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落ちこぼれと呼ばれた超越者  作者: 四季崎弥真斗
3章 漆黒の暗殺者
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領主と暗殺者

煉太郎達がガーディアンと討伐し終えた頃より少し前--


 「あの下民冒険者が!!」


 部屋にエルドラの怒声が響き渡る。


 ここはエルドラ邸の一室。


数時間前に煉太郎が暴れた執務室ではなくエルドラの自室だった。だがその部屋は煉太郎が暴れた執務室以上に荒れ果てている。


 「よくも、よくも領主である僕の顔を殴りやがって!!」


 エルドラの顔中には包帯が巻かれているが、先程よりは腫れが引き、歯や鼻は治っている。大金をはたいて購入した高級ポーションのお陰だった。


 「クソ、クソクソクソクソクソ! あの男の顔を思い出すだけで腹が立つ!!」


 エルドラは机の上に置かれていたグラスを壁に向かって投げる。


 ガシャン!


 グラスが割れると、まだ中に入っていたワインが飛散し、壁や床の絨毯を汚す。


床の絨毯は上質なモンスターの素材で作られた上等な品物だが、エルドラはそんなことお構いなしと言った様子だ。


 「それにあの女達もだ! 僕の妾になることを断るなんて愚か者以外の何者でもないよ!!」


 「うぅ……旦那、様……もう、おやめ、ください…」


 「うるさいんだよ! 妾の分際で僕に口答えをするんじゃない!」


 エルドラは手にしている鞭を床に倒れている女性に振り下ろす。


「ひぐっ!?」


鞭で叩かれ、女性は小さく悲鳴を漏らす。


女性はエルドラの妾の1人であった。元々美しく整っていた顔は何度も殴られたせいで今では酷く腫れている。


 パシンッ!


そんな彼女のことなど御構いなしと言った感じで再度エルドラは鞭を振り下ろす。


 「--っ!?」


 鞭で叩かれた衝撃で女性の服は破れ、皮が裂け、血が床へと滴り落ちる。


 「も、申し訳ありません……」


 「分かればいいんだよ!!」


 エルドラは恐怖で顔を歪ます女性を見て暴力の快楽を感じたのか、何度も女性に鞭を降り下ろす。


 「ぐっ……あっ……!」


 幾度となく身体を鞭で叩かれ、あまりの激痛に堪えきれなくなったのか、女性は気を失ってしまう。


 「チッ、もう使い物にならなくなったか……」


 意識を失った女性にエルドラはつまらなさそうな視線向けて舌打ちすると、机の上にある鈴を手にして鳴らす。


 「失礼します、エルドラ様」


 数秒後、執事が部屋に入ってくる。


「なんてことを……」


女性の不憫な姿を目にして思わず呟く執事。


長年エルドラに仕えてきた彼でもこの状況は流石に心を痛めないわけにはいかなかった。


 「こいつを連れていけ。一応死なないように治療はしておけ」


 「……かしこまりました」


 エルドラに従い、執事は従者に女性を医務室まで連れていくように指示を出す。


 「爺や、『黄昏の死神』呼べ」


 「『黄昏の死神』をですか!?」


 エルドラの言葉に執事は思わず後退る。


 「ああそうだ。奴らにあのレンタロウとか言う冒険者の暗殺を依頼する」


 「お待ちくださいエルドラ様! 今、『黄昏の死神』を呼ぶのはあまりにも危険です。この間の貴族を暗殺した件で騎士団や冒険者ギルドがエルドラ様に目を付けています。もしものことがあれば決定的な証拠を与えてしまうことになります!」


 「心配ないさ。『黄昏の死神』は優秀な暗殺者達だ。失敗はしないさ」


 「ですが、あのレンタロウと言う人物の実力は本物です。その実力は『剣鬼』ラウアとの決闘を制する程と言う情報が入っています。もうあの者と関わるのはお止めになった方がよろしいと思われます」


 「うるさい! あの男を殺さないと僕の気持ちが収まらないんだよ!」


 「ですが!」


執事の忠告を聞こうとしないエルドラ。それほどまで煉太郎達に対する憎悪が彼の判断を鈍らせる。


 「もういい。僕に指図するなんて爺やでも許されない行為だ」


 そう言ってエルドラは執事に近づく。


 そして――


 ズブリ。


 妙な音と胸部の違和感。


ふと執事は視線を胸部に向けると、そこには短剣が深く突き刺さっていた。


 「……え?」


 訳が分からないまま、執事はその場に倒れ込んでしまう。


短剣は心臓を貫いており、最早助かる見込みはない。


 「じゃあね、爺や。今までご苦労様」


 長年仕えてきた執事に対して薄情な態度で口を開くエルドラ。


 視界が徐々に霞み、意識が薄れていくのを執事は感じた。


 (申し訳ありません、レンタロウ様。約束は果たせそうにないようです……)


 薄れていく意識の中、煉太郎達に内心で謝罪しながら、執事は静かに息を引き取った。


 「何事ですかエルドラ様――ひいっ!?」


 異変に気が付いた従者が部屋に入ると、死体となって倒れている執事の姿に尻餅を突く。


 「丁度いいところに来たね。そいつはもう必要ないから処分しておいてくれ。それと『黄昏の死神』を呼ぶんだ。仕事の依頼だと、ね」


「か、かしこまりました……!」


恐怖に表情を歪めながら従者は慌てて部屋を出て行った。



★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



30分後。


「『黄昏の死神』です。今回はどのようなご用でしょうか?」


エルドラの部屋に入って来たのは全身を黒装束で身に纏い、素顔を仮面で隠している『黄昏の死神』の暗殺者だった。声は男か女の声が混じっているので性別は分からない。


「来たか、お前に殺して欲しい奴がいる。冒険者風情のくせにこの僕の顔を殴った愚か者をね。これがその男の顔だ」


そう言ってエルドラは暗殺者に暗殺対象である煉太郎の似顔絵を投げ渡す。


「そいつを殺せ。それも無惨に、残酷に、徹底的に痛ぶって殺せ。あと、その男と同行している銀髪の女とエルフの女、そしてモンスターは生け捕りにしてここに連れてこい。僕の妾になることを拒んだことを後悔するほど可愛がってやりたいからね。その男は今、賢者の迷宮にいるはずだ。行け


「分かりました……」


そう言って暗殺者はエルドラの部屋を出て行った。


暗殺対象である煉太郎がいる賢者の迷宮へと。


「……念のために別の手も打っておくか」


部屋に残されたエルドラは机の上に置いてあるグラスを手に取り、中身のワインを飲み干すと、呼び鈴を鳴らして従者を呼ぶ。


「お呼びでしょうか、エルドラ様」


「至急ギルド長を呼べ。大事な話があるとね」


「かしこまりました」


従者は軽く一礼すると、部屋を出て行く。


「冒険者風情が僕に逆らうとどうなるか思い知るがいい!」


エルドラは不気味に笑うのだった。

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