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天才術師の存在証明《イグジステンス》  作者: 絢野悠
【ホープピーシーズ編】 クロスオーバー:パトリオット=エルド=アルメイシュ
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十六話

 糸は繋がった。あとはこの糸をどんどんと束ねていけばいい。簡単なわけじゃないが、糸を紡いで縄にする。その縄を太く長くしていかれれば、絶対にライオネルに行き着くはずだ。ようやく王位に指を掛けた。慎重に、時に大胆に行動しなければならない。


 これまでよりもずっと高い志を胸しして会議室をあとにした。そして俺たちは俺とエミリオの寝室に集まった。


「「パトリオット様!」」


 部屋に入った瞬間、キューット姉妹に怒鳴られてしまった。耳を押さえるがまったく意味