など運動をするには必要不可欠なものだ。


 (アキレス腱を切られれば立つことさえ儘ならぬなくなる!)


 そう思ってアキレス腱を狙う煉太郎だったが――


 「な……!」


 ガキイッ!


 金属音と共に、容易く弾かれた。


 「硬すぎるだろ!?」


 右足を斬り落とすつもりで剣を振ったのだが、オーガの皮膚は、たとえアキレス腱でも、まるで岩のように硬い。


 「グオオオオオオオオオオオッ!」


 「――がっ!?」


 掬い上げるように放つ拳の一撃。


 オーガの俊敏な動きに判断が遅れ、煉太郎はその攻撃をまともに受けることになる。


 装備しているライトアーマーがひしゃげ、煉太郎の身体は宙を舞い、地面へ叩きつけられた。


 「ぐぅ……ッ!」


 微かに身じろぎをしながら呻く煉太郎。


 普通なら気絶してもおかしくない一撃。そんな一撃を煉太郎は気力だけで耐えていた。


 ライトアーマーのお陰で致命傷は避けられたが、軋むような痛みが全身を巡る。肋骨が折れているようだ。


 「グオオオオオオオオオオッ!」


 動けぬ煉太郎は巨腕で襟元を掴まれ、そのまま左腕一本で軽々と吊り上げられた。


 「ニク……!」


 オーガはギロリと煉太郎を睨むと、少しずつ指に力を込める。


 「――うぐっ!?」


 指の力が強まり、苦悶の表情をする煉太郎。


 「イタイカ……? クルシイカ……? ツライカ……? ゲゲゲゲゲゲゲゲゲ!」


 煉太郎の苦しむ顔を見て、オーガは笑い出す。


 「やめろ……」


 オーガの笑い声に、再び怒りが沸き上がる煉太郎。


 「そんな目で俺を――」


 その笑いが自分をここに置き去りにしたクラスメイトの姿と重なって見えたからだ。


 「笑うんじゃねえよ!」


 煉太郎は軋む身体を無理やり動かして剣をオーガの右眼に抉るように突き刺す。


 「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!? メガ……! オデノメガアアアアアアァァァァッ……!?」


 「――ぐうっ!?」


 悲鳴を上げ、掴んでいた煉太郎を地面に叩きつけて悶え苦しむオーガ。


 岩のように硬い皮膚を持つオーガでも、流石に眼球までは硬くないようだ。


 「……くそ、ポーションだ……!」


 地面に叩きつけられて意識が途切れそうになる中、煉太郎は異空間に収納しているポーションを出せるだけ出して1本、2本、3本とガブガブと飲み干していく。


 愛美から貰ったハイポーションとは違い、安物のポーションでは折れた肋骨は治すことは出来ないが、痛みは多少なり和らいだ。


 煉太郎は剣を支えに、ゆっくりと立ち上がる。身体が鉛のように重いが関係ない。


 そして、目を潰されて呻いているオーガを見据えて、ニヤリと煉太郎は笑みを浮かべる。


 「ギ、ギザマ……!」


 「お前だって俺の右腕を斬り落としたんだ……。お互い様だろう?」


 そう言って、煉太郎は異空間に収納していたオイルスライムの死骸を苦しむオーガに向けて放ち――


 「くたばりやがれ!」


 火を放った。


 ドガアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!


 「ガアアアアアアアァァァァァァッ!」


 大規模の爆発がオーガを襲う。


 「……ぐっ!?」


 予想以上に強烈な爆風で煉太郎は壁に叩きつけられる。


 「がはっ!」


 肺の空気が衝撃により抜け、壁をズルズルと滑り崩れ落ちる煉太郎。打ちどころが悪かったらしく、煉太郎はそのまま気を失ってしまった。


 「グゥ、ウウウウ……」


 低い唸り声。


 オーガだ。あの爆発を受けて全身が爆ぜ、焼き爛れているがしぶとく生きていたのだ。おそらく、先程の魔法が効いていたのだろう。


 オーガはふらつきながらも煉太郎に近寄る。


 「ニク……オデノ、ニク……」


こんな無様な状態になっても煉太郎を喰らうことしか考えていないようだ。


 そして、煉太郎の目の前まで近づいたオーガは大口を開けて煉太郎を喰らおうとする。


 その時だった――


 カッ!


 何もない空間に突如、魔法陣が出現した。


 その魔法陣から姿を現したのは黒灰色のローブを纏った男の老人だった。


 老人は気を失っている煉太郎を見て、不気味な笑みを浮かべる。


 「ふむ、こいつが異世界から召喚された勇者の1人か……。派手にやられているな。右腕はないが、まあいいだろう……」


 そう呟き、老人は煉太郎に近づくと――


 「ナンダ、ギザマハ……! オデノニクニ、チカヅクナ……! オデノ、ニクダゾ……!」


 突如、現れた老人にオーガは血走った眼で睨み、咆哮を上げて老人に襲い掛かる。


 「やかましいオーガだ……。〝強大な闇の力よ、彼の者を永遠の暗黒へと誘い、消滅させろ――ブラックホール〟」


 老人とオーガの間に歪みが生じ、ぽっかりと穴が空いた。


 「ナンダ、コレハ……!? スイコマ、レル……!?」


 穴はオーガの身体を吸い込み始めた。


 「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア――ッ!?」


 吸い込まれまいと必死に抵抗するオーガだが、その行為も虚しく、そのまま穴に吸い込まれて、穴は消えた。


 老人が発動したのは闇属性の最上位魔法〝ブラックホール〟。


 あらゆる物質を吸い込む穴を出現させる強力な魔法だ。


 それを使用出来るこの老人は相当な実力を持つ魔法使いと伺えるだろう。


 「さて、そろそろ行くとするか……」


 老人は指をパチンと鳴らすと、煉太郎の身体は宙を浮き、老人と共に魔法陣に入る。


 魔法陣から光が発せられて2人を包み込むと、そのまま消えてしまった。


 そこには誰がいた気配もなく、ただ静寂だけが残された。

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