滅びた街
「これは完全に廃墟だな……」
辺りの景色を見渡して、煉太郎は呟いた。
導きの羅針盤を頼りに、『常闇の団』を追跡して到着したのは、セバーラの街から北西に少し離れた、最早廃墟と呼べるような街だった。
崩れかけた家の壁、地面のあちこちにもヒビが入っている。井戸には泥水が溜まっており、草木が1本も生えていない。当然人っ子1人見当たらない。
あまり人が訪れないこの土地は身を隠すにはもってこいの場所だと言えるだろう。
「なんだか、寂しい景色だね」
煉太郎の隣に立っていたフィーナがポツリと呟いた。
「壊れた街を再建しようとはしなかったんでしょうか?」
「まあ、言うのは易し、行うのは難しいってことだろうね。これだけ目茶苦茶になったんじゃ、道を平らにするだけでも一苦労するだろうし」
廃墟の街を眺めながらラウアはセレンにそう答えた。
「それにこの辺の土地は痩せているから、元々あんまり人が集まらなかったらしいよ。挙げ句に邪神の遺産に暴れられたらどうしようもないね」
「この街は邪神の遺産によって滅ぼされたのか?」
「そうだよ。セバーラの街にある石碑に封印されたとされる邪神の遺産がこの街を滅ぼしたと伝えられているんだ」
ラウアがかりで言うにはこの街は昔、邪神の遺産である巨人によってたった数時間で滅ぼされたとされている。
巨人の力は絶大で、国が総力を上げて撃退しようと試むが、到底太刀打ち出来る存在ではなかった。
誰もが国が滅びると絶望にしていると、そこに1人の魔法使いが現れた。
魔法使いの先導に国の騎士達は再び立ちあがり、巨人を弱体化。そして魔法使いは弱った巨人を石碑へと封印することに成功するのだった。
国を救った魔法使いは国王によって爵位と土地を与えられ、そこに街を造ったと言う。
それがセバーラの街だ。そして伝説の魔法使いの血脈は今もなお受け継がれており、現在のセバーラの領主はその子孫でもある。
「へえ、あの邪神の遺産を……」
巨人と同じ邪神の遺産であるマンドラゴラの力を知っているからこそ、その魔法使いの実力が常人の域を越えていることが分かる煉太郎。
ラウアが話す言い伝えを聞きながら導きの羅針盤に従って街の中を進む。
「おいおい、本当にこんな所に盗賊がいるのかよ……」
冒険者の1人が呟いた。
街そのものはそれほど広くない。しかし、行けども行けども見えるのは朽ちたかけた廃屋ばかり。殆ど屋根がなかったり、入り口が瓦礫で塞がれたりしている。隠れ家になりそうにない建物ばかりだった。そう思うのも無理はないだろう。
「ん、反応が変わったな……」
広場らしき場所に着くと導きの羅針盤の針がクルクルと回り出す。
「どうやらこの辺りに盗賊達がいるようだな」
「本当かい!? よしお前達、この広場を手当たり次第に捜索しな!」
「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」
ラウアの指示で捜索を開始する冒険者達。
そして――
「姐御、足跡を発見しました!」
冒険者の1人が手がかりを発見すると、そこには真新しい足跡があった。そこを中心に捜索していると、地下への入り口を発見した。
「どうやらこの下に盗賊達はいるようだな」
「よし、全員地下に降りるよ。人質を救出するんだ!」
ラウアの合図で煉太郎達はアジト内に侵入するのだった。
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
攫ってきた商人達を眺めながら、盗賊達はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら酒を煽っていた。
抵抗が出来ない商人達を見下すことで優越感に浸っているのだろう。
「親分、この商人達はいつまでこうしておくんですかい?」
部下からそう問われ、ダイスは鼻で笑いながら答えを返した。
「まあ少し待てよ。この宴が終わったら街にいるこいつらの身内へ身代金の要求を届ける手筈だ。それまでは生かしておけ」
「流石は親分ですね! 親分に付いていけば俺達も安泰ですよ!」
「やっと掴んだチャンスを逃すつもりはない。小銭を稼いで生きるのは、もう終わりだ。ここいらで大金を手に入れてやる。俺達の幸せの為に良いように利用されてくれよ、商人達よ」
そう言って捕らえてきた商人達を見渡していく。
護衛である『守護の剣』の冒険者達に起きた惨状を目の当たりにした商人達は、決して『常闇の団』に逆らおうとしなかった。逆らった瞬間、殺されることは目に見えているからだ。
「そういや、1人面白い奴が混じってたよな……」
ダイスの視線が囚われた商人達の中から1人の女性の姿を捉える。
「そうそう、この女は確かギルドマスターの孫娘だったよな? おい、あの女を連れてこい」
「へい!」
ダイスの命令に従い、部下の1人が孫娘の手首を強引に引っ張り出す。
「や、やめてください……」
盗賊達に怯えているのか、ガタガタと震えている孫娘。そんな様子が面白いのか、ダイスは笑みを浮かべる。
「お前の爺さんには昔世話になってんだよ。俺がまだ餓鬼だった頃に俺の親父を監獄にぶち込んでくれたのがお前の爺さんだ。腹いせにお前を犯してやるよ。おいお前ら! この女で好きなだけ遊んでいいぞ!」
「親分、最高です!」
「久しぶりの上玉だな!」
「女、女だ……!」
卑猥な目つきで見つめる盗賊達に孫娘は心の底から恐怖した。
「ひっ!? い、いやっ……こ、来ないで……来ないでよ……誰か……誰か助けてえっ……!」
啜り泣くような声を上げて、共に働いてきた者達を見渡すが、誰1人として目を合わせようとはしなかった。
薄情だと言われても仕方がないが、戦うことを生業としていない者達に自己犠牲を強いるのも酷と言うものだろう。
「いやっ!?」
逃げたそうとする孫娘だが、直ぐに盗賊の1人に捕まってしまい、その身は取り押さえられ衣服を剥ぎ取られてしまう。
「やめて……お願いだからやめてください……」
泣いて懇願しても盗賊達にはその言葉は届かない。
そして、盗賊の1人が孫娘の純潔を奪おうとしたその時――
パァンッ!
破裂音と共に、盗賊の頭部が吹き飛んだ。
「えっ……?」
突然の出来事に孫娘は思わず口を開く。孫娘だけではない。その場にいた全員が呆けている。
「盗賊発見」
沈黙を破った声がした方へと視線を向けると、そこには煉太郎達が佇んでいた。
広場まで到着するまでに見張りの盗賊がいた為、その撃退にあたっており、煉太郎達は先に進んできたのだ。
「さあ、盗賊退治の始まりだ」
「うん」
「はい!」
「クルルルル!」