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落ちこぼれと呼ばれた超越者  作者: 四季崎弥真斗
3章 漆黒の暗殺者
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セバーラの領主

 「ああ~、憂鬱になるな~」


 セバーラの街にある富裕層にある大きな屋敷の一室で青年は溜め息を吐きながら呟く。


 彼の名前はエルドラ=セバーラ。若くしてこのセバーラの街を治めている領主である。


 憂鬱の原因は机の上に置かれている書類の山だった。


領主となればやることが多い。街の修繕や治安の問題、税の取り立てなど目を通す必要がある書類が沢山あるのだ。


 「あー、もう嫌になるな~……」


 処理をしても次々と追加される書類の数々。特にここ数日間はろくに外出も出来ない状況だったからか、うんざりしたようにエルドラは書類を押し退けて伏せてしまう。


 コンコン。


 重厚な扉をノックする音が響き渡る。


 「入っていいよ~」


 「失礼します。エルドラ様」


 エルドラが応えると、部屋に執事服を着た老人が入ってくる。


 「おやおや、また大事な書類をこんなに散らかして」


 執事はいつものことだと、散らばった書類を拾い始める。


 「だってさ、こう毎日書類と睨めっこしてたら憂鬱にもなるよ~」


 「それが領主としての務めです」


 そう言って拾った書類を机に置く執事。


 「そうだけどさ~……」


 まるで子供のように駄々を捏ねるエルドラ。


 先代領主――エルドラの父親が病で亡くなってもう3年。エルドラは未だに領主としての自覚が足りていなかった。長年エルドラに仕えている執事が頭を悩ませる要因でもある。


 だが、それは些細なことである。エルドラの持つ厄介な性格に比べれば……。


 「それよりどうしたんだい爺や? 何かあったのかい?」


 「はい。つい先程ですが『常闇の団』を壊滅させた『守護の剣』が街に戻って参りました」


 「『守護の剣』って確か『剣鬼』のラウアがリーダーを務めているクランだったよね? でも『常闇の団』って神出鬼没でアジトの場所やその足取りすら掴めなかった筈だよね? どうしてアジトの場所が分かったんだい?」


 「何でも昨日この街に来た冒険者の少年が特殊なマジックアイテムでアジトの場所を突き止めたようです」


 「そのお陰で『守護の剣』が盗賊達を倒すことが出来たと?」


 尋ねるエルドラに執事は首を左右に振る。


 「いえ、どうやらアジトを突き止めた冒険者が盗賊達を倒したとのことです」


 「へえ、たった1人で盗賊達を倒すなんて、その冒険者は相当強いんだね~」


 どこかどうでもいいと言った感じのエルドラ。彼にとって誰がどの盗賊団を壊滅させたことなど、それほど興味がないようだ。


 「正確にはその冒険者と女性冒険者2名、そして使役しているカーバンクルとのことです」


 「今、何て言った!? 女性冒険者だって!?」


 伏せていた顔を起こして目を輝かせるエルドラ。


 執事は余計なことを言ってしまったことを後悔する。


 エルドラには困った性癖があるからだ。


 「女性だって!? 2人共可愛いのかい!?」


 「はい……。1人は銀髪の少女。もう1人はエルフの少女のようです」


 「しかもエルフだって!?」


 先程の気怠い表情から生気に満ちた表情へと変わる。


 そう、彼は無類の女好きだった。


 エルドラは気に入った美女・美少女を見つけると、どんなことをしてでも手に入れたいと思う性分なのだ。そう、どんなことをしても、だ。


 「これがお2人の姿を描いた絵です」


 執事がエルドラに渡したのは部下に命令して描かせたフィーナとセレンの似顔絵。その絵はまるで生きているかのように精密に描かれていた。


 「おお、何て美しさなんだ! こっちの少女は銀色の髪がとても美しい! それにエルフ族なんて珍しい種族じゃないか! 良いね良いね! とてもそそらせるじゃないか!」


 2枚の絵を見比べてながら気分が上り、興奮を押さえられないエルドラ。


 「この2人がとても気に入ったよ! 僕の妾にしよう!」


 「ですが、先程も言いましたがこの2人はレンタロウと言う少年と行動を共にしているそうです。それは難しいかと……」


 「だったら金で物を言わせれば良いよ。女で冒険者なんかしているんだ。大金を使えばどうにでもなるんだからね。それに冒険者風情が僕に逆らうなんて許されない行為だ。もしもの場合は……分かっているだろう、爺や?」


 「……はい、仰る通りです」


 まるで全て自分の思い通りになると言うかのような表情に執事は悪寒を感じる。


 「それで、この2人は今どこにいるんだい?」


 「部下達の情報によると冒険者ギルドが経営している『幸福亭』に滞在しているようです。何でも明日は『賢者の迷宮』を探索するようです」


 「明日、ダンジョンに潜る前にその冒険者達を屋敷に招待するんだ。必ず連れてくるんだよ。いいね?」


 「……かしこまりました」


 そう言って、執事は部屋を出ていった。


 「早く僕の物にしたいな~! そしてじっくり僕好みに可愛がって上げようじゃないか!」


 窓から見える月を眺めながらセバーラの領主は不適な笑みを浮かべるのだった。

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