海鮮料理
海賊達を撃退して商人ボンダンを乗せて港街アストルに向けて魔動ジープを走行させる。
しかし、その道中は色々と問題があった。
前方に武装した十数人の集団が魔動ジープを通さまいと、立ち塞がっている。
「おい止まれ! 俺達は海賊『蒼の侵略者』だ! 大人しくすれば命だけは--」
「付き合いきれん」
海賊達の頭目と思われる男の言葉を最後まで聞かずに煉太郎は魔動ジープのアクセルを全開にして猛スピードで立ち塞がる海賊達に躊躇いなく突っ込んだ。
「「「「「「「「「「「ぎゃあああああああああっ!?」」」」」」」」」」
バキッ! グシャッ! ドガッ! と生々しい音を立てながら悲痛の表情を浮かべる海賊達を魔動ジープで跳ね飛ばす。
そしてそのまま海賊達には見向きもせずに魔動ジープは過ぎ去っていく。
「まったく、これで何回目だ? いい加減にして欲しいぜ……」
煉太郎はうんざりしたような表情でため息を吐く。
ボンダンを乗せて港街アストルに向かう途中で、煉太郎達はもう三回も賊に襲われていた。
勿論、その賊達の実力は煉太郎達に遠く及ばないので何も問題はなかったのだが、あまりの出現率に流石の煉太郎達も心底うんざりしていた。
(また海賊か……。どうなっているんだ?)
それに何より気になるのが、煉太郎達を襲ってきた賊達の全てが海賊を名乗っていた。あまりにも不自然な状況を煉太郎は気になっていた。
(今のこの付近の海に何か起きているのだろうか?)
脳裏に浮かぶ疑問について考えながら、煉太郎は港街アストルに向けて魔動ジープの速度を上げる。
その後はボンダンが魔動ジープの性能の良さに目を輝かせながら煉太郎を質問攻めにしたり、途中でモンスターに襲われるという状況に陥るものの、煉太郎一行は順調に目的地である港街アストルへと近づいていた。
「潮の香りがします」
魔動ジープの窓枠から伝わる風に潮の香りが含まれているのをロロアは感じた。どうやら海が近いようだ。
「お、見えてきたな」
「あれが海?」
「凄いです! お母さんに聞いていた通り、まるで大きな水溜りのようです!」
「クルルルル!」
ようやく見えてきた青い海。水平の彼方まで続くその光景を初めて目にするフィーナとセレン、クルは目を輝かせている。
「あれが港街アストルでございます」
「なかなか大きな街ですね」
そして目的地である港街アストルも見えてきた。
どうやら無事に到着することができたようだ。
魔動ジープを港街付近まで進ませ、門の前に止めて全員が降りると異空間に収納。
「これはこれはボンダンさん、お久しぶりですね」
街の門番がボンダンに話しかけてくる。
「お久しぶりです。商品をこの街に届けにきました。こちらの方々は私の護衛を受けてくださっているので検問は必要ありませんから」
「分かりました。どうぞお入りください」
流石はカルゾーネ商会の商人と言ったところか、知名度が非常に高い。そのお陰で煉太郎達は港街へはすんなりと入ることができた。
「ここが港街アストルか」
「船がいっぱいだね」
港街ということだけあって街中には漁師が歩き、店に新鮮な魚が競りに出され、それを料理した屋台の数々が並び、そして港には豪華客船のような船から漁業用の船が幾つもの船が並べられている。
それにここはリゾート地にもなっているようで、近くの浜辺には水着を着て楽しんでいる者達もいる。
流石はネーデン大陸で最大の港街と言われるだけはある。人の数も船の数も、街の規模も桁外れであった。
「まずはカルゾーネ商会が所有する倉庫に案内しますので、そこで荷物を出してください」
「ああ」
ボンダンにカルゾーネ商会が所有する倉庫へと案内された煉太郎達。彼の指示に従い異空間に収納していた大量の荷物を取り出す。
これでボンダンからの依頼は達成された。
「これで良いな?」
「本当にありがとうございます。お陰で無事に商品を届けることが出来ました。これは報酬です」
感謝の言葉を述べならがボンダンは黒金貨5枚が入った小袋を煉太郎に渡す。
「確かに受け取った」
中身を確認した後、煉太郎は小袋を異空間にしまう。
「あとはこの街で一番美味しい料理店で皆様にご馳走します。私に付いてきてください」
ボンダンに案内され、煉太郎達はカルゾーネ商会が経営するレストランへと向かう。
「ほう、これまた豪勢だな」
案内されたレストランは他の店なんかとは比較にならないほどの豪華な外装だった。これなら料理も期待できると、煉太郎は小さく笑みを浮かべた。
「これを店の責任者にお渡しください。そうすれば特別待遇で貴方がを迎えてくれるはずです」
「分かった」
煉太郎はボンダンからカルゾーネ商会の印の付いた紹介状を受け取る。
