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落ちこぼれと呼ばれた超越者  作者: 四季崎弥真斗
1章 超越の始まり
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赤いスライム

 ボボボボボボボボゥッ!


 「ゲギャアアアアアッ!」


 全身を業火によって包まれて、聞くに耐えない濁った悲鳴を発するゴブリン。


 肉の焼ける臭いが漂い、洞窟の広間に充満していく。


 火達磨になっているゴブリンは半狂乱になってもがくが、やがて動きが止まる。


 「よし、良くやったなレンタロウ!」


 「ありがとうございます、レクター団長」


 ファングボアとの戦闘以来、煉太郎は油と火を使った戦法で順調にモンスターを討伐した。


 お荷物扱いされていた頃と違い、今では戦力として活躍しており、周囲の態度もそれなりに柔らかくなっていた。


 「よし。お前達、ここからはモンスターの出現率が上がるから、気を抜くなよ!」


 現在、煉太郎達は7階層まで到達していた。


 レクター団長の言う通りこの7階層からはモンスターの出現率が上がる。


 しかも、1種類のモンスターだけではなく、複数種類のモンスターが混在したり連携を組んで襲って来る時もある。


 更にこの階層からはトラップの量も増えるので十分気をつけなければならない。


 ダンジョンで最も恐ろしいもの。それはトラップだ。


 年間のダンジョンによる死亡の原因で1番高いのはトラップによるものだ。


 トラップにも様々な種類がある。突然、大岩が落ちてきたり、モンスターを召喚したり、別の空間に転移したり、場合によっては死を招くものもある。


 しかし、今回に限ってはトラップの心配はないだろう。


 騎士団員の1人――アレイン=ターク(若手の中で最も優秀な騎士)が魔力を感知する異能『魔力感知センサー』を有しているため、トラップのある場所は直ぐに発見出来るのだ。


