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天才術師の存在証明《イグジステンス》  作者: 絢野悠
【ファーランガル編 2】
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七話

 バド大陸は接近戦と小回りの利く関節、小型のスラスターやブースターに特化。


 ハーナム大陸は分離式のアーマードギアや、オールラウンド型にするため遠近の換装パーツを多く作った。


 ライスラー大陸は個々の性能よりも、通信や電子制御、オートパイロットやAIなどを細かく組み上げた。


 ポルトス大陸は高速戦闘を得意とし、主にモービルギアを中心に扱い、変形機能を強く前面に押し出した。


 そして、エベット大陸はどの大陸よりも攻撃力を求めた。膨大な魔法力を空気中から搾取し、火力をなによりも重視した。


 イクサードがエベット大陸のアーマードギアを気に入っている理由はそこにある。一撃で仕留める火力。相手に物を言わせぬ殺傷性。接近戦用の獲物が大きいのも魅力的だった。


 アーマードギアの数倍はある太いレーザービームが敵の群れに飛び込んでいった。その瞬間、数えきれないほどの赤い光が見えた。


「十分の一は減ったかな?」


 そしてもう一度、またもう一度とレーザービームを放出。その度に敵の兵が減っていく。


 何度か繰り返し、ライフルの砲身がバカになった。


 肩から切り離して落下させると、下方にいた兵士がそれを受け止めるのが見えた。


 今度は攻撃のためではなく、推進力にするための魔法力を集める。一般兵の機体よりも速く強い機体であることは自覚している。また自分の活躍がこの戦況に与える影響力を知っていた。


 一般兵を置き去りにして、デスベットは単騎で突撃した。


 右肩の大剣を両手で持ち、刃にはビームをまとわせる。剣を振るえばビームが伸び、実剣の状態でさえ長い剣身は、剣を振った時だけ十倍程度まで長くなる。


 相手としては「まだ届かないだろう」と満身する距離であっても、デスベットの剣がそれを許さないのだ。


「ボーッとしてると真っ二つだぞ!」


 イクサードは三嶽神の一人である。故に戦闘に特化し、その身に宿す魔法力は一般人が数万人集まったところでかなうことはない。力が強いという部分もそうだが、五感や意識力もまた一般人とは比較にならない。


 死角からの攻撃であっても、機体のOSがちゃんと機能しているのであれば背を向けたままでも避けられる。避けた方向にも敵はいるが、回避と攻撃を兼ねているため問題はない。


 敵の攻撃は絶対に当たらない。掠りさえもさせぬように慎重に立ち回っている。それ以上に攻撃は大胆で大振りだ。大振りで隙だらけに見えるからこそ、それが敵にとっての隙となる。


 普通の対人戦でであってもアーマードギアの戦闘であっても、わざと隙を見せて攻撃を誘うというのはイクサードの常套手段だった。


 楽しむように戦えば、思ったよりも早く戦闘が終わっていた。


 が、それは敵勢力を全滅させたというのとは違う。


 敵が減ることにより、最後列にいた特殊な機体が目に入ったのだ。赤を基調とし、白と黒が入り混じった無骨な機体。腕や足、胴体に至るまでが異様に太く、装備が外からでは見えないのでどんな攻撃法があるかがわからない。


 そう、戦闘自体が終わったわけではない。一般兵との戦闘が終わったのだ。


『イクサードだな』


 通信が入ったのと同時に動きを止めた。


「この声はベリアルか。お前はそっち側についたんだな」


 特殊な機体からの通信は、赤き神罰ベリアル=ギューネスだった。


『貴様がファーランガルに向かったという話を聞いたのでな、もしかしてと思ったのだ。案の定パトリオット側で謀反を行う手引をしていた』

「謀反ってのは聞き捨てならないな。俺は最初からシンドラが入れ込んでた第二王子を支持してた。単純にミュレストライアの中で分裂していて、そこにサッと滑りこんだだけだ」

『そういうことを躊躇なく言うのだな』

「事実だからな、偽ったって仕方ない。そんなことより早くやろうぜ。お前は俺を止めにきたんだろ? 三嶽神は生粋の戦士。結局最後にモノを言うのは拳だろうが」

『生身でないのが残念でならないが、この場で上下関係をはっきりさせるのも悪く無い。貴様は生意気だから、いつ灸を据えてやろうかとずっと思っていた』

「年寄りの冷や水だぜ、そういうの。危険に体ごと突っ込んで、生きて帰れなくてもしらねーからな」

『若造が舐めた口を利くな。後で後悔しても知らんぞ。俺と、このアンサイドで駆逐してやる』

「ははっ、楽しくなりそうじゃねーかよ!」


 出力を上げてベリアルが繰るアンサイドへと向かっていく。左手で小型ビームガンを抜き、周囲の敵を迎撃しながらの突撃だった。が、後方からの援護を見てビームガンをしまう。


『突撃と見せかけて周囲を良く見ている。愚行に見えて非常に狡猾。貴様の戦い方はよく知ってるさ』


 ベリアルの機体アンサイド、その太い腕や足、バックパックが大きく口を開けた。中にはこれもまた太い銃身のような物が設置されている。


 ミサイルの類でないことはすぐにわかった。それが攻撃でないことがわかるまで、イクサードは進行してしまった。


 してしまったのではない、させられた、誘われたのだ。


 見た目からして鈍足。航行速度も速くなく、旋回能力も低いだろうとは思っていた。純粋な火力を意識した設計、もしくは拘束具かなにか。


 エベット大陸の技術でない時点で前者は捨てるべきだった。そうすれば、拘束具ではないかという予想が思考の一番前に来る。


 しかし、気付いた時には遅かった。


『だが接近戦を好むということだけは揺るがない!』


 魔法力の集約を確認し、スラスターを強引に動かして軌道を変えた。


「クソっ……!」


 思った以上に機体が言うことをきかなかった。ギリギリの所でアンサイドを回避したが、すれ違いざまに攻撃することもできない。それほどまでにアーマードギアの操縦で手一杯になっていた。


 今までにないほどに操縦桿が手にへばりつき、コクピット内であるというのに身体が重い。


 例えばあれが重力操作のような契術であったのなら、コクピット内まで影響はないだろう。重力、空気圧、水圧といったものは機体が全て調整してくれるからだ。


 この重さの正体に、イクサードはすぐに気がついた。


 魔法力の集約。あれは空気中の魔法力を集めているだけではない。周囲の機体からも魔法力を吸収していたのだ。


 他人の魔法力を急激に吸収する契術のことは当然知っていた。一応同胞という立ち位置であったクオリアを蝕んだ契術。側で見ていたわけではないが、情報だけは有している。


 クオリア同様に人ひとりに行使される程度の術であれば、三嶽神であるイクサードへのダメージにはなりえない。しかしそんな術が、あんな大きな機体から、あんな無数の銃身から繰り出されたらどうなるか。


 敵の一般機がどんどんと落下していく中で、デスベットとアンサイドだけが空中に留まっていた。


 鎮座するように浮遊するアンサイドに比べ、デスベットは右に左にと揺れている。逆を言えば、この状況で飛行できることがそもそもの間違いだった。


 舌打ちをしながらも、ベリアルと対峙したのが自分で良かったという気持ちがあった。


 三嶽神であるからこそこの状況に耐えられる。もしもこれが縁やパトリオットであったのなら、他の兵士よりは長く保つが、所詮はその程度でしかないのだ。


『言っただろう、灸を据えてやると。貴様は戦士としてと言ったが、俺が同じように考えているとでも思ったか? 俺はライオネル様を支持し、貴様はパトリオット様を支持している。これは戦士の戦いではないのだ』

「きったねぇ手使って偉そうに語ってんじゃねーぞ」


 指先に力を込め、長く細く息を吸った。

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