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天才術師の存在証明《イグジステンス》  作者: 絢野悠
【ファーランガル編 2】
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十三話〈クロスオーバー:パトリオット=エルド=アルメイシュ〉

 ライスラー大陸の基地についた頃、どういうわけかミュレストライア兵は全員撤退していた。忍ばせておいた伏兵からの連絡もなかったってことは急だったのだろうか。


 領主であるカイとはすんなり面会も済ませることができた。すぐに厳戒態勢をしき、基地を守るように手配してもらった。撤退したといってもいつ帰ってくるかわからないしな。


 その後、シンドラからの通信が入った。三嶽神のベリアルが現れ、イクサードと交戦したこと。そして、撃退はしたが片方の足がなくなったことなどを聞かされた。


 シンドラとは普通に話せたと思う。内心はぐちゃぐちゃだが、なんとか会話を終えた。


 戦力的にはかなり厳しい状況になった。本人には言いたくないが、こちら側は三嶽神のイクサードがいるというのが最大の強みだった。イクサードがいたからこそ、ライオネルは攻め込めなかったと言ってもいいかもしれない。


 つまりは二つの勢力を分断し、障壁となっていたのがすべて三嶽神だった。その三嶽神が次々と倒れている。こちらの最大戦力でさえも。


 危機感と焦燥感がこみ上げてくる。


 一度長い時間を取って気持ちを整理したい。整理したいが、状況の変化がそれをさせてくれない。今は無理矢理にでも自身を鼓舞し、前に進まなければいけないということは俺もわかっている。


 ライオネルが先へ先へと進んでいる以上、俺が立ち止まってしまっては一生追いつけないのだから。


『おいボンクラ王子。ちょっとマズイことになったぞ』


 リンの声が通信機から聞こえてきた。客室に案内されて、ようやく一息つけるかという時にこれだ。


「ボンクラじゃねーよ。それで用件はなんだ」


 ドカッとイスに座った。しかし、どうして毎回キューリット姉妹と同じ部屋なのか。姉妹は仲良くお茶なんか飲んでるし、二人は妙にのんびりしたところがある。


『MUを出せ。今から中継の様子を投影してやる』


「中継?」と言い返そうと思ったが、見ればわかることなので黙っていることにした。


 MUはスーべリアットでいうところのPDだ。


 ポケットから取り出した直後、ホログラフの2D映像が空中に映しだされた。


「これは会議場か?」

『そうだ、そしてその中央にいるのはお前の兄、ライオネルだ』


 言われなくてもわかっている。カメラがズームしていくと更に鮮明になっていく。真っ黒な髪の毛と、吸い込まれそうな真っ黒な瞳。俺の容姿は母に似ているが、兄の容姿は父によく似ている。そう、元々王族ではない父の血が濃く流れている。


 ティーカップを置き、姉妹もまた俺の側に寄ってきた。少々気が立っているような、そんな雰囲気が二人の表情から伝わってくる。


「これはなんだ、記者会見かなにかか?」

『緊急記者会見ってやつだな。まあ聞いてろ。たぶんだが、かなりヤバイ』


 パシャパシャとフラッシュがたかれている。その中で評議会役員を周囲に従え、中央のライオネルが口を開いた。


『今日、ここに皆を集めたのは他でもない。王位継承権についての進捗を報告するためだ。第一皇子である私ライオネルは、無事第六世界を発見した。あとは第六世界と接触し、我々の領土とするだけだ』


