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落ちこぼれと呼ばれた超越者  作者: 四季崎弥真斗
1章 超越の始まり
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初戦闘

 ダンジョンの内部は外の賑やかさとは真逆で静かなものだった。


 縦横5メートル以上はある通路は薄ぼんやり発光しているため、灯りがなくてもある程度の視認は可能だった。


 このバルロス迷宮は至る所に発光石という鉱物(暗い場所で発光する)が埋め込まれている。ここは巨大な発光石の鉱脈ある場所に創られたダンジョンなのだ。


 煉太郎達は隊列を組みながら奥へと進む。


 その中で愛美だけは、少々複雑そうな表情を浮かべていた。


 「……似てる」


 周囲を見渡しながら呟く愛美。


 バルロス迷宮の洞窟と愛美が見た夢の洞窟に似ていたのだ。


 不安な気持ちになる愛美だが――


 (あんな夢みたいなことには絶対させない! 荒神くんは私が守るから!)


 暫く何事もなく通路を進んでいると、広間に出た。


 ドーム状の大きな広間で高さは7メートルといったところで、広間の中心には魔法陣が刻まれていた。


 煉太郎達は物珍しげに辺りを見渡していると、突然、魔法陣が輝き始めた。


 どうやら、この広間に足を踏み入れると起動する仕組みになっているようだ。


 それを見たレクター団長は長剣を鞘から抜く。


 「皆、来るぞ! 武器を構えろ!!」


 レクター団長の言葉に全員武器を構える。煉太郎も支給された剣を鞘から抜く。


 すると、魔法陣からモンスターが出現する。


 人の子供程の背丈を持つモンスターで緑色の皮膚をしており、額には小さな角が生えている。


 数は十匹を越えているだろう。


 「ゴブリンか!?」


 『ゴブリン』


 ランクEの亜人型モンスター。


 個体として見た場合は非常に弱く、一般人の成人でも喧嘩慣れしている者なら楽に倒せる程度の実力しかない。


 一人でゴブリンを倒せば駆け出し冒険者と言われるようになる。


 ゴブリンの種族は基本的に雄のみであり、繁殖には他種族の雌を使用する。一番多く利用されるのが人間族の女性である。そのため、女性には嫌われているモンスターでもある。


 洞窟などの暗い場所を好み、基本的に群れる習性を持ち、数匹で纏まって行動する。


 多少ではあるが知能があり、武器を拾ったり、盗んだりして使用するゴブリンもいる。


 図書館で調べた知識を思い出し、剣を構える煉太郎。


 モンスターとの初戦闘だ。


 「よし、ゴブリンは大した敵ではない! 冷静に行け! 先陣はユウゴ、リン、アキオ、マサト、リョウだ!」


 「「「「「はい!」」」」」


 レクター団長の指示で先陣を切る勇悟、凜、加賀、遠藤、中村の五人。


 「おおおおおおおおっ!」


 雄叫びと共に、勇悟は背中に背負った2本の剣を鞘から抜くと、それを視認も難しい程の速度で振るい、数匹のゴブリンを屠る。


 勇悟の持つ2本の剣はオルバーン王国が管理するマジックアイテムで名称は『エクスカリバー』と『マジックソード』。


 エクスカリバーは伝説級のマジックアイテムで光属性の性質が付与されており、光に触れる敵を弱体化させ、光属性魔法の威力を上げる性能を持つ。


 マジックソードは古代級のマジックアイテムで所有者の魔力を上げ、敵に与えたダメージに比例して魔力を吸収する能力を持つ。


 ちなみにマジックアイテムには『通常級』、『稀少級』、『古代級』、『伝説級』、『幻想級』の5段階に分類されている。


 『通常級』=一般の素材で造られたマジックアイテム。


 『稀少級』=入手困難な素材で造られたマジックアイテム。


 『古代級』=古代の技術で造られたマジックアイテム。


 『伝説級』=伝説で語られる鍛冶師によって造られたマジックアイテム。


 『幻想級』=神々によって造られたマジックアイテム。


 『古代級』のマジックアイテムは一般の職人では製作できず、『伝説級』、『幻想級』に至っては現代の技術では再現不可能とされる程強力無比なマジックアイテムで、価値も性能も入手難易度も極端に跳ね上がるといわれている。


 「ハァッ!」


 短い掛け声と共に神速の抜刀術が放たれ、一瞬でゴブリンを斬り裂いていく。


 凜の動きは洗練されていて、見る者を感嘆させる程である。


 凜が使用している武器は刀身が雪のように白い刀。名称は『白雪』。


 本来、このラディアスには刀など存在しない。


 凜が王国直営の鍛冶師に頼んで特注で造って貰ったのだ。


 素材はミスリルと呼ばれる硬度が高い稀少な鉱物を使用しており、その切れ味は鉄を容易く斬り裂くことが出来る程だ。


 「ハハハハッ!」


 笑い声を上げてゴブリンに駆け寄るのは加賀だった。


 彼の腕には紅い宝石が埋め込まれた腕輪型のマジックアイテムを装着している。この腕輪は魔法や異能による爆発の威力を上げる性能を持つ。


 「『爆炎ブラスト』!」


 加賀の手から炎が出現し、それがゴブリンに触れると――


 ドゴオォォォォォォォォン!


