領主の呼び出し
ラウアとの決闘から一夜明けた次の日。
朝早くから煉太郎達は冒険者ギルドへと向かっていた。この街にあるダンジョン--賢者の迷宮に入る許可を貰う為だ。
「おはようございます」
冒険者ギルドに入ってきた煉太郎達を見て声を掛ける受付嬢。
「ダンジョンの賢者の迷宮に入りたいんだが、許可を貰えるか?」
「はい。こちらの書類に賢者の迷宮を探索する方の名前を記入してください」
渡された書類に煉太郎、フィーナ、セレンの名前を記入して受付嬢に渡す。
「では、こちらをお受け取りください」
受付嬢が通行証のような物を煉太郎に差し出す。
「これは賢者の迷宮に入る為の通行証です。これと冒険者カードを入り口にいる受付に見せればダンジョンに入ることが可能です。貴重品ですから決して無くさないでくださいね?」
「分かった」
そう言って煉太郎は通行証を受け取る。
「さて、ラウアはまだ来てないようだし、そこの席で待っているとするか」
ラウアとはこの冒険者ギルドで待ち合わせをしていた。『常闇の団』の壊滅に協力した報酬としてラウアには賢者の迷宮の最新部まで案内を頼んでいる。もうしばらくすれば来るだろう。
「あ、ちょっと待ってください!」
唐突に受付嬢に呼び止められて立ち止まる煉太郎達。
「どうした?」
「あの、ですね。実はフィーナさんとセレンさんだけに呼び出しが掛かっているんですが……」
どこか申し訳なさそうに口を開く受付嬢。いつも颯爽と仕事をこなしている彼女にしては珍しい態度であった。
「呼び出し?」
「私達だけですか?」
突然の呼び出しに首を傾げるフィーナとセレン。
「ほう……フィーナとセレンだけを、ね。2人は俺の大切な存在だ。そんな2人を呼び出しておいて俺は呼び出しなしか? 明らかに可笑しいだろう?」
自分だけ除け者にし、フィーナとセレンだけを呼び出すと言う人物の行為。明らかに下心があると煉太郎は確信していた。
「そ、そうなんですが……」
受付嬢もそれを理解しているのか、困ったような表情を浮かべる。
「で、用件は何なんだ?」
「申し訳ありません。ギルド側としては何も知らされていません。ただ、フィーナさんとセレンさんを呼び出して欲しいと言うことで……」
「どこの誰なんだ? そんな不躾な呼び出しをする奴は?」
煉太郎に尋ねられて受付嬢は微かに眉を顰めるとその人物の名を口にする。
「この街の領主であるエルドラ=セバーラ様です……」
「ほう、領主がね……」
「はい。どうやら昨日の皆様のご活躍が領主様の耳に入ったらしく、是非ともお話がしたいとのことです……」
「お話、ね……。ちなみにその呼び出しを断ると言うのは有りか?」
「それは可能です。これはあくまで向こうの一方的な要求ですから、冒険者がそれを強制的に応じる権利はありません。ただ、冒険者ギルドとしては領主様の呼び出しには応じた方がよろしいかと思われます……」
何しろ相手はこのセバーラの街の支配する領主からの呼び出しだ。もしその呼び出しに応じなければ煉太郎達にどのような嫌がらせを与えるか分からないと言うのが受付嬢の気持ちだ。
それにエルドラは冒険者ギルドに多額の運営資金を出して貰っている。だから冒険者ギルドとしてはエルドラの機嫌を損ねたくないのが正直な見解でもあった。
「……ふむ」
受付嬢の複雑な表情を見てある程度の予想が付いた煉太郎は、数秒程考え事をして小さく頷いた。
「いいだろう。領主に会いに行こう。ただし俺も付いていくからな」
煉太郎としてもこの街に滞在する間は余計な揉め事は避けたいところだった。1度呼び出しに応じておけば厄介事は早々起きないだろうと考えたようだ。
「あ、ありがとうございます!」
もしかしたら断られるのではないかと思っていたのか、思わずホッとする受付嬢。
「それで、領主の屋敷はどこにあるんだ?」
「あ、はい。こちらをどうぞ」
煉太郎達が領主の呼び出しを受けた場合を予想していたのか、エルドラの屋敷がどこにあるのかを記載された街の地図を煉太郎に渡す受付嬢。
どうやらエルドラの屋敷は富裕層にあるようだ。
「ねえレンタロウ、ラウアはどうするの? 確かここで待ち合わせしてるよね?」
「あ、そうだったな。悪いが言伝を頼めるか? 先に賢者の迷宮の入り口に行っておいてくれ、と。領主との話を終えたら直ぐに向かうとラウアが来たら伝えておいてくれ」
「分かりました。伝えておきます」
「それと、ギルドマスターのザーギィに貸し2つ目と伝えておけよ?」
「わ、分かりました……」
意外とちゃっかりしている煉太郎に思わず苦笑いをする受付嬢。
そう言い残して煉太郎達はエルドラの屋敷へと向かうのだった。
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
煉太郎達がエルドラの屋敷へ向かって数分後、ラウアが冒険者ギルドに訪れた。
「あれ? レンタロウ達の姿が見当たらないね。もしかして遅刻かい?」
周囲を見渡しても煉太郎達の姿が見当たらず、思わず眉間に皺を寄せるラウア。
「あ、おはようございますラウアさん!」
ラウアの姿を見て、受付嬢が駆け寄る。
「レンタロウさん達をお探しですよね? 3人は領主様に呼び出しを受けまして、今は屋敷に向かっています」
「領主の館にかい?」
「はい。ですので先に賢者の迷宮の入り口に行くように、とレンタロウさんから言伝を受けています」
「確かにあの3人なら呼び出しを受けるのも当然だろうね」
僅か2日だが、煉太郎達の噂は街中に広がっていた。
『常闇の団』を壊滅させて攫われた商人達を救出した快挙、そして何より『守護の剣』のリーダーである『剣鬼』の異名を持つランクBの冒険者ラウアとの決闘に勝利したのだ。そんな煉太郎達を貴族や権力者が呼び出しても不思議でないことだった。
「しかし、よりにもよって領主からの呼び出しかい……」
煉太郎達を呼び出した相手が領主のエルドラと聞いて、深刻な表情を浮かべるラウア。
「あんた、ちゃんとレンタロウ達に言ったんだろうね? 領主が超が付く程の女好きだと言うこと」
「あ、そう言えば煉太郎さん達に言うのを忘れてました。領主様が有名な女好きなことを……」
煉太郎達をエルドラの呼び出しに応じないのではないかと気が気でなかった為、肝心なことを言い忘れていた受付嬢。
受付嬢の言葉にラウアは思わず溜め息を吐く。
長年冒険者としてこのセバーラの街を拠点にしているラウア。
当然エルドラが大の女好きだと言うことは知っている。そしてもう1つの良からぬ噂も……。
(レンタロウ達、変なことに巻き込まれなければいいんだけどね……)
ラウアは心中で煉太郎達の身を案じ続けるのだった。