 会議場の中に、なんとも言えない歓声が広がった。


「舌打ちとははしたないですよ、パトリオット様」


 そんなことをしていたのか、ナスハに窘められてしまった。


「悪いな。クソみたいな世界だなと思っただけだ」

「他人の家に土足で上がり込んで、奪えるものは全て奪えという思考ですか。私も、賛同はできませんね」


 エルファは喋る度にどんどんと語尾が小さくなっていく。俺よりもいろんな視点からあの世界を見てきたからか、自分なりに思うところがあるんだろう。


『ライオネルのことも気になるが、あの場にディオーラがいないのも気にかかるな。そっちに行ってる可能性が高そうだな』

「ああ、可能性は高い。こっちも注意しておくが、そっちも命だけは大事にな」

『一応私もお前の配下だ。命令はしっかり受け取っとくよ』


 通信を切り、キューリット姉妹に向き合った。


「ディオーラのこともある。万全な体勢を常に整えておかないきゃならない。そのためには、お前らにいろいろと働いてもらうことにもなるだろう」

「現在はスーべリアット陣営には居ますが、本来私は貴方の侍女です。尽力は惜しみませんよ」

「私もお姉ちゃんと同じですよ。ずっと待ったんです、意地でもなんとかしてもらわなきゃ。あ、でも命をかけるとかそういうのはダメですよ? 生きてこそ、未来は拓けます」

「ああそうだな。なんとしても阻止しなきゃならん。とりあえず縁に連絡を取るか」


 通信を入れれば、縁はすぐに応えてくれた。ライオネルやミュレストライアの状況、それにイクサードの怪我の具合などを簡単に説明する。が、そこで少女の声がした。


 詳細を聞こうとした瞬間に通信を遮断されたが、おそらくディオーラが現れたと考えるべきか。


「縁とディオーラが交戦中のようだ」

「縁様が? いくら縁様といえど、三嶽神に対抗するだけの戦力にはなりません。十二領帝よりも強く、三嶽神には遠く及ばないというのが私の見解なのですが」

「ナスハの見解は正しい。ぶっちゃけしまえば、祠導術を使っても三嶽神と対等に渡り合えるとは思えない。だが――」


 あの時、間違いなくクオリアを倒してみせたのはアイツだ。ラッキーパンチ、奇策による強襲、びっくり箱。そんな戦い方であったとしても、アイツは俺の、俺たちの気持ちに応えたんだ。


「アイツならなんとかしてくるんじゃないかって、俺はどんな時でも思ってる」

「パトリオット様がどう思っていたとしても戦力は変わりません! このまま縁様を見殺しにするつもりですか?!」

「よしなさいエルファ。パトリオット様だって、好きで危険を受け入れているわけではないのよ。それに今からでは間に合わない」

「そうだ、どう足掻いても間に合わない。もう縁を信じる他に道はないんだ」


 だが俺は仕方なく信じているわけじゃない。心から、安瀬神縁という人間の強さを信じてみたいのだ。


「俺たちは俺たちにしかできないことをする。ただそれだけだ」


 確かアイツはゲートを運びだしているとかなんとか言ってたな。積み荷がなにかはわからないが、確かめておくにこしたことはない。


「基地の通信施設をすべて使って、ここや他の基地から出て行ったミュレストライア兵の行方を追え。指揮はお前たち二人に任せる」

「任せるって、パトリオット様はどうするんですか?」


 心配そうな瞳で見上げてくるエルファ。そんな彼女の頭に手を乗せ、優しく何度か撫でた。


「俺は今からポルトス大陸に向かう。操縦なんかはお前のを見ていたからなんとなくわかるし、まあ大丈夫だろう」

「そんな! お一人では危険です!」

「虎穴に入らずんば虎児を得ずってのはどこの言葉だったかな。部下や戦友が渦中にいるのに、俺がなにもしないってのはどうなんだろうな。誰がなんと言おうとも、俺個人としては納得できん」

「またそんな……!」


 食い下がろうとするエルファの肩を掴んだのはナスハだった。


「言ってきかないことくらいもうわかっているでしょう? それならば案ずるしかない。パトリオット様、いえパット。どうしても行くのね?」


 懐かしい呼び方だ。二人だけの時はそう呼んでくれたな。


 などという思い出に浸っている場合ではないな。


「行くと言ったら行く。俺は縁と違ってな、柔軟な対応というのは苦手なんだ。アイツは曲がりくねっても目的地にたどり着く。が、俺は直進しかできないんだ。邪魔する者は排除する、ただそれだけだ」


「はあ」と、かなり大きなため息が聞こえた。


「そうですか。それでは、行ってらっしゃいませ。無事を祈っていますよ」


 ため息をついたと思ったら、爽やかな笑顔で送り出してくれる。


「もう! お姉ちゃんも王子も勝手なんだから!」

「お前は送り出してくれないのか?>」

「う、ううう、ぐぐぐ……!」


 拳を握りプルプルと震わせるエルファ。


「わかりました! わかりましたよ! ぜっっっったいに生きて帰ってきてくださいね! わかりましたか?!」

「ああわかったわかった。目的を達成せずに死んでたまるもんかよ。ライオネルを止めて、俺は第一世界の王になるんだからな」


 イスにかけておいた上着を取った。そして、もう一度エルファの頭を撫でてから部屋を出る。


 MUを取り出してカイに連絡を入れた。すぐにモービルギアを用意してくれるという懐の深さにはいたく感服した。後で直接あって頭を下げなきゃな。


 というかこの世界でもMUが機能するというのが素晴らしい。


 ハンガーへと向かう間、俺は考え事をしていた。考えたくはない、そんな考え事だ。


 俺たちの動向がバレている。こちらが伏兵を用意していたように、ライオネルもまた内部監査係を用意していたと考えるのが自然だ。


 縁に関しては、イクサードを通して一応手は打った。それがちゃんと機能するかどうかは運次第というしかないのだが。

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