海水浴後編
「どうぞご主人様、ジュースです。フィーナさとセレンさんもどうぞ」
「すまないな。頂こう」
「ありがとう、ロロアちゃん」
ビーチチェアに腰を下ろし、くつろぐ煉太郎達にロロアはジュースの入ったグラスを渡す。それを受け取り、飲んでみるとトロピカルジュースのように複数の濃厚な果汁の甘味と酸味が口の中に広がる。
この世界に転移されてから初めての海に煉太郎達は存分に遊んだ。
「さて、そろそろ宿に帰るとするか」
そう言って片付けをしようとするとーー
「ん? 何だあれは?」
ふと砂浜に落ちている一枚のチラシを発見した煉太郎はそれを拾う。
「水着コンテスト?」
チラシにはデカデカとそう書かれている。優勝者には賞金白金貨1枚(日本円で1000000円)を進呈するとも記されている。
「水着コンテスト? 面白そうだね」
後から付いてきたフィーナも興味がありそうにチラシを見つめる。
「それに優勝賞金も魅力的です」
「当分の間の旅の資金になりますね」
と、セレンとロロアも興味を持ったのかチラシを眺める。
「ねえ、せっかくだから出場してみない?」
「面白そうですね。やりましょう」
フィーナとセレンは水着コンテストに出場することに決める。
「私は遠慮しておきます。あまりこう言ったイベントは苦手ですので」
しかしロロアはどうにも乗り気ではないようで、出場を辞退する。
「ええ〜、それじゃあつまんないよ〜」
それでは面白くないと考えたフィーナは、どうにか彼女を出場させるために、ある提案を言う。
「じゃあ、優勝した人には夜レンタロウと同じ部屋に泊まれる権利を得られるって言うのはどう?」
「出場します」
「切り替え早くないか?」
即答で水着コンテストに出現することを了承するロロア。目が本気なのは黙っておこうと心に誓う煉太郎だった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
水着コンテストは年に一度、港町アストルで行われる大イベントで、その為に用意されていると言っても過言ではないような会場が設けられており、特設ステージがある。
会場内には水着コンテストの開始を心待ちにしている観客よって埋め尽くされている。女性もいるが、圧倒的に男性の方が多い。
(そろそろかな)
煉太郎も観客席の中央側に腰を下ろして水着コンテストが開始するのを待っている。
「おやおや、レンタロウさんではないですか」
煉太郎の姿に気づいて近づいて来たのはボルダンだった。
「ボンダンか。あんたもこの水着コンテストを見物に来たのか?」
「はい、この水着コンテストはなかなかレベルの高いイベントと聞きましてね。仕事の息抜きに見物に来ました。それよりもお連れの方の姿が見えないのですが?」
「三人とも水着コンテストに出ることになってな」
「おお、あの方達もこの水着コンテストに出場なされるのですか。優勝候補間違いないですな」
「お褒めに預かり光栄に思うよ」
そんな雑談をしばらくしていると、ようやく水着コンテストが開始される。
「お待たせしました! これより港街アストルが主催する水着コンテストの始まりだ!」
アロハシャツをなびかせて、マイクを片手に司会者が高々と水着コンテストの開会宣言する。
「「「「「「「「「「オオオオオオオオオオッ!!」」」」」」」」」」
それにより観客達がまるで雄叫びを上げるかのように大いに沸いた。
「今年も多くの女性達がこの水着コンテストに出現してくれたぞ! いったい誰が優勝するのか! では早速行くぞ! エントリーナンバー1番! 前回の水着コンテスト堂々の1位を獲得した女王、褐色の肌が男心をくすぐる、海の家の看板娘サリヤ選手です!」
「みんな、よろしくね♪」
司会者の紹介と同時にステージに褐色肌の美女が現れる。出てるところは出て、引っ込んだいるところは引っ込んでいる、グラマーな体型だ。
「さあ、選手が入場してきたところでお待ちかねのアピールタイムだ。サリヤ選手はどんなアピールを見せてくれるのだろうか!」
「ふふふ、今回もみんなを悩殺しちゃうぞ❤︎」
そう言ってサリヤは男なら誰もが興奮するような大胆なポーズを惜しみなく披露する。前回の水着コンテスタート優勝者と言うのは伊達ではない。会場にいる人の大半が男性が多いことを見越してのアピールだった。
「流石は女王! 会場中の男達の視線が彼女に注がれます! さあ、どんどん行きましょう! 次の選手は……」
それから近くの街に住む貴族令嬢や女漁師など、水着コンテストに参加している女性達のアピールタイムが続く。
