ロロア
年齢は煉太郎と同い年くらいだろうか。黒い髪に狐のような耳と尻尾、体型は大き過ぎず小さ過ぎないモデルのようだった。
「ねえ、レンタロウ。これを見てよ」
フィーナが少女の首筋を指差す。
煉太郎も少女の首筋を見てみると、そこには魔法陣が施された首輪が付けられていた。
「これは……隷属の首輪か?」
以前、まだオルバーン王国に召喚されて間もない頃、城下町の奴隷商館で奴隷についての説明を受けたことがあったのでそれが何なのか直ぐに理解できた。
隷属の首輪とは奴隷などに付けられる首輪型のマジックアイテムである。
これを付けられた者は主人の命令に逆らえなくなり、命令に背くような行為を行えば身体中に激痛が走り、最悪の場合は死に繋がることになる。
外すには鍵が必要でそれ以外の方法で解除することはほぼ不可能とされている。
それが隷属の首輪というマジックアイテムの性能だ。
「なるほど、こいつはただの駒か……」
「それでどうするんですか、レンタロウさん? 確かにこの子は我々を襲いました。ですがそれは全て隷属の首輪をかけた者のせいです。この子に罪があるとは思えません」
「確かにな……。だが、隷属の首輪がある限りこいつは何も話さないだろう。さて、どうするか……」
煉太郎はこの少女をどうするか考える。
(待てよ、1つだけ方法があるぞ)
そして煉太郎は思いつく。鍵がなくとも隷属の首輪を外す方法を。
「ん、んん……」
すると、気絶していた少女が目を覚ます。
「よう、起きたか?」
「!?」
視界に暗殺対象の煉太郎が映り込み、動こうにも身体を拘束されているため、為す術がない少女。
「落ち着け。別にお前を殺そうとは考えていない。お前が俺の提案を受け入れるのなら殺さないでやる」
「………………」
隷属の首輪のせいか、何も喋ろうとはしない少女。
しかし、煉太郎の次の一言で状況は変わった。
「俺はお前の隷属の首輪を外すことが出来るかもしれない」
「!?」
先程までそっぽを向いていた少女がその言葉を聞き、煉太郎の方へと視線を向ける。
「お前が俺たちを襲った理由、誰が命令したのかを話してくれるなら首輪を外してやる。だが、もし逃げようなどと考えたり嘘を言うようなことがあれば即座に殺す。どうだ?」
「…………」
少女は少し戸惑った様子だったが、少女は小さく頷いた。
「よし、交渉成立だな」
煉太郎は異空間からヴェルシオンを取り出す。
ヴェルシオンはどんな物質、魔法の力を無力化して斬ることができる魔剣。だとすると隷属の首輪の効力を無効化して切断することも可能だと煉太郎は思ったのだ。
「--っ!?」
突如出現した禍々しい魔力を纏った大剣に少女は思わず息を呑む少女。
「行くぞ」
そう言って煉太郎はヴェルシオンを少女の隷属の首輪に目掛けて振り下ろす。
「--ッ!」
目の前にヴェルシオンの刃が迫り、思わず目を瞑る少女。だが次の瞬間、首からの違和感が消えた。
「……え?」
目を開くと、床には首に取り付けられた隷属の首輪が真っ二つになって転がっていた。
「嘘……ほ、本当に……?」
少女は信じられない様子で自分の首を触る。
そして本当に隷属の首輪が外れたと理解して少女は放心状態となっている。
「おい、さっそくだが俺の質問に答えて貰うぞ。まずはお前の名前から。もう知っているかもしれないが俺の名前は荒神煉太郎。そしてこっちがフィーナとセレン、クルだ」
「私はロロア……。狐人の獣人族です」
「狐人の獣人族だと? 見たところ人間族のように見えるが?」
「獣人族が少ないこの国では目立ちますから、普段はこのマジックアイテムで正体を隠しています」
そう言ってロロアが右手の人差し指の指輪を外すと、彼女に変化が起きる。
髪の毛は黒く染まり、頭には小さな狐の耳、そして狐の尻尾が生えている。これが彼女の本来の姿なのだろう。
「ロロアが狐人族なのは分かった。それで、どうして俺達を襲った? 誰に命令された?」
「領主であるエルドラの命令。そしてその命令を遂行するのが暗殺系クラン『黄昏の死神』の役目……」
「やはりあのバカ領主の仕業か。それに暗殺系クランとの繋がりがあることも本当だったようだな」
暗殺者が来た時点でエルドラが関わっていることを予想して煉太郎。そしてその予想が的中したことで煉太郎の覚悟は決まった。
「あのバカ領主だけは絶対に許さねえ……」
エルドラとのケジメを果たすことに。
「取り敢えず地上に戻って今後のことを考えよう」
「地上に戻るのはやめた方がいい……」
煉太郎の言葉にロロアは首を横に振るう。
「何? それはどういう意味だ?」
「貴方達は今、指名手配されている……」
「は?」
ロロアの言葉に煉太郎は目を丸くするのだった。