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落ちこぼれと呼ばれた超越者  作者: 四季崎弥真斗
3章 漆黒の暗殺者
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それぞれの戦い後編

「“アースブラスト”」


「“アイスウァール”」


ダイスの魔法陣から放たれる礫をフィーナは氷の壁で防ぐ。


「これも防ぐか。なかなかやるじゃねえか」


フィーナの実力に思わず不気味な笑みを浮かべるダイス。


見てくれは盗賊丸出しだが、実はダイスには土属性の魔法の才能があった。魔法を無詠唱で発動することが可能で、その魔力量はB相当の魔法使いに匹敵するほどであった。


「ならちょっと本気出してやる。 “アースランス”」


石で形成された槍がフィーナに向けて放たれる。


フィーナもダイスの“アースランス”を発動すると同時に魔力を集中させる。


「“アイスランス”」


少し遅く氷の槍を放ち、ダイスの放った石の槍に直撃。相殺された。


(俺と同じ無詠唱で魔法を発動出来るも驚いたってのに、あれほど魔法を発動して何で息切れ1つしないんだよ……!)


先程から幾度となく中級魔法を発動し続けるフィーナとダイス。


余裕な態度を取ってはいるが、ダイスは魔力は底を尽き掛けていた。僅かだが肩で息をしている。


それに対してフィーナは息切れ1つしておらず、余裕の表情を浮かべている。


(まさか、俺よりも魔力量が上だっていうのか? ふざけるな! 俺の魔力量はランクBの魔法使いに匹敵するんだぞ! こんなクソガキに俺様が負けるはずねえんだ!)


ダイスは魔法に関してはそれなりのプライドを持っていた。


一般に魔法使いと呼ばれるには最低でも2種類以上の魔法適正を持たなければならない。彼は魔法適性が土属性しかないため、彼は魔法使いの道を諦めるしかなかった。


周囲の魔法使い見習いには虐げられた彼は土属性だけで成り上がろうと心に決めた。


独自で魔法の訓練に励み、ランクBの魔法使いに匹敵するほどまで魔力量を上げ、あらゆる土属性の魔法を習得した。


そんな彼の執念があったからこそ、ユーラシス帝国最大の盗賊団を築き上げることが出来たのだ。


だが、次のフィーナが言った言葉はそんなダイスのプライドを大きく傷付けることになる。


「これが貴方の本気なの?」


余裕の表情でそう言ったフィーナの言葉にダイスは完全にキレた。


「だったらこれならどうだ! “ロックブレッド”!」


土属性の中級魔法“ロックバレッド”。巨大な岩の塊がフィーナに向けて放たれる。岩の塊は物凄い勢いでフィーナに接近する。


フィーナは焦ることなく、魔力を集中させて魔法を発動する。


「“ダイヤモンドダスト”」


フィーナは氷属性の上級魔法“ダイヤモンドダスト”を発動。複数の細かい氷の刃は岩の塊を容易く砕き、ダイスを襲う。


「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


迫る複数の氷の刃に成すすべがなく、ダイスは身体を切り刻まれて行く。


身体の至る所に出来た傷口から血を流しながらダイスは膝をついてしまう。


「これ以上抵抗しない方がいいよ。大人しく投降して今までの罪を償うなら殺さないであげる」


苦悶の表情を浮かべるダイスにそう言うフィーナ。魔力を無くし、負傷した相手にこれ以上の戦闘は不可能と判断したのか、せめてもの情けをかけているようだ。


そんなフィーナの態度にダイスは腹が立った。


「余裕こいてるんじゃ……ねえぞ!」


叫びながらダイスは懐から注射器のような物を取り出す。中には紫色の怪しげな液体が入っている。


「まだだ。まだ終わらねえぞ……! お前を殺した後は残りの2人も殺してやる! 死んでも殺す!」


そう言ってダイスは注射器の針を自分の首筋に刺すと、液体を体内に流し込む。


すると、ダイスの身体に影響が出始める。


「ぐがあぁぁぁぁぁぁぁッ!?」


苦痛の悲鳴を上げるダイス。身体中の血管が浮き上がると、消費していた殆どの魔力が回復、更に向上していく。


ダイスが体内に流し込んだ液体は特殊な薬品で、違法な薬草を調合されて造られているものだった。


効果はマナポーションと似ており、体内に注入されると、限界以上の魔力を得ることが出来るが、その代償として寿命を大きく縮めることになる。


寿命を減らしてまで薬品を投与するとは、ダイスが煉太郎達に対する執念の深さが見て取れる。


「魔力が漲る! お前は俺の最大魔法で殺してやるよ!」


ダイスは己が発動出来る最大魔法でフィーナにとどめを刺そうと魔法を発動する。


「“アースジャイアント”」


ダイスの前に巨大な魔法陣が出現。そこから岩で造られた5メートル近くはあるゴーレムが召喚される。


ダイスが発動した“アースジャイアント”は土属性の上級魔法で、大型ゴーレムを召喚する。召喚された大型ゴーレムはランクBのモンスターに相当される。


「やれ、アースジャイアント! あの女を殺せ!」


召喚者のダイスに命じられ、アースジャイアントはフィーナに襲いかかる。


「……罪を償うつもりはないんだね?」


「当たり前だろうが! 俺様はこれからも殺して、奪い続けるんだよ!」


「そう、それは残念だね……」


フィーナは呆れたように小さく呟くと、右手をアースジャイアントの方へと向け、最上級魔法を発動する。


「“コキュートス”」


フィーナが魔法を発動した瞬間、周囲の気温が一気に低下、一瞬にしてアースジャイアントもろとも周囲を凍らしていく。


「な、俺様のアースジャイアントが……!?」


自分が使える最大魔法を呆気なく破られ、思わず後ずさるダイス。


そして氷は瞬時にダイスの足元から凍らせていく。


「さようなら、盗賊さん」


「……有り得ねえだろ……」


ダイスの全身は絶対零度の氷によって覆われると、そのまま砕け散るのだった。



★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



「はあっ!」


カルンウェナンを煉太郎は振り抜いた。


キィンッ!


カルンウェナンの刃を受け止めるディーンの黒鎧。


「これでも駄目か……」


高い硬度を誇るミスリルで造られたカルンウェナンの刃ですら傷一つ付かないディーンの黒鎧。しかも魔力を流して切れ味を増した状態でもだ。


「無駄だよ無駄。この鎧はオリハルコンで出来ているんだ。そんな短剣なんかじゃ傷1つ付けられないよ」


「なるほど。それでか……」


ミスリルを上回る世界で最も硬い鉱物とされているオリハルコン。それで造られた鎧ならミスリル製のカルンウェナンでも斬れないことに説明がつく。


(カルンウェナンでも斬れないのなら……)


煉太郎はタスラムに魔力を込めて引き金を引く。


ズドンッ!


爆発音と共に魔弾が発射される。


しかし、ディーンの鎧に当たる直前にその威力は低下。魔弾は鎧に弾かれる。


「変わった武器だね。恐らく魔力を具現化した塊を発射するといった感じだね。でも残念。この鎧は硬いだけでなく魔法耐性が備えられていてね、魔法及び魔力を帯びている物の攻撃を半減させるんだ」


「タスラムでは分が悪いということか。なかなかの代物のようだな……」


硬度が高いだけでなく魔法耐性を備えている黒鎧。


改めてディーンの黒鎧の性能に感心する煉太郎。


「じゃあ今度はこちらの番だ!」


お返しだと言わんばかりにディーンは手にしている剣を振るう。


気がつけば煉太郎は既にディーンの攻撃範囲内にまで迫られており、ディーンは剣を振りかぶっていた。


小さく息を呑み、殆ど反射的な動きとカルンウェナンで自分の肩を目掛けて振り下ろされた剣の一撃を防いだ。


「へえ、これを受けとめるとはなかなかやるね。ダイスが僕達に頼み込む訳だね」


ディーンも改めて煉太郎の実力を認める。今まで殺してきた冒険者とは一線を画す存在だと。


「ならこれならどうだい?」


そう言って再度剣を構えると、今度は煉太郎の顔面に目掛けて突きを放つディーン。


煉太郎はその突きを回避しようとするが、その瞬間--


「--ッ!」


一気にディーンの動きが加速し、魔剣の刃は一気に煉太郎の顔面へと迫る。


「チッ!」


煉太郎は身体を横回転させてギリギリのところで回避した。頬に出来た擦り傷から血が流れる。


(今の動きは明らかに変だ。それにあの剣……)


ディーンの動きが加速した直後、彼の持つ剣から僅かだが感じられる異質な魔力。それは煉太郎が持つ魔剣ヴェルシオンのものと似ていた。


「その剣は魔剣だな……」


「へえ、この剣が魔剣だとよく分かったね。これは所有者の身体能力を向上させる魔剣でね、銘はないけどそれでも古代級の価値はある自慢の代物さ」


ディーンは見せびらかすように魔剣を煉太郎に見せつける。


世界一の硬度を誇るオリハルコンで造られた鎧と身体能力を底上げする魔剣。最高の装備を整えているディーンの実力はラウアと同等--それ以上はあるだろう。


「この鎧と魔剣がある限り僕は絶対に負けない。君は僕に無様に泣き叫びながら殺される運命しかないんだよ。今まで殺して来た冒険者達のようにね」


不気味な笑みを浮かべるディーン。その表情は狂気に歪んでいた。


そんなディーンに煉太郎は質問する。


「俺も人を殺したことがあるから言えたことじゃないが、人を殺すことがそんなに楽しいか?」


煉太郎自身も決して少なくない人を殺してきている。だがそれはあくまで相手が殺されるべき悪人の場合や殺す必要があったから殺しただけで、決して快楽のためではない。


だから煉太郎にはディーンのことが理解出来なかった。


「楽しいに決まっているじゃないか! 恐怖に歪む絶望の表情! 皮膚や肉を絶たれるたびに発せられる悲鳴! それを見て聞いただけで興奮する! ああ、堪らないよ!」


恍惚した表情で語るディーン。その思想はもはや狂人と言うべきだろう。


「そうか……」


煉太郎はその言葉を聞いて無表情になり、 カルンウェナンとタスラムをしまう。


煉太郎の態度にディーンは溜息を吐く。


「やれやれ、敵わないと思って諦めたのかい? 他の冒険者みたいにもう少し抵抗してくれた方が面白かったんだけどね!」


そう言ってディーンは魔剣を煉太郎に目掛けて振り下ろす。


そして--


キィンッ!


甲高い金属音が鳴り響く。気がつけばディーンの魔剣の刀身が2つに分かれていた。


「へ……?」


ディーンは顔を引き攣らせながら首を傾げる。自慢の魔剣が折れたのだから。


そして--


ザシュッ!


今度は鈍い音と共に鮮血が舞う。折れた魔剣を握っているディーンの右腕と共に。


ディーンは恐る恐る右腕を見て見るが肘から先がなく、断面からは大量の血が噴き出している。


右腕がないと理解した直後、尋常ではない痛みがディーンを襲う。


「う、腕があぁぁぁぁぁ--っ!」


絶叫が周囲に木霊する。


「何で……オリハルコンの黒鎧を身に付けているはずなのに……!? どうして……どうして……!?」


ディーンは訳が分からないといった様子でぶつぶつと独り言を言うと、煉太郎に視線を向ける。


煉太郎の手にはいつのまにか身の丈以上はある大剣--ヴェルシオンが握られている。


「ま、まさか……それも魔剣か!?」


ヴェルシオンから発せられる尋常ではない威圧と禍々しい魔力に一目でそれが魔剣だと理解するディーン。


「そうだ。何でも斬ることが出来る魔剣だ。だからお前が自慢する鎧でも簡単に--」


煉太郎はディーンの左腕に目掛けてヴェルシオンを振り下ろす。


「斬ることが出来る」


「ぎゃああぁぁぁぁぁっ!」


もう片方の腕を失い再度悲鳴を上げるディーン。


「ば、化け物!」


ディーンは恐怖に顔を歪ませながら煉太郎から逃げようとする。


「逃すかよ」


しかし ディーンが逃げ出すよりも早く煉太郎はディーンの右足首を斬る。


「ぎゃあああぁぁぁぁぁっ!?」


片足を失ったせいでバランスが保てなくなりその場に崩れ落ちるかのように倒れるディーン。


「うるせえよ……」


念のためもう片方の足首も切断し、完全に立ち上がれないようにする煉太郎。


両腕両足を失いのた打ち回るディーンを煉太郎見下ろす。その視線はとても冷たく、そして濃厚な殺気を放っている。


「やめろ……助けてくれ!」


「助けてくれだと?」


「た、助けて下さい! 頼む、から……こ、殺さないで……下さい……! もう殺しはしません! 向いて罪を償います! 約束しますから! お願いします!」


ディーンは涙と涎を垂れ流しながら必死に命乞いをするディーン。その姿はまるで彼が今まで殺してきた者達のようだ。


「お前は今まで何人殺した? 今のお前のように命乞いをする奴らを平気で殺して楽しんでいたんだろう? それがいざ自分の立場になった途端に助けてくれとかふざけているのか? お前がどれだけ後悔しようが俺の知ったことではない」


煉太郎の無慈悲な言葉にディーンは口が開いたままだ。


「まだまだ切断する箇所はたくさんある。続けるぞ」


「ひっ……!」


冷血としか言い表せない程の圧力を放つ煉太郎に背筋が凍るディーン。


さらに煉太郎はヴェルシオンをディーンの右太腿に突き刺す。


「ぎゃあッ!?」


地面に縫い付けられるかのように固定されその場から逃げ出すことが出来なくなるディーン。


「この程度で終われると思うな」


煉太郎はカルンウェナンを取り出し、今度は片耳を斬り落とす。


「お、お願いだからやめてくれ!」


悲鳴を上げながら今更ながらディーンは後悔していた。


この男--荒神煉太郎という男を敵に回したことに。


「せいぜい苦しんでから死ね」


「嫌だぁっ! 誰か助け……ぐああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


それからしばらくディーンは煉太郎の一方的な拷問によって身体を幾重にも斬り刻まれながら絶命するのだった。

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