落ちこぼれの戦い方
「はぁあああああああっ!」
「ギャンッ!」
気合の入った雄叫びと共にエクスカリバーを振るい、犬型のモンスターを斬り裂く勇悟。
勇悟が斬り裂いたのはブラックドッグと言うモンスターだ。
『ブラックドッグ』
Fランクの犬型モンスター。
別名『黒い猟犬』。
その名の通り、全身黒い毛の犬のようなモンスターで、大きさは中型犬ぐらいはある。
仲間意識が高く、群れで行動する習性を持つ。
その黒い毛皮はコートなどの衣服に使用されることが多い。
飼い慣らせば人に懐くため、猟犬や番犬としても使用されている。
現在、煉太郎達は3階層まで降りていた。
途中でスライム(ランクFのスライム型モンスター。半透明な球体形の軟体モンスターで心臓のような役割を持つ核を破壊しない限り襲い続ける)やホワイトバット(ランクEの蝙蝠型モンスター。全身が白く、暗い場所を好んで生息している。動物の血を吸って生きている)、ホーンラビット(ランクEの兎型モンスター。額に螺旋状の角を生やしており、肉は食用に適している)などのモンスターに遭遇したりしたが、難なく撃破した。
ブラックドッグの群れを難なく全滅させると、レクター団長が全員に指示を出す。
「よし、少し休憩にしよう。煉太郎、皆に飲み物を出してやれ。それとモンスターの回収もな」
「分かりました……」
レクター団長に頼まれ、煉太郎は異空間からコップと飲み水が入った水筒を取り出し、生徒達に配給する。
配給を終えると、煉太郎は辺りに転がるブラックウルフの回収を始める。
モンスターの素材は金になる。モンスターの素材は武器や防具、薬品、日用品などに使われるため、高値で取り引きされるのだ。
この訓練が終わり次第、換金してそのお金を皆で分配するそうだ。
(はぁ~、これじゃあ完全にお荷物扱いだよな……)
そう思いながらブラックドッグの死体を回収し終えると、レクター団長が煉太郎に声を掛ける。
「レンタロウ、次の戦闘は騎士団の援護なしで戦ってみないか?」
「えっ?」
これまで煉太郎は目立った功績を残していない。精々、勇悟達が倒したモンスターの回収か、休憩時に水や食料などを出すぐらいだ。
一応、騎士団が弱らしたモンスターを倒したが、それだけで特に目立った活躍は見せていない。
「いつまでも弱ったモンスターが相手ではお前の訓練にならない。もしもの時は俺が助けるやる。どうだ、やってみないか?」
「そうですね……」
正直、煉太郎もこのままお荷物扱いされるのは御免だった。
他のクラスメイトが頑張っているのに、自分だけが役に立てないのは我慢ならなかった。
それに、煉太郎の取って置きもまだ披露していない。
「分かりました。やらせてください!」
煉太郎はレクター団長の目を見据えながら、そう告げた。
その覚悟を宿した目を見て、レクター団長は笑みを浮かべた。
「よし、やってみろ!」
「はい!」
と、その時――
「敵襲です! 数は10匹以上です!」
「よし、全員戦闘体制に入れ!」
レクター団長の言葉を聞いて全員は武器を取り、先頭の準備に入る。
「レンタロウ、お前の戦いを見せてもらうぞ!」
「はい!」
そう言って、煉太郎は鞘から剣を抜き、洞窟の奥に視線を向ける。
その先には巨大な牙を生やした猪のような姿をしたモンスターの群れがこちらに向かって来る。
『ファングボア』
ランクDの猪型モンスター。
極めて図太い繁殖力と適応力があり、ラディアス全土に生息している。
その肉はクセの強い味ながらも食用に、牙は武器と装飾に、皮は服飾にと、捨てるところがないと言われている。
非常に攻撃的な性格で、敵を見つけたら見境なく突進してくる。
「ファングボアは真っ直ぐにしか突進が出来ない。上手く避けて攻撃しろ!」
「「「「「プゴォォォォォォォォォォッ!」」」」」
ファングボア達が結構なスピードでこちらに突進して来た。
しかし、真っ直ぐにしか突進出来ないのが分かっていれば避けるのは簡単だ。全員難なく避けて、反撃を開始する。
ファングボアも勇悟達の敵ではなく、次々と倒されていく。
そして、最後の一匹となった所で、レクター団長が勇悟達に戦闘をやめるように言う。
「レンタロウが一人で戦う、皆は手出しはするなよ!」
どうやら煉太郎のために残しておいてくれたようだ。
「おいおい、荒神だけで大丈夫か?」
「あいつには無理だろ」
「違いねぇ!」
加賀達はゲラゲラと笑い、他の生徒達もクスクスと笑っている。
「荒神くん……」
「彼なら大丈夫よ」
心配そうに顔を曇らせる愛美を落ち着かせる凜。
煉太郎は目の前にいるファングボアに意識を集中させる。
今まで倒した弱ったモンスターではない。万全状態のモンスターだ。しかもDランク。
煉太郎にとっては決して侮れない相手だ。
ファングボアは煉太郎の姿を捉えると、物凄い勢いで突進してくる。
「危ない、荒神くん!」
愛美の声が響き渡る。
煉太郎はファングボアの突進をギリギリの距離で避けると、突然少し粘り気のある液体がファングボアに降り注ぐ。
「プゴオッ!」
粘り気のある液体に足を滑らして転倒するファングボア。
それと同時に炎が出現して――
ボボボボボボボボボボボボボウッ!
一瞬にしてファングボアを業火が包み込んだ。
「「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」」
まるで爆発したかのような炎の燃え方に、勇悟達は唖然としている。
「プゴォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
炎に包まれながら断末魔を上げて、ファングボアは力尽きてしまう。
「ふぅ、討伐成功……」
煉太郎は一人で頷いているが、無論、勇悟達は説明を欲しているかのように呆けていた。
煉太郎に魔法適性がないことはこの場にいる全員が知っている。
しかし今、煉太郎は炎でファングボアを倒したのだ。
「なあレンタロウ、お前は今、何をしたんだ? 今のは……魔法か?」
レクター団長が不思議そうに尋ねる。それはその場にいる全員の気持ちを代弁しているので、皆一様に「うんうん」と頷き、回答を待つ。
「あれは魔法じゃないですよ。油を使ったんです」
「油……だと?」
煉太郎の戦略は至って簡単である。
まず、あらかじめに大量の油と火を異空間に収納しておく。
そして戦闘の時にはその油をモンスターにかけ、火を使えばあっという間にモンスターを火だるまにすることが出来る。
煉太郎の考えた戦法にレクター団長は笑い声を上げた。
「ハハハハハハハ! 何て戦法を考えるんだ、大した奴だ!」
煉太郎の背中をバンバンと叩いて褒めるレクター団長。
煉太郎の『異空間収納』は物を出し入れするだけしか出来ない、戦闘には不向きの異能だ。
しかし、煉太郎はその異能で普通では考えられない戦法を思いついたのだ。
煉太郎の考えた戦法にレクター団長は心から感心した表情をする。
他の生徒達も少しは煉太郎のことを見直したのか、感心した表情をしている。その中には面白くないと言いたげな表情を浮かべる者もいるが……。
愛美も無事にモンスターを倒した煉太郎を見て、安心したような表情をしている。
周囲の反応に、少し照れくさそうに頬を掻く煉太郎だった。