「それでは私はここで失礼します。ここの料理は絶品ですから存分にご堪能くださいね。それと、シュバーン大陸に行く船が出航するのは明日になるはずですから、宿泊するならカルゾーネ商会が経営する宿に泊まってください。貴方がたなら無料で宿泊できるようにしておきますから」
「何から何まだ助かる」
「いえいえ、貴方達には助けて貰った恩がありますからね。では失礼します」
小さくお辞儀をすると、そのままボンダンは行ってしまう。
「さて、入るとするか」
「ご飯ご飯!」
「楽しみですね」
「はい」
「クルルルルッ! 」
腹が空いた煉太郎達は早速店内へ。フィーナ達も海鮮料理を楽しみにしているようだ。
「いらっしゃいませ」
煉太郎達を出迎えたのは礼儀正しい爽やかウェイター。営業スマイルがまさに爽やかだ。
「これ、カルゾーネ商会のボンダンから預かっている物だ。支配人に渡してくれ」
そう言って、先程ボンダンから受け取った紹介状をウェイターに渡す。
「確かにこれはカルゾーネ商会のボンダン様の紹介状ですね。支配人に渡ししてきますので少々お待ちください」
お辞儀をして一度その場を離れるウェイター。
暫くするとこの店の支配人と思われるダンディな男性がやって来る。
「本日はご来店頂き誠にありがとうございます。私はこのレストランの支配人を務める者です。ボンダン様のご命令で貴方がたには本店最高級の料理を用意致します。ではこちらへどうぞ」
責任者直々に店内を案内される煉太郎達。
「ほう、これは……」
煉太郎は案内された部屋に感嘆の声を上げる。
案内された部屋は完全な個室でかなり広く、豪華な装飾品などが飾られている。
(これがVIPルームというやつか)
豪華な椅子に座りながら、人生初めてのVIPルームに内心喜ぶ煉太郎。
「それでは料理をお持ちしますので少々お待ちください」
十数分程待っていると、作られた料理が運び込まれてくる。
「お待たせ致しました。最初の料理をお持ちしました」
最初に出された薄く切られた生の赤身魚の上に玉ねぎや黄色いソースで盛り付けている料理。俗に言うカルパッチョという料理に似ている。
まずは赤身魚の切り身だけ食べてみると、魚独特の塩気と程よい酸味の旨味が口いっぱいにに広がり、噛めば噛むほど旨味が溢れる。
今度は赤身魚を玉ねぎと同時に食べてみる。すると先ほどの塩気と酸味に玉ねぎの辛味が加わり、より一層舌を刺激することとなる。そして玉ねぎのシャキシャキとした歯ごたえが合わさってこの料理には完璧な調和が生まれる。
「スープでございます」
次に出されたのは海鮮スープ。
具材は全くないのだがら鼻腔をくすぐる芳ばしい香りが漂い、スプーンでかき混ぜてみるとより一層香りが強くなる。
スープを掬い飲んでみると、複数の魚貝類の味が口いっぱいに広がる。おそらく海老や貝などの出汁を使用しているのだろう。非常にあっさりとした味わいだ。
「メインの魚料理でございます」
次は魚料理。
まず最初に感じたのはバターの香り。おそらくヒラメに似た白身魚の切り身をバターで焼いているのだろう。バターの風味が非常に食欲をそそらせる。
フォークとナイフで料理を切り分け、そのまま口へと運ぶ。
魚の塩気が口に広がり、ほろほろとほどけていき、さらにバターによるまろやかさが絡まって味わいがより一層深まる。
それに加えて外側のカリッとした食感と、中側の柔らかい食感の違いが非常に好ましい。
「本日最後の料理であるデザートです」
最後は出されたのは黄色の氷菓子。少々暑いこの時期には丁度いいデザートだ。
ウェイターが言うにはこの氷菓子に使われているのは『パナルプ』というこの街付近にしか採れない果実を使用して作られているようだ。
黄色く染まった細かく削られた氷菓子を一口口にすると、まるでパイナップルのような爽やかな酸味と甘味、そして強烈な冷たさが口いっぱいに広がり、そのまま溶けて消えてしまう。
そして冷気を残した爽やか甘みは喉を通り過ぎて潤していく。
「美味かったな」
「ごちそうさまでした」
「素晴らしい料理でした」
「クルルルルッ!」
全ての料理を満足して食べ終えた煉太郎達。
「う〜ん、美味しかったけど物足りないな……」
ただしフィーナだけはまだ食べ足りないと、小さく呟く。確かに料理はどれも絶品だったが、彼女には量が少なかったようだ。
「ははは……」
それを聞いて煉太郎は苦笑いを浮かべる。
「分かった分かった。後で屋台の料理を買ってやるよ。明日までは船が出航しないからな。せっかくだから浜辺で楽しむとしよう」
「やった!」
煉太郎は店を出るために責任者を呼び、感謝の言葉を告げて店を後にするのだった。




