領主との面会
受付嬢から貰った地図を頼りに街を進む煉太郎達。
現在煉太郎達が歩いている場所は煉太郎達が宿泊している幸福亭や冒険者ギルドがある市街地から離れた貴族や大商人、裕福層が住んでいる貴族街だ。
流石は貴族街と言ったところか、煉太郎達が宿泊している『幸福亭』よりも大きい屋敷が幾つも建っている。
道路には綺麗に整えられた石畳が敷かれており、土が剥き出しになっていたり、ゴミが落ちていたりする市街地とは大違いだった。
露店の類いは一切なく、代わりに各々の豪邸には大きな門とその前に立つ門番の兵士が非常に目立つ。恐らく門番として雇われている冒険者か傭兵と言った類の者達だろう。
(あまり居心地が良いとは言えないな……)
豪邸を通り過ぎる度に兵士達に視線を向けられて、内心で呟く煉太郎。
このセバーラという街は基本的に冒険者の数が多い。そしてそれだけ冒険者の数が多いと言うことは、中には質の悪い冒険者もいると言うことだ。その中には強盗まがいのことをする冒険者もおり、そんな者達が屋敷を襲って金目の物を盗もうとする輩から屋敷を守るのが門番の役目だ。目をギラつかせるのも無理はない。
門番達から視線を受け続けながらも貴族街を進む煉太郎達。
「ここだな……」
そしてようやく、エルドラの屋敷に到着した。
「大きいね……」
「はい、他の屋敷よりも遥かに大きいですねこれは……」
「クルル……」
あまりの屋敷の大きさに思わずポカンと口を開くフィーナ達。
周囲の屋敷も大きいが、エルドラの屋敷はそれを圧倒する大きさでおよそ5倍はあり、庭の面積も非常に広い。屋根も周囲の落ち着いた色の屋根と違って派手な色でかなり目立っていると言える。
「貴族の感性って分からないもんだな……」
あまりの趣味の悪さに悪態を吐く煉太郎。こんな屋敷には流石に棲みたくないと思ったからだ。
「さっさと用事を済ませてダンジョンに行こうか」
そう呟いて、煉太郎達は門へと向かって歩いていく。
すると、エルドラ邸の門番2人も煉太郎達が近付いてくるのに気が付いたのか、視線を向ける。
互いの視線が交わったまま煉太郎達が門の前まで近づくと、門番が持っていた槍を交差させて門を塞ぐ。
「ここは領主の屋敷で間違いないか?」
「そうだが、お前達は何者だ? 何の用が在ってここに来た?」
「俺達はここの領主から呼び出しを受けて来た冒険者だ。領主との対談を望む」
門の左側に立っていた門番が尋ねると、煉太郎は領主のエルドラの呼び出しに来たことを門番達に告げる。
「何? 少し待っていろ……」
それを聞いた右側の門番は煉太郎達に待つように指示すると、屋敷の中へと行ってしまう。
しばらくすると、門番は執事服を着た老人の男性を連れて戻ってきた。
「フィーナ様とセレン様ですね? 主が屋敷でお待ちしております。どうぞ中へ」
執事に指示され、門を通ろうとする煉太郎達。
しかし――
「申し訳ありませんが、主はフィーナ様とセレン様だけをお呼びしております。お連れの方はご遠慮頂きたいのですが……」
案の定、煉太郎が屋敷に入ることを拒否する執事。
そんな執事の言葉に煉太郎は溜め息を吐く。
「そうか。ならば呼び出しに応じる必要はないな……。フィーナ、セレン、帰るぞ」
「――なっ!?」
踵を返して帰ろうとする煉太郎達。流石にその対応は予想外だったのか、思わず絶句する執事。
「お、お待ちください! 」
慌てて煉太郎達を引き留める執事。まるで帰られると困るかのように焦っている。
「主が誰か知っているのですよね?」
「ああ、この街の領主だろう?」
「そうです。その領主様の呼び出しを断ると言うのですが?」
「そうだ。いくら領主だと言っても、顔も知らない奴にフィーナとセレンだけ会わせるのは信用出来ない。どうしても2人を領主に会わせたいのなら俺も同行する。それが嫌なら俺達はこのまま帰る」
相手が領主であろうと物怖じない煉太郎に動揺を隠せない様子の執事。
「さあどうする? 別に俺達は領主のことなんて知ったことではないからな。それにこのまま俺達が帰ればお前が罰を受けることになるんじゃないのか?」
「そ、それは……」
煉太郎の言う通りだった。エルドラからは必ずフィーナとセレンを屋敷に連れてくるように指示されている。もし彼の命令を遂行出来なければ――考えただけで怖気立つ執事。
「……分かりました。どうぞお入りください」
領主の命令の為、渋々煉太郎も屋敷に入れることを許可する執事。
このまま黙ってフィーナとセレンに帰られるよりも、煉太郎を同伴させてでもエルドラに会わせる方が得策だと考えたからだ。
執事に案内されて屋敷の中を歩く煉太郎達。
外も非常に豪華だが、中も豪華だった。
廊下には赤い絨毯が敷かれており、壁には美しい壁画、台座には美しく高価そうな壺などが飾られており、天井には魔石で光るマジックアイテムのシャンディアが吊るされている。
「ここが主の執務部屋です」
長い廊下を歩き続けてようやく領主の執務部屋に到着する煉太郎達。
コンコン。
扉をノックする執事。
「入ってくれ」
扉の奥から入室の許可を出す声。
「はい。失礼します」
一言声を掛けて扉を開く執事。
「お連れしました、エルドラ様」
「うん、ご苦労様。待ちくたびれたよ。さぁ、中に入ってくれ」
執務部屋に入室すると、領主のエルドラが煉太郎達を迎える。
「やあ、来てくれたんだね? 僕はこの街の領主――って、何で男がいるんだ?」
煉太郎が執務部屋に入室するのを見て態度が豹変するエルドラ。不快そうに目を細める。
「爺や、どうして男が一緒にいるんだい? 僕は女の子達だけを呼べと言ったよね?」
執事を睨むエルドラ。
「も、申し訳ございません……。彼が同行しなければ呼び出しには応じないと言われたので、仕方なく屋敷に入れることを許可したのです。どうかご了承ください……」
肩をふるわせながらも必死で弁護する執事。
そんな執事の対応にエルドラは小さく溜息を吐く。
「まあ、命令通りに女の子達をここに連れて来たから良しとしようか。ご苦労だったね、爺や。もう下がっていいよ」
「ありがとうございます。では、失礼します」
エルドラの寛大な心に感謝しながら執事は執務室を出て行く。
「さて、まずは自己紹介するとしようか。僕はエルドラ=セバーラ。このセバーラの現領主だ。君達はフィーナとセレンだったね」
微笑みながら自己紹介するエルドラ。ちなみに煉太郎には一度も視線を向けようとしない。完全に眼中にない様子だ。
「君達をここに呼んだのは他でもない。単刀直入に言うね。僕の妾になれ」