一話
「まあそんなことがあって今ここにいるってわけだ。大我も知ってる」
そう言いながら、パットはしたり顔で笑っていた。光を反射する見事な金髪。瞳は碧眼で、顔立ちと相俟ってまるで作り物みたいだ。
真っ白な会議室の中で俺たちは四角形のテーブルを囲んでいる。正確には長方形のテーブルをいくつも並べて正方形に近い形にしているだけだが。
イクサードにしごかれたあと、僕たちはパットの後ろをついて歩いた。エルア以外の祠徒全員を呼び戻し、このエベット大陸を束ねているカーミラさんも同席している。まさか大陸の長がこんな美人の女性とは思わなかった。
「つまりお前はそのライオネルと敵対してるんだろ? こんなとこにいていいのか?」
「心配ない。この基地にいるミュレストライア兵は皆、俺の側についている者達だけで構成されている。イクサードがこの基地を統治しているのはライオネルも知っているがな、それ以外のことは知らんはずだ」
「なんとも用意周到なことだ」
「足りないくらいだ。ここにライオネルが来ればすべてが終わる。それくらいには穴だらけだ。が、丁度いいとも思ってる」
「お前らしいよ。それで、僕をここに逗留させてたのにも理由があるんだろ?」
「ああ。短い間だがイクサードに鍛えられただろ? 本当のことを言えば、俺が世界を跳躍できる時間を稼ぎたかっただけなんだがな」
「魔法力を充填しなきゃならないんだっけか。でも今の話の中じゃ、充填には三日だって言ってなかったか?」
「バカを言うな。ここに来るまでに他の世界を回って、その世界の統治者と会ってきたんだ。詳しい話なんかは省いたが、最低限の公約と仮契約を交わしてきた。あとはファーランガルだけだ。ここについたのは昨日だ」
「なかなかやり手っぽい発言だな。王子が味方なんて心強いよ」
「味方かどうかはまだわからんぞ? 今のところは手を組むのが得策だとは思うがな」
「そういう発言は本当にお前らしいよ。これからよろしく頼む」
「こちらこそ、お互い不利にならないといいな」
パットと肩を並べて戦うことになるだなんて、少し前までは想像すらできなかったことだ。少なくとも僕の中にいた頃はずっと助けてくれたのだ、素直に嬉しく思う。
「早速で悪いんだが、これからファーランガル救出作戦に入る。これよりこのエベット大陸基地はミュレストライアから分離しファーランガルの所有物に戻す。捕虜を開放、指揮はこの基地の長であるカーミラに任せる。俺、イクサード、エルファは基地の防衛。縁たちは一度バド大陸に戻れ。エルアと合流しアーマードギアを取ってこい。特殊な機能もつけてもらっておいたぞ」
「そのエルファさんはどうしたんだ?」
「今でかけている。すぐに戻ると思うが、お前が会うのはまだ先だろうな」
「なるほど。シューベルさんとも話したのか?」
「カーミラと一緒にな。だからこちらの状況もちゃんとわかっている」
「なるほど了解。でもバド大陸まではどうやっていけばいい?」
「こちらでモービルギアを用意してある」
「モービルギア? アーマードギアなら聞いたことあるけど」
「お前らの世界でいう飛行機とかジェット機ってやつだよ。スーべリアットの物よりも装甲が厚く戦闘向きだな」
「おいおい、そんなもの操縦したことないぞ!」
「大丈夫だ。基本的な操作はアーマードギアと一緒だ。速度が出るためスピード調整や機体バランスなどの制御はシビアだが、手足がないので操作そのものは難しくないはずだ。特にお前なら大丈夫だ」
「どこから来る自信だよ……」
「魔法力との連動を可能にしておいた。ほぼお前専用だよ。お前が本気を出しさえすれば、意識と機体を同調させることも可能になるだろう。そうすれば速度調整だって簡単だ」
「むしろ機体と同調って方が難しいとは思わないのかと」
「俺を誰だと思ってるんだ? お前の身体に何年も入って、何年も表に出てたんだ。安瀬神縁という人間の身体はわかってる。お前の魔法力の高さ、魔法量の多さ、どれだけ器用でどんなことができるのか。これでも記憶だって共有したんだ。お前ならできる」
「妙な信頼だが、そういうのも悪くないかもね。適度な緊張感は大事だ」
「そういう所がお前の美点だ。行くぞ」
その場にいた全員が頷く。そして詳細を聞きながら格納庫へ向かうことになった。
パット、イクサード、それとエルファという女性が前線に出て防衛戦を指揮する。基地そのものはカーミラさんが統治する。結局のところは俺がバド大陸に戻るだけなわけだ。詳細と言うにはあまりにも雑だな。
一度も乗ったことがないモービルギアに乗り込み、操作マニュアルに目を通した。が、人差し指の先から付け根ほどまであるマニュアルすべてにに目を通すなんてできるわけがない。パラパラとめくりながら要点だけを絞って記憶していく。しかし、どうしてまた紙媒体なのかがわからない。この世界の技術ならデータに落としこむことくらい簡単だろうに。スーべリアットでさえ導入されてるんだ、できて当然のはずだがいろいろと理由があるんだろう。
操縦桿を握ると身が引き締まる。三度深呼吸し、スラスターに火を入れた。
『反重力エンジン、魔法力エンジン、共鳴振動エンジン、補助モーター起動確認。魔法連動装置起動、魔法力の供給を確認、ハーモクス連動率五十パーセント。エネルギーケーブル接続。マルチブルモニター展開。バリアエフェクト、魔法装甲に異常なし。バイタル正常。パーソナルステータスを確認、安瀬神縁と認証しました。これよりケミカルセンサーにより、こちらでもバイタルステータスを観測します。斜線上に障害物無し。マシンチェックオールグリーン』
「了解」
女性オペレーターの声が機内に響いた。機体が身体の一部になったような感覚が、指先から全身に広がっていく。
『ユーハブコントロール』
「アイハブコントロール」
『ランチャーアウト。ご武運を』
「安瀬神縁。行ってきます」
一瞬で加速していく。一瞬にして強烈なGが身体にかかる。しかし、すぐさま緩和された。これもまたファーランガルの技術ってやつか。
一応速度計の見方は把握しているが、まさかマッハ五なんて速度を体感するとは思わなかった。
目的地までは約五分。それまでこの世界の機械に慣れておこう。機械と自然が融合したこの景色には見慣れそうにもないが、見慣れないからこそ面白い。
エルアは今頃どうしているだろうか。そんなことを考えながら、操縦桿を強く握りこんだ。