流石は自ら水着コンテストに参加しているだけあって、全員かなりレベルが高い容姿をしている。それにパフォーマンスもなかなか凝っているので印象も高かった。
「皆さん、とても良いですな」
「ああ」
思っていた以上にレベルの高い水着コンテストにボルダンの言葉を聞いて煉太郎も思わず感心してしまう。
「さあ、いよいよ大詰めに近づいて来たぞ! 続きましてはエントリーナンバー8番。黒い獣耳と尻尾を持つクールな狐人種のメイド少女、ロロア選手の入場です!」
いよいよ次はロロアの番のようだ。
「ロロアと申します、どうぞよろしくお願いします」
ステージに現れたロロアは礼儀よくお辞儀をする。そしてそのままアピールタイムへと移行する。
ロロアは何処から取り出したのか、指先に鋼糸が付けられたグローブを両手に装着。そしてその鋼糸に火を付けた。
「では、私のアピールをご覧ください」
そう言ってロロアは火のついた鋼糸を巧み操る。
燃える鋼糸と暗殺者として訓練された細密な動きが合わさって、まるで舞を踊るかのように見える。
「素晴らしい! まさに炎舞とはこのことです! これはかなりのアピールになるぞ!」
アピールタイムが終了し、ロロアはステージから退場する。
「続きましてはエントリーナンバー9番。まさに深き森の宝、滅多に人前に姿を現さない稀少種族であるエルフ族をこんなところで見られるとは! セレン選手です!」
「よろしくお願いしま〜す」
手を振りながら入場するセレン。珍しいエルフ族の登場に会場は盛り上がる。
「さて、セレン選手はどのようなアピールを見せてくれるのだろうか!」
「私はこれです」
セレンは係員から弓矢と複数のボールを渡される。
「司会者さん、このボールを空高く投げてはくれませんか?」
「僕がですか? 分かりました」
複数のボールをセレンから渡された司会者。セレンの指示に従いボールを空高く放り投げる。
「行きます」
セレンは弓を構え、司会者が放り投げたボールに目掛けて矢を射つ。放たれた矢は真っ直ぐ飛び、命中する。
「これは凄い! 小さいボールを見事に射抜いた! ですがボールはまだまだあるぞ!」
司会者も盛り上がっているのか、次々とボールをあらゆる方向、高さを変えるなどをして空に放り投げていく。
「ふふふ、外しませんよ」
それをセレンは次々も射抜いていく。
会場の男性達はボールに釘付けとなる。ボールはボールでも、セレンが動くたびにぷるんぷるんと弾む大きな二つのボールに、だが……。
「今回の水着コンテストはレベルが高いぞ! いよいよ最後の選手です! エントリーナンバー10番。銀色の髪に白い肌、その神秘的な魅力は全ての男を見惚れさせる。フィーナ選手です!」
「よろしくね」
フィーナの登場に会場の全員が盛り上がる。
「じゃあ行くよ? "スノー"」
詠唱と同時に、会場の真上に魔法陣が出現する。そしてそこから小雪が降り注ぐ。
「何と雪です! 夏の時期に雪が降っております!」
熱気のある会場が空から降ってくる雪で僅かに冷めていく。そして何より印象的なのはフィーナだった。
雪がフィーナの銀髪と白い肌を際立たせ、その姿は言葉で言い表すならまるで雪の女神のようだ。
その幻想的な光景に会場中の者が見惚れることになる。あれだけ盛り上がっていた司会者までもが黙り込んでいる。
そしてようやく我に返ったのか、司会者はアピールタイムの終了を知らせる。
「さあ、これで全ての審査が終了しました! この水着コンテストの優勝者を決めるのは会場の観客達の票だ! みんなで優勝者を決めようぜ!」
どうやら投票制になっているようで、観客達に投票用紙とペンが配られる。
煉太郎は素直に一番印象に残った残った女性の名を書いて投票する。
そして、数十分後には集計結果が発表される。
「お待たせしました! これより優勝を発表します! 優勝者は--エントリーNo.10のフィーナさんです! 何と会場の観客達全員が彼女に票を入れると言う前代未聞の出来事が起こりました! この結果は未来永劫記録に残る事になるでしょう! おめでとうございます!!」
盛大な紙吹雪がステージ上に舞い、観客席からは拍手喝采が鳴り響く。
「やったよ、レンタロウ!」
優勝トロフィーと優勝賞金の白金貨を受け取り、フィーナは煉太郎に手を振る。それに対して煉太郎も小さく手を振るのだった。
こうして水着コンテストはフィーナが優勝することとなった。
そして、優勝した者に与えられる煉太郎と一晩を二人きりで過ごせる権利でフィーナが彼に何をしたのかは、秘密である。
本当はもっと早く投稿したかったのですが少し諸事情があって投稿が遅れました。誠に申し訳ありません。