 この異能は別に珍しくない一般的な異能の1つだ。異能を持つ者の中で数十人に1人の割合で開花する異能。


 しかし、この異能はダンジョンなどの場所では大いに役立つ。


 ダンジョンのトラップは魔力を用いるものが多いのでほとんどのトラップは見破れる。なのでダンジョンを探索する者達にとっては貴重な存在とでも言える。


 煉太郎達がダンジョンに入ってまだ一度もトラップに引っ掛からないのはアレインのお陰とも言えるだろう。


 煉太郎達が警戒しつつダンジョンを進んでいると――


 「前方にモンスターの反応があります!」


 騎士団員の言葉に全員が武器を構える。


 前方には紫色のスライムの群れがいる。


 『ポイズンスライム』


 Eランクのスライム型モンスター。


 その名の通り毒を持ったスライムだ。スライム同様、核を破壊しない限り敵を襲い続ける。


 強さは普通のスライムと変わらないが、厄介なのはその毒だ。


 ポイズンスライムは麻痺性の毒液を獲物に放出する。その毒液は大型のモンスターでも触れると全身が麻痺して暫くの間は動けなくなるほど危険なものだ。


 しかし、ポイズンスライムの毒液は薬の調合などに使用されるので結構な値段で売れる。


 「「「「「ゲギャギャギャギャギャギャ!」」」」」


 よく見ればゴブリンもいる。数はおよそ二十匹ぐらいはいるだろう。


 「戦闘開始だ!」


 レクター団長の言葉と同時にポイズンスライム達が煉太郎たちに向けて毒液を放出する。


 すると毒液は――虚空へと消えた。


 煉太郎だ。煉太郎の異能で異空間に収納されたのだ。


 「くらえ!」


 そして煉太郎は収納した毒液をゴブリン達に向けて放つ。


 「「「「「ゲギャアアアアアアアアアアア!?」」」」」」


 身体に毒液を浴びて、絶叫を上げるゴブリン達。毒液がかなり効いているようだ。


 この戦法は煉太郎が新しく編み出したもので相手の飛び道具(吐いた炎や放たれた矢など)を収納してそのまま返す方法だ。


 「良いぞレンタロウ! 皆、一気に畳み掛けるぞ!!」


 「「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」」


 煉太郎達は痺れて動けないゴブリン達を次々と倒す。


 ポイズンスライムも動く自体は大した速さではないので毒液さえ気をつければ良いので難なく倒すことが出来た。


 戦闘が終わり、暫く進むとレクター団長が歩みを止める。


 「よーし、ここで昼食にしよう! だが、警戒を怠るなよ!」


 煉太郎は異空間に収納しておいた冷たい飲み物や熱々のスープ、ふかふかのパンを出して皆に配る。


 ダンジョンに潜る者達は酷く簡易な食事で済ませてしまう。ある程度凝った食事を準備するとそれだけ荷物が増えて探索の邪魔になるからだ。


 それに、例え食材を用意してもダンジョンは常に危険と隣合わせだ。調理の準備をしている暇などないのだ。


 その点、煉太郎がいれば荷物の心配は必要ないだろう。


 ダンジョンに潜る前に用意した料理をそのまま収納しておけばいいのだから。


 皆に料理を配り終えると、煉太郎は「ふぅ」と息を吐き、食事を始める。


 すると愛美と凜が煉太郎に話し掛ける。


 「大活躍だね、荒神くん!」


 「いやいや、皆に比べたら俺なんてまだまだだよ」


 「謙遜しなくてもいいと思うわよ。荒神くんは十分戦力として活躍しているわ」


 「そうだよ荒神くん!」


 「櫻井、東郷……。ありがとう……」


 二人の言葉に心から礼を言う煉太郎。その言葉だけでも必死に頑張ってきた甲斐があるというものだ。


 「この調子で頑張ってね、荒神くん。荒神くんにもしものことがあったら愛美が困るんだからね?」


 「な、何を言ってるの凜ちゃん!」


 凜の言葉に思わず顔を赤らめる愛美。


 「だって本当のことでしょ? ダンジョンに入ってからチラチラと荒神くんのことをみてるし」


 「あ、あれは、荒神くん大丈夫かなって……も、もう知らない……!」


 拗ねる愛美。どうやらからかい過ぎたようだ。


 「ごめんごめん、許してよ愛美」


 愛美のご機嫌を取る凜。


 「ははは……」


 愛美と凜の会話に思わず笑ってしまう煉太郎。


 そんなやり取りをしていると、例の視線を感じた。これで何度目だろうか。


 しかも今度のは複数。視線の主を探そうと周囲を見渡すと途端に霧散する。朝からずっとこれの繰り返しだ。


 煉太郎はいい加減このやり取りにうんざりしていた。


 (一体誰なんだ……? 気味が悪いな……)


 そう思っていると――


 「よし、昼食の時間は終わりだ! ダンジョンの探索を開始するぞ!」


 レクター団長の声が響き渡る。


 (視線の事は気になるけど、今は訓練に集中しないとな……)


 煉太郎は食器を回収し、探索に集中するのだった。



 ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



 昼食を終えて、暫く歩いていると、八階層に通じる階段を発見する。


 「ん、何だあれは? ……スライム、か?」


 先頭を歩いていた勇悟が口を開く。


 階段の近くに赤いスライムがいた。大きさはバスケットボールぐらいだ。


 (このスライムは知らないな……)


 煉太郎は図書館の図鑑に載っていたモンスターの情報は全て頭に入れてある。


 だがこの赤いスライムは図鑑に載っていなかったので詳細が分からない。


 すると――


 「おいおい、またスライムかよ!」


 そう言って前に出たのは加賀だ。


 どうやら愛美に良い所を見せようとしているのだろう。


 「こんな雑魚スライム、俺の『爆炎ブラスト』でぶっとばしてやる――」


 「いかん!」


 加賀が赤いスライムに向けて『爆炎ブラスト』を発動する前に、レクター団長は赤いスライムに目掛けて長剣を振り下ろす。


 ブシュ、と手応えがない音を立てて、赤いスライムは真っ二つになる。


 「何すんだよ、レクター団長!? 俺の獲物だぞ!!」


 自分の獲物を横取りされてレクター団長を睨む加賀。


 「馬鹿者! お前のせいで皆に被害が及ぶところだったんだぞ!」


 レクター団長の言葉に全員に動揺が走る。


 「レクター団長、それは一体どういうことなんですか? この赤いスライムがそんなに危険なんですか?」


 勇悟の問いにレクター団長は詳しく説明する。


 この赤いスライムは『オイルスライム』と言うDランクのスライム種モンスター。


 特殊な油を吸収したスライムだ。


 このオイルスライムは火に触れると大爆発する性質を持っており、その威力は上級の火属性魔法に匹敵する。


 もし、加賀の『爆炎ブラスト』でオイルスライムを攻撃していたら、全員大きな被害を受けていただろう。


 「皆、弱そうに見えても決して油断するなよ!」


 そう言ってレクター団長は階段を降り、他の者もその後に続く。


 (何かの役に立つかもしれないし、一応回収しておくか……)


 オイルスライムの死骸を回収し、煉太郎は階段を降りるのだった。

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