別行動
『最強の魔法使いだった無能使い』という作品も投稿しています。そちらもよろしくお願いします。
煉太郎は空気が変わるのを感じた。
次いで、ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。
「――ぐうっ!?」
尻の痛みに呻き声を上げながら、煉太郎は周囲を見渡す。
「どうやら俺だけのようだな……」
周囲には誰もおらず、煉太郎だけがその場にいた。
「ここは何処だ? 他の皆は何処に行ったんだ?」
少なくとも、今まで通ってきた階層ではない。
「あの宝箱は開けた者を転移させる類いのものか……」
煉太郎の予想通り、宝箱のトラップにより未知の階層に転送されたのだ。
煉太郎のいる場所は細い通路だった。
右、左、後ろを振り返っても見ても、あるのは壁だけで出入口らしきものは一切ない。前に進むしかない場所だ。
他の生徒達も別の場所に転送されたのだろう、と煉太郎は推測する。
(取り敢えず、先に進もう。いつまでもこんな場所にはいられない。そのうち誰かと遭遇出来るだろうし……)
と煉太郎は思い、先に進むことにした。
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
煉太郎が歩を進めて10分は経過しただろうか。
煉太郎は正方形型の広間に出た。天井の高さは6、7メートルはありそうだ。広間の奥には通路がある。
「誰も、いないな……」
広間を見渡すも、クラスメイトの姿はない。
しかし、広間の中央には巨大な魔法陣が刻まれていた。宝箱を開けたときに出現した魔法陣と同じものだ。
おそらく、これがこのフロアから脱出するための転移用魔法陣なのだろう。
これ程早く転移用魔法陣を発見できたのは幸運だと言えるだろう。
試しに煉太郎は魔法陣に触れ、魔力を流し込んでみるが、魔法陣は一瞬だけ光って、すぐに消えてしまった。
「やっぱりダメか……」
魔法陣を起動させるには魔力が必要だ。
しかし、煉太郎は一般人以下の魔力しか持たないので魔法陣を起動させるには魔力が足りなかった。
「誰かが来るのを待つしかないか……」
そう、独り言ちると地面の穴からぬうっとばかりに黒い何かが姿を現す。
「……蟻?」
その黒い何かは巨大な蟻だった。
体長は約1メートルぐらいだろうか。
赤く光る大きな双眼。腕先には発達した四本の鉤爪。湾曲した歪な突起は不気味に光沢をちらつかせている。
『ソルジャーアント』
ランクDの蟻型モンスター。
別名『戦闘蟻』。
身体の表面を覆っている外殻は硬く、半端な攻撃はなら弾かれてしまう。
狂暴な性格で強靭な顎は岩をも砕く。獲物を狩り、洞窟の壁を掘って巣の拡張を行う役目を持つ。
「ギギギッ!」
短い鳴き声を上げながらこちらへと走り寄って来るソルジャーアント。
その鋭い顎で煉太郎を噛み千切ろうと、真っ直ぐに煉太郎へと向かって来るのだが、決して速いと言える速度ではない。
煉太郎は油と炎で冷静に対処し、ソルジャーアントを火だるまにした。
「ギギギギギギギギギッ!」
ソルジャーアントは全体を焼かれる痛みに悲鳴を上げながら、絶命する。
「「「「「ギギギギィッ!」」」」」
「――ッ!」
しかし、一匹倒したのも束の間、地面の穴から1匹、2匹、3匹と後続が姿を出現する。
その数は5匹。
それに煉太郎は舌打ちする。
「次から次へと……!」
煉太郎は剣を抜剣し、ソルジャーアントに斬り付けるが――
ガキィッ!
硬い外殻によって弾かれてしまう。
「やっぱり硬いな! ならここならどうだ!」
再度剣を振るう煉太郎。
狙うのは外殻の隙間。
奥の柔らかい肉に刃が沈み込んでいく感覚。感触はそれだけで、後は大した抵抗もなく刃は滑り込み、腕を振り切った。
サンッ!
と小気味良い音と共にソルジャーアントの首が宙を飛び、断面から緑色の血飛沫が噴出する。
「良し、次だ」
2匹目のソルジャーアントに視線を向けて、胴体中央を串刺しにする。
「ギギイィィィィィィィィッ!!」
刃が胴体の肉を食い破り、2匹目のソルジャーアントは断末魔を上げると、双眸から光が消え、沈黙した。
「「「ギギギギギギギギギギィッ!!」」」
同胞を殺されて怒り狂ったのか、顎をガチガチと鳴らして煉太郎に襲い掛かるが、火達磨にされて絶命する。
しかし――
「「「「「「「「「「ギギギギギギギギギギギギギギギギギィィィィィィィッ!!」」」」」」」」」」
「――ッ!」
地面の穴から複数のソルジャーアントの奇声。穴を覗き込むとソルジャーアントの大群が地上目掛けて迫っていた。
「これ以上蟻の相手は御免だ」
煉太郎は首がないソルジャーアントの死骸に油を掛けると、穴の中に蹴り込む。
「これで終わりだ」
そう言って、炎を放つ。
ボボボボボボボボボボボボボボボウッ!
首なしソルジャーアントの死骸が激しく燃え上がる。
炎は次々とソルジャーアントの群れに燃え移り、火達磨へと変えていく。
「「「「「「「「「「ギイイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!」」」」」」」」」」
甲高い悲鳴。ソルジャーアント達はもがき、焼き焦げながら穴底へと転がり落ちていく。
穴から立ち昇る焼き焦げた臭いと煙に、煉太郎はケホケホと咳き込んだ。
「つ、疲れた……」
その場に座り込み、「ふぅー」と息を吐く。
全身が怠い。立ち上がることすら困難な状態であった。
煉太郎の『異空間収納』は魔力を必要としない代わりに体力を消費する。
流石にあれだけの数のソルジャーアントを1人で相手にして、異能を使いすぎて体力の限界が近づいていた。
「勝手に飲むと怒られるかもしれないが、仕方がないよな……」
そう呟いて、煉太郎は異空間に収納しているスタミナポーションが入った瓶を取り出し、栓を抜いて、ガブガブと飲み干す。
まるで○クエリアスのような味が口に広がり、多少ではあるが体力が回復する。
「よし、これなら何とかなるか……」
ズドオオオオオオオオオオオオオン!!
「!」
突然の爆発音に反応する煉太郎。
奥の通路からだ。
「誰か戦っているのか……!」
煉太郎は空になった瓶を異空間に収納して、爆発音が聞こえた方へと進んだ。