新たな絶望
(どうして……どうして……どうして……どうして……!?)
閉ざされた入り口を見つめてそう思い続ける煉太郎。あまりの悲惨な現実に思わず唖然としてしまう。
「グルアアアアアアアアッ!」
「――ッ!?」
サーベルベアー(稀少種)の咆哮で我に返る煉太郎。
その時には既にサーベルベアー(稀少種)の腕が煉太郎の眼前まで振るわれていた。
咄嗟に右腕を掲げて顔面を庇うが、衝撃で身体は吹き飛び、地面を転がった。停止する頃には激烈な痛みが煉太郎の右腕を襲う。
「あ、ぐぅっ……! お、俺の腕が……!」
右腕に視線を向けると、おかしな方向に曲がっていて動かすことが出来ない。
完全に粉砕されたようだ。
痛みに耐えながら立ち上がり、サーベルベアー(稀少種)の方を見ると余裕の態度でこちらに歩み寄ってくる。
「グルルル……」
「ヒッ!」
サーベルベアー(稀少種)がまるで見下すように錬太郎を見た。その目は完全に捕食者としての目つきだった。
「嫌だ、死にたくない!」
そう叫びながら後退りする煉太郎。どうやら完全に煉太郎の心は折れてしまったようで、その表情は恐怖で歪んでいた。
そんな時――
カチッ!
何かスイッチを押すような音が聞こえた。煉太郎の足元からだ。
煉太郎は地面に設置されたトラップ用のスイッチを踏んでしまったようだ。
すると、広間の中心部に魔法陣が出現する。
「何だ、あれは……?」
その魔法陣から1匹のモンスターが姿を現す。
「……嘘、だろ?」
出現したモンスターの姿を見て、唖然とする煉太郎。
2メートルを優に越える巨躯に青色の肌。腐敗臭の漂う息を吐く口に並ぶ鋭い歯。右手には巨大な斧。そして何よりも特徴的なのは額に生えている角だろう。
「……オーガ!?」
『オーガ』
ランクCの亜人型モンスター。
戦闘に特化したモンスターで力だけならランクAモンスターに匹敵する程で上級冒険者が立ち向かうにしても、恐ろしい難敵として知られている。
嗅覚も非常に優れており、離れた相手の的確な位置まで分かると言われている。
底なしの食欲を持ち、とくに人間を好んで食すことから別名『人喰い鬼』とも呼ばれている。
オーガは血走った眼で煉太郎を睨むと――
「ニク……」
言葉を発したのだ。
オーガは人間ほどではないが、多少の知恵を持っている。だから人の言葉を理解出来るのだ。
「ニク……ニクダ……」
今のオーガは空腹で飢えていた。
この数日間、このオーガはまともに獲物を食していなかったからだ。
しかし、目の前に餌がいる。
久しぶりの餌に無意識のうちに涎が垂れらすオーガ。
「ヒッ……」
あまりの威圧に思わず情けない声を上げる煉太郎。身体がガクガクと震えて止まらない。
煉太郎はオーガから距離を取ろうとするが――
「ニガ、サン……」
ゴウッ!
風が唸る音が聞こえるのと同時に強烈な衝撃が錬太郎の右側を襲った。
衝撃で煉太郎は吹き飛び、再び地面を転がった。
オーガを見ると右手の斧が血で染まっていることに気がついた。
(あれ、さっきまで血なんて付いていなかったのに……それに、あそこにあるのって……)
ふと、視線を地面に向けると、そこには人の腕が転がっていた。
煉太郎は理解できない事態に混乱しながら、感覚がなくった右腕を見た。
正確には右腕があった場所を……。
なかった。右腕がなくなっていた。
肘から先が切断されており、大量の血が切断面から吹き出す。
(あれは……俺の腕……?)
地面に転がっている腕が自分の物だと理解した瞬間――想像を超えた激痛が走った。