ダイス再び
地下2階層に降りた煉太郎達。
洞窟のような地下1階層に比べて地下2階層は割と整った雰囲気で、まるで遺跡のような構造物で出来ている。
「この地下2階層はガーゴイルっていうモンスターが複数いるから気を引き締めて進むよ」
『ガーゴイル』
ランクCの無機質型モンスター。
魔力で動く翼と鉤爪を待つ彫像。
非常に好戦的で目にした相手を手当たり次第に襲いかかる。
知能が高く、土属性の魔法を詠唱することが出来る。
ランクCのモンスターが複数いる地下2階層。地下1階層よりも格段に攻略難易度が上がっている。
流石の煉太郎達も警戒しながら地下3階層に続く階段を目指す。
しかし--
「変だな……」
順調に地下2階層を進んでいる途中で煉太郎はある違和感を感じて歩みを止めた。
「どうやらレンタロウも気がついたかい?」
ラウアも煉太郎と同じように違和感に気がついている様子だった。
「どうかしたの2人共?」
突然立ち止まる煉太郎とラウアにフィーナが訊ねる。
「気がつかないか? 地下2階層に到達してから今までの間にモンスターが1匹も出現しないことに……」
「--っ」
煉太郎の言葉に思わず息を呑むフィーナ。
地下1階層を探索している時は頻繁にモンスターが出現していたのに対して、もう30分は経過しているのに1匹もモンスターか出現しない。
どう考えても不自然過ぎる状況だ。
「何か起きているのでしょうか?」
セレンが不安そうな表情を浮かべる。
「それにこの階層に来て冒険者1人にすら遭遇しないのは不自然だね。ダンジョンに入る前に列の前に並んでいた冒険者の中にはCランク冒険者がいたはずなんだけどね……。ここまで来る途中には居なかったね」
ラウアの記憶が正しければ女戦士を筆頭に男狩人と男格闘家の3人組だった。転移装置がある広場で先に賢者の迷宮に転移した3人組の冒険者だ。
3人組とは顔見知り程度の関係であったが、順調に功績を上げている冒険者だったのでラウアも注目していた。
特に女戦士の実力は高く、近々Bランク冒険者に昇格すると言われる程の実力者であった。
そんな彼らに何か起きたのかと思っていると--
「きゃあああああああ!!」
突然の女性の悲鳴。それは地下2階層の奥からだった。
「今のは恐らく冒険者の悲鳴だ。行くぞ」
煉太郎は悲鳴が聞こえる地下2階層の奥へと向かうのだった。
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
悲鳴のする場所まで駆けつけると、そこには粉々に砕かれている複数のガーゴイルとCランク冒険者3人組の死体が横たわっていた。
「そんな、この3人組が……」
ラウアは信じられないと言った表情で動揺する。
この3人がガーゴイル如きに共倒れするとはどうしても思えないからだ。
「……」
煉太郎は念のために冒険者3人組の死体を調べてみる。
(変だな、この死体……)
女戦士は首をへし折られ、男武闘家と男狩人は右腕や耳などといった身体のあちこちを切断されている。
傷の痕跡や殺され方を見るに、どうやらガーゴイルの仕業ではないようだ。
(ガーゴイルではなければいったい誰がこんなことを……)
そう思ったその時だった。
「お、声がすると思って戻って来たらお待ちかねの連中がやって来たな」
「へえ、話に聞いていた通り中々の上玉ですね」
「へへへ、女だ女」
現れたのは『常闇の団』の頭領であるダイス、そしてディーンとバールの姿があった。
「あいつは確か『常闇の団』の……」
「ダイスだね。それにあの2人はディーンとバール。多くの冒険者を殺してきた凶悪な指名手配犯だよ」
(なるほど。俺達に報復するためにあの2人を雇ってここで待ち受けていたのか。となると、この冒険者達を殺したのもこいつらか)
ある程度の状況と冒険者達を殺した犯人を理解した煉太郎。
「相手をするのも面倒だからさっさと死ね」
パァン!
先手必勝と言わんばかりに煉太郎はタスラムの引き金を引いた。
銃弾は真っ直ぐダイスの額へと放たれるが--
「そうはさせませんよ!」
そう言ってダイスの前に割り込むディーン。
銃弾はディーンの身体を貫通--せずにそのまま弾かれてしまう。
「何?」
鋼鉄すら容易く貫通させる程の威力を誇るタスラム。その銃弾が弾かれてしまうという状況に煉太郎は首を捻った。
(あのディーンとか言う奴の鎧……タスラムの銃弾を傷すら残さずに防ぐとはかなり頑丈に出来ているようだな……)
敵ながら鎧の強度に思わず感心する煉太郎。
煉太郎の様子を見てディーンは笑みを浮かべる。
「中々威勢が良い冒険者ですね。僕はあの男性冒険者を狩らせて貰いましょうか」
標的を煉太郎に決めるディーン。
すると今度はバールが標的を選び始める。
「ディーンがあいつなら俺はあのエルフを貰おうか! エルフを殺すのは初めてだからな。腕が鳴るぜ!」
「なら俺様はあの銀髪の女だな。あの女には部下を何人も殺されたからな。俺様が直々に殺さねえと気が済まねえ!」
憎々しい形相をするダイス。
「随分と余裕だね。 4対3でこっちが有利なのがわかってるのかい?」
背中の大剣を抜き、構えるラウア。
ラウアの言う通り状況から考えて数が多い煉太郎達の方が有利だ。
だが、ダイスは余裕の表情を浮かべている。
「ほう、『剣鬼』も一緒か。お前の相手はこいつだ!」
そう言ってダイスは懐から黒い水晶玉のような物を取り出すと、地面に叩きつける。
ガシャン!
勢いよく割れた水晶玉から黒い煙のようなものが溢れると、殺された冒険者達の死体を覆っていく。
すると--
「「「ア、アアアアアアアアア……」」」
先ほどまで死んでいた冒険者達が動き始めた。皮膚は所々腐敗し、瞳は白濁と化している。その醜悪な姿はまさしくゾンビであった。
「死体をゾンビへと変化させる『死者の水晶』か……。厄介なマジックアイテムを所持してたね……」
憎らしい視線をダイスに向けるラウア。
ダイスのした行為は死者への尊厳を冒涜するような行為だ。彼女の性格からして同じ冒険者がそのような目に遭えば怒りを露わにするのも当然だろう。
「お前達は『剣鬼』を殺せ」
「「「アアァァァァ……!」」」
ダイスの指示に従い冒険者ゾンビ達はラウアに襲いかかる。
「レンタロウ、そっちの3人は任せたよ! こいつらを片付けたら直ぐに手を貸すからね」
「心配するな。俺達があんな奴らに負けると思うか?」
それを聞いてラウアは思わず苦笑する。
「はは、確かにね」
そう言ってラウアは冒険者ゾンビと共に煉太郎達の元を離れていった。
(ラウアの実力なら大丈夫だとは思うが念のために……)
煉太郎は肩に乗っているクルに視線を向ける。
「クル、ラウアの援護を頼む」
「クルル!」
煉太郎の指示を受け、クルはラウアの後を追いかける。
「さて、俺達も始めるか。フィーナ、セレン、行けそうか?」
「大丈夫だよレンタロウ。あんな奴らなんか私達の敵じゃないよ」
「任せてください」
「俺達3人を相手に対した余裕だな!」
「さあ、僕にとっておきの悲鳴を聞かせてくれよ!」
「その首へし折ってやるぜ!」