 一気に爆発した。


 「ゲギャアアアアアアア!」


 断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て絶命するゴブリン。


 マジックアイテムによって『爆炎ブラスト』の威力が上がっている。以前、煉太郎が受けたものとは比べ物にならない程の威力だった。


 「『魔力糸スレッド』!」


 遠藤は両手から白色の糸を出す。作り出された魔力の糸がゴブリンの身体に巻き付くかのように拘束し、動きを封じる。


 そして動けなくなったゴブリンを持っていた短剣で幾度も刺し、絶命させる。


 「おらぁ!」


 中村は硬化させた拳をゴブリンに向けて放つ。


 ゴブリンは持っていた木製の盾でそれを防ごうとするが、木で出来た盾なんかで中村の一撃を防ぐことなど不可能だった。盾ごと粉砕してゴブリンの顔面を捉える。


 ゴキャ、と鳴ってはならない音を立てて頭蓋骨を粉砕されてゴブリンは絶命する。


 勇悟達によって既に半分以上のゴブリンが倒された。


 すると、弓を持ったゴブリンが凜に向けて矢を放つ。


 「危ない‼」


 その矢は突如出現した障壁によって防がれる。


 その障壁は早乙女恵が作り出したものだった。


 髪を三つ編みにして黒縁眼鏡を掛けており、密かに眼鏡が似合う女子として男子生徒に人気がある。


 文芸部部長で学年トップの学力を誇り、煉太郎のクラスの委員長を務めている少女。クラスメイトからは委員長と呼ばれている。


 そんな彼女の異能は『魔力障壁バリア』。


 自身の魔力を消費して障壁に変える能力を持ち、その強度は並大抵の攻撃では破壊することは不可能。


 矢が防がれると、ゴブリンは再び弓を構えるが――


 「させないよ!」


 そう言って弓を構えるゴブリンに向けて矢を放つのは腰まで伸ばした黒髪をポニーテールにしている少女――天野由利香。


 弓道部の部長で全国大会に出場する程の腕前を持つ女子生徒。実家は日本舞踊の家元。


 天野が放った矢は真っ直ぐゴブリンに向かって進むが、寸前の所で矢を避けられた。


 「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲッ!」


 矢が当たらなかったことがよほど面白いのか、ゴブリンは大笑いする。


 しかし――


 ザシュッ!


 「ゲギャ!」


 避けたはずの矢が軌道を変えてゴブリンの後頭部を射貫き、そのまま絶命する。


 天野の異能は『追尾矢ホーミング』。


 魔力を消費して自動追尾する矢を作ることが出来る異能だ。放たれた矢は何かに遮られたり、叩き落とされない限り、対象を追尾し続ける。


 「フフフ、わたくしも負けられませんね」


 そう言っておっとりとした雰囲気を放つのは演劇部部長の有栖川澪那。


 軽いウェーブのかかった長髪に少し垂れた瞳。煉太郎達が通う私立陵栄学園の理事長の孫娘で、名家・有栖川財閥のご令嬢で、愛美、凛と並んで『陵栄学園の三大美少女』と呼ばれる程の美少女。


 有栖川は近くにある大岩に手を触れる。


 すると、大岩は形を変えて、2メートルの岩人形へと変化する。


 有栖川の異能は『奴隷人形パペット』。


 触れた無機物を人形に変えて操る能力を持つ。


 「さあ、行きなさい!」


 有栖川の命令を受け、岩人形はゴブリン達に襲いかかる。


 岩の身体にはゴブリン達の攻撃は虚しく、次々と岩人形はゴブリンを薙ぎ倒していく。


 「よっしゃあ! 俺の力を見せてやるよ!」


 気合と共に2メートル近くはあるハンマーを豪快に振るい、ゴブリンを屠るのは剛田海斗。


 髪の毛をすっかり剃り落とした丸坊主にの頭、190センチはある高身長に熊の如き大柄な体格を持ち、野球部の部長である男子生徒。


 剛田が持つハンマーは重量100キロはある。


 その超重量のハンマーを軽々と振るえるのは彼の異能のお陰だろう。


 剛田の異能は『超怪力パワーアップ』。


 驚異的な怪力を発揮するシンプルな異能だが、戦闘には打ってつけの異能とも言えるだろう。


 ゴブリンの数が残り僅かになると、止めを刺すべく愛美は詠唱を始める。


 「〝放つのは光の矢――ライトアロー〟」


 愛美の詠唱が終わると同時に無数の光の矢が生まれ、残りのゴブリン達に向けて放たれる。


 狙い違わず、光の矢は残りのゴブリン達を射貫く。


 「「「「ゲギャアアアアアアアアアアアアアアア!!」」」」


 悲鳴を上げながら息絶えるゴブリン達。


 気がつけば、ゴブリンの群れは全滅していた。騎士団の出番は一切なしである。


 圧倒的としか言いようがない光景にレクター団長を含む騎士達は唖然とする。


 モンスターとの初戦闘。少しは苦戦するのではないかと思っていたのだが、勇悟達の戦力では一階層のモンスターは弱すぎたらしい。


 「流石は勇者と言ったところだな。この調子なら大丈夫そうだな!」


 ちなみに、煉太郎は何もしていない。出来る隙などなかったのだ。


 (俺、必要なくね……?)


 そう思いながら、煉太郎はただ呆然とするのだった。

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