九話〈リターン:安瀬神縁〉
「それでね、私も一緒に戦おうとしたんだけどさ――」
ハーナム大陸に到着し、僕たちは遠くの森から拠点基地の様子をうかがっていた。僕とエルファは当然として、バド大陸からも情報班や整備班や戦闘班が数名いる。その中で、いざという時にとルキナスを召喚したのだが、さっきからしゃべりっぱなしだ。
精神世界とは違った容姿のパットを見て、クオリアたちが来たことを話し始めたのだ。
ルキナスは強力な祠導術を持ってはいるが、僕がダルカンシェルに直接行かなければ祠導術は使えない。白兵戦の場合、魔導術が使えることもあって一般兵よりは戦える。それでも一国の姫であることにかわりなく、王がそれを許さなかったらしい。一応クオリアたちの姿は目視した、程度のようだ。
「お父様は過保護なのよ。私だって戦えるのに」
「それだけルキナスのことが大事なんだ、わかってあげてよ」
「それはそうなんだけど、なにより不満なのがエニシが直接来てくれなかったこと! なんで来てくれなかったの!」
頬を膨らませて大変ご立腹の様子。
「行こうとは思っていたんだよ。ただちょっと優先順位があってさ。ダルカンシェルは軍隊の指揮系統もちゃんとしてるし、なにより戦闘という面でミュレストライアとやりあえるって父さんは考えたんじゃないかな。なにより他の世界が大変だったってのはあるだろうけど」
「それでも直接逢いたかったよ? 逢って、触れて、あーんなことやこーんなこと、してあげたかったのになー」
口に笑みを浮かべ、上目遣いでこちらを見る。指を唇に当てる仕草はなんとも妖艶だ。
そして、僕の腕を抱いて密着してきた。
「ほらほら、私だって子供じゃないんだから。エニシがしたいようにしてくれてもいいんだよ?」
「だー! もう離れろ! こんなところでイチャついてんじゃねー!」
僕とルキナスの間にエルアが割って入ってきた。なんだかこっちはこっちでまた怒っているような気がする。
「なになにチビちゃん妬いてんの? 背も胸も小さいくせに、嫉妬心と自尊心だけは妙に大きいんだ?」
「別に大きくないわよ!」
「あらあら、なら別に怒鳴る必要ないでしょ? なにを慌てているんだか」
「アナタが挑発的な態度だからじゃないの!」
「まーまー二人共落ち着いて」
「「黙ってて!」」
同時になだめようとするが失敗してしまった。この二人は一緒にするとろくなことがなさそうな取り合わせだな。
しかしルキナスが楽しそうなのでいいとしよう。エルアが相手をしてくれるのなら、僕は僕の仕事ができる。
望遠鏡で基地を見た。
ミュレストライア兵と思われるアーマードギアがなにかを運び出し、巨大なモービルギアに積み込んでいるようだった。その動きは遅く、非常に慎重な様子だ。
直感でしかないが、あれを飛び立たせるわけにはいかないような気がする。
「どうなさいますかエニシ様」
僕の顔色を伺ってか、護衛の一人が声をかけてきた。
「今いかないと大変なことになる、ような気がするんだ。あれをいかせちゃいけない」
「あの大きさですと、一度飛ばれると追いつくのが大変かもしれませんね。高速型のモービルギアであれば別ですが、こちらにはアーマードギアしかありませんので」
「大きさ故に推進力もある、ってとこかな。でもどうやって近づこうかな」
アーマードギアで突撃しようにもこの距離だと間違いなく気付かれてしまう。逆にいつ飛び立つかもわからないのだ、もたもたしているわけにもいかない。なにを捨ててなにを取るか。
「なに、縁はあのモービルギアを飛び立たせたくないの?」
先ほどまでルキナスと口げんかしていたはずなのに、気がつけばそのルキナスを言い負かして僕の隣に立っている。
なぜルキナスが言い負かされたかわかるのかと言えば、少し離れた場所で膝を抱えているからだ。
「ただただ物資を運ぶ、というわけではないと思う。おかしいと思わないか? なにか物資を運ぶのなら、基地内のハンガーでやればいいんだ」
「外でしかできないこと?」
「そういうこと。部品や食料じゃない。アーマードギアでなければ運べないくらい大きくて、それでいて機密性が高い。基地内において置けないというよりは置いておきたくない物………」
検討はつかないが、心当たりなら一つある。
本来ならばこの状況では絶対に考えつかない、ミュレストライアゆかりの品物。
「縁はあれがなにかわかってるみたいね」
「わかったってわけじゃない。けれどいろいろと引っかかってるんだ」
「聞かせてもらえる?」
「ああ。まず、ミュレストライアは様々な世界でなにをしてきたのかを考えて欲しい」
「ゲートを奪い、作り、ミュレストライアからの移動をスムーズに行おうとしていた、ように見えたけど」
「そうなんだよ。今までの動きと、このファーランガルでの動きが違うことにキミだって気がついてるだろ? そうなればあれはきっと、ゲートに関係があるんだと思う。もしくはゲートそのものとか」
「待って待って、ゲートってそんなに簡単に持ち運べるものなの? 魔法力を超高密度で圧縮してあって、すごく危険なものなんでしょう?」
「だから慎重にやってるんだよ。それに、ゲートを自発的に、しかも短期間で作れるような技術を持ってるんだ。持ち運べるようにするのだってできるんじゃないかな」
「そんな憶測ってありなの?」
「有りか無しかなんて、この際どうだっていいじゃないか。あれがなにかを確かめる。今はそれが大事だと思う」
この仮説が正しいのであれば、あのゲートがどこに持ち運ばれるのかだって重要になる。
「それなら私に任せて」
気丈に笑い、エルアは走ってクラレールに乗り込んだ。
「いったいどうしたっていうんだ!」
僕の言葉が届いているのかいないのか、クラレールは尻をついた状態から身を乗り出した。立ち上がることもなく、器用に銃を構えたまま腹ばいに。そのままプローンポジションになってスナイパーライフルで狙いをつけていく。
いやいや、静観している場合じゃない。スナイパーライフルなんていう高出力のビーム兵器なんて使ったら、反動でこの周辺が吹き飛んでしまう。それにゲートにでも当たったら半径数十キロ、いや数百キロ以上の範囲が更地になってしまう。
「駄目だ! おいエルア聞こえてるのか!」
『聞こえてるわよ。大丈夫、アナタが心配するようなことは起きないから』
「起きないって言われても……」
「大丈夫ですよエニシ様。クラレールには特殊なビーム生成装置がついてるんです。低出力高圧縮なんてのもお手の物。それにもう一つ、遠くからでも機体の分析をする機能もあります」
「まさか、僕が知らない間にそれを使いこなしているだなんて」
「エニシ様がいなくなった後、エルア様の頑張りはかなりのものでしたよ。それはもう鬼のような形相で、ひたすら実地訓練を続けてましたし」
『こら! 余計なことは言わない!』
「す、すいませんでした!」
努力する姿を見せたくないと。そういう性格だとはわかっていたが、メンタルが強いというのが合わさるととても頼りになる。
『銃口補正完了。ビーム出力コンマゼロサン。超長距離スナイプ』
風を切るような、ファンが回っているような音が聞こえた。そして、無反動でレーザービームが飛んでいく。
それは一本の線のようであり、針のようでも糸のようでもあった。とても細く、知らなければ発射されたことさえも気が付かないほどだ。




