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落ちこぼれと呼ばれた超越者  作者: 四季崎弥真斗
3章 漆黒の暗殺者
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 エルドラの屋敷を離れた煉太郎達はダンジョンの入り口に繋がっている広場へと向かう。


 対談が思いのほか長く掛かってしまい、予定よりも1時間は遅れてしまっている。流石のラウアも待ちくたびれている頃だろう。


 「遅いよ、あんた達!」


 煉太郎達が広場に到着すると、案の定ラウアが眉間に皺を寄せて待っていた。


 「悪い悪い、待たせて済まないな」


 1時間も待たせて流石に申し訳ないと思って素直に謝る煉太郎。それに続いてフィーナ達も頭を下げる。


「まったく……」


 謝罪する煉太郎達にラウアは小さく溜め息を吐く。


 「まあいいよ。それより早く行くよ」


 ラウアに案内されダンジョンの入り口に到着するとそこには冒険者達による長蛇の列が並んでいた。


「流石に上位ダンジョンと言うだけあって結構な数の人が集まっているな」


賢者の迷宮へと入る門の前に並ぶ十数人の冒険者達を眺めつつ煉太郎は呟く。


そんな煉太郎の言葉にフィーナ達もまた頷きながら視線を巡らせた。


「訓練のために入る奴もいるけど、ダンジョン内には稀少な素材が存在するから、この街に住む冒険者にとっては重要な稼ぎになるのさ。さあ、アタシ達も列に並ぶよ」


「そうだな」


 煉太郎達は列の最後尾に並んで順番を待つことにする。


 「それで、領主に呼び出された理由は何だったんだい?」


 「ああ、フィーナとセレンを妾にしてやるだとか、クルを寄越せとか言われた。当然断ってやったけどな」


 「ああ、やっぱりね……」


 予想通りの展開に、呆れたようにラウアは呟く。


 「あの領主は大の女好きで有名だからね。フィーナとセレンの噂を聞けばこうなることは目に見えてたよ」


 「まあ、取り敢えずもう俺達に関わらないように躾はしておいたからな。もう会うことないだろう」


 「そうだよね」


 「レンタロウさん、領主さんをボコボコにしちゃいましたもんね」


 「ちょっと待ちな。今領主をボコボコにしたって聞いたけど、アタシの聞き間違いじゃないよね?」


 「いや、聞き間違いじゃないぞ。あの馬鹿領主を完膚なきまでぶん殴ってやったぞ」


 「マ、マジかい……?」


 頬を引きつらせながら思わず目を丸くさせるラウア。たが、次の瞬間からラウアの表情が険しくなる。


 「だったら気を付けた方がいいよ、レンタロウ。あの領主に目を付けられたら危険だからね」


 「危険? どういうことだ?」


ラウアの言葉に首を傾げる煉太郎。


 「あの領主を怒らせた大抵の奴が……死んでいるからだよ」


「何?」


 ラウアの物騒な物言いに僅かに煉太郎は眉を顰める。


 「何年か前にエルドラが気に入った女性がこの街にいたんだ。けどその娘には既に婚約者がいたようでね、当然エルドラの求婚を断ったらしい。けどその次の日にその婚約者は何者かに殺されたんだ」


婚約者の男は全身を刃物で何箇所も刺され、その死体は街の広場に磔にされた状態で発見された。


結局、婚約者を殺した犯人は分からずじまいで、真相は不明のままでその事件は終わることになった。


「婚約者を殺された娘は悲しみに暮れ、数日後に行方不明になったんだ」


 「それは不可解だな……」


 「他にも貴族同士で行われるパーティでエルドラに因縁を吹っ掛けて来た貴族がいたらしくてね。その貴族も数日後に水死体として発見されたようだよ」


 「それもまた不可解な話だ」


 「1週間前にもとある貴族が暗殺されるっていう事件もあってね。何でもエルドラの汚職に関する情報を入手したらしく、それが原因で殺されたって噂だよ。領主だけでなく従者と兵士の殆どが殺されたようだよ」


 その調査にはラウア率いる『守護の剣』も参加していたようで、その悲惨な光景にラウアも目を逸らす程であった。


「殆どということは生き残りがいたのか?」


「ああ。兵士が数人ね」


僅かだが生き残っていた兵士もおり、そちらは睡眠薬か何かで眠らされていたようだ。


 違う犯行の手口から暗殺者は2名いたと推測されているが、それ以外の情報は分からなかった。


 「けど、そんなに悪い噂があるのにどうしてここの領主さんは捕まらないんですか?」


 不思議に思い、ラウアに尋ねるセレン。


 「エルドラがその暗殺に関わっていると言う決定的な証拠がないからさ。流石に証拠がないと騎士団も冒険者ギルドも迂闊に動けないんだよ」


 「決定的な証拠、ね……」


先程のエルドラの態度を考えれば、十中八九エルドラがその暗殺に関わっていることは間違いないと煉太郎は思う。


だが、先程の一件も些細な口論の末の事件として片付けられる程度のことで、エルドラを逮捕する証拠には到底ならない。その程度の事件なら貴族の力で強引に黙認させるほどの権力がエルドラにはあった。


エルドラが暗殺に関わっているという証拠がなければ逮捕することは不可能だろう。


 「何にせよ気をつけることだね。噂では暗殺ギルドとも手を組んでいるとも言われているらしいからね


 「分かった。肝に免じておくよ」


ラウアの忠告を素直に聞く煉太郎。


エルドラはともかく暗殺ギルドのことが気になる煉太郎。このセバーラに滞在している間はさらに警戒しておこうと思った。


「次の方どうぞ」


やがて煉太郎達の順番がやって来て、受付のところへ向かう。


「冒険者カードと通行証の提示をお願いします」


「これで」


煉太郎達は冒険者カードと通行証を受付に見せる。


「問題ありませんね。では門の中へ」


受付の指示に従い、煉太郎達は門の中に入る。門の中は半径10メートル程の広さがある広場で、その中心には巨大な水晶玉が設置されている。


「何かな……あれは?」


水晶玉を見つめながらフィーナが首を傾げる。だが水晶玉か何なのかは直ぐに判明することになる。


3人組の冒険者が水晶玉に触れると水晶玉が発光し、次の瞬間には3人組の冒険者の姿は消えていた。


「あれがダンジョンへと転移させる転移装置だよ」


ラウアによると『賢者の迷宮』はセバーラの地下深くにあり、転移装置はそこへと一瞬で転移させる仕組みになっている。


ちなみに転移装置は『賢者』が古の知識を駆使して造り出したマジックアイテムのようだ。


「ほう……」


転移装置を見つめながら煉太郎は感嘆の声を漏らす。


目の前の水晶玉が転移系統のマジックアイテムなら地下3階層の最深部に眠る財宝の中にも同じような性能を待つマジックアイテムがある確率が高くなったからだ。


「これは是が非でもダンジョン攻略を目指さなければならないな」


賢者の迷宮攻略に俄然やる気が高まる煉太郎だった。


「それにしても、何だか周りが騒がしいですね」


「ん、確かにな」


セレンの言葉に改めて広場の様子を眺める煉太郎。


先程は転移装置ばかりに気を取られていたが、転移装置の周辺には結構な人数の冒険者の姿があった。


何をしているのかと注意を向けると、少なくても1人、多くても数人の集団が周囲にいる冒険者達に声を掛けていた。


「戦士を募集しています。是非、私と共にダンジョンへ」


「火と風の魔法適正を持っています。後衛なら任せてください」


「回復系統の魔法を使える魔法使いはいないか! いたら是非、我がパーティに入ってくれ!」


「力だけなら自信があります。荷物運びなら任せてください」


「弓の腕なら自信があります! 短剣の扱いにも長けています! 是非僕をパーティに入れてください!」


自分が希望する能力を持つ者がいないか、自分の能力や長所を言って少しでもダンジョン攻略を高めるために優秀な人材を求めて売り込む冒険者達。


「なあなあ、そこの人達」


当然、煉太郎達にも声を掛ける冒険者達もいた。


煉太郎達に声を掛けて来たのはレザーアーマーを纏った男の戦士だった。


「見かけない顔だが、ここは初めてかい? もし良ければ俺と組まないか? ダンジョン内にはモンスターや罠がいっぱいだ。俺はランクDの冒険者で長い間このダンジョンに通い詰めているから地下2階層なら余裕で--」


「誘ってくれるのはありがたいが、断る」


パーティを組むとことを提案しようとする男戦士の言葉を最後まで聞かずに断りを入れる煉太郎。


案内役としてはラウアがいるし、戦力的にも充分過ぎる程の実力者が揃っている。


それに男戦士のチラチラとフィーナ達をみる視線。明らかに下心丸見えの視線を向けていることに煉太郎は内心不快感を抱いていた。


「おいおい、ここのダンジョンは初めてなんだろう? だったらベテランの俺が一緒にいた方が無事に--」


「それならアタシがいるから安心しな」


煉太郎と男戦士の間にラウアが割って入る。


「け、『剣鬼』……」


自分よりも2ランク上でこのセバーラで唯一のBランク冒険者であるラウアに思わず動揺する男戦士。


「失せるんだね。アンタがいなくてもアタシ達は大丈夫なんだよ」


「チッ、何でこんなところに『剣鬼』がいるんだ……」


これ以上話をしても無駄だと判断したのか、男戦士はブツブツと呟きながら行ってしまう。


「悪いなラウア」


「気にしなくてもいいよ。ああ言った奴は鼻持ちならないからね。それよりも早く行こうじゃないか」


「ああ、そうだな」


煉太郎達は転移装置に触れて、賢者の迷宮の地下1階層へと転移するのだった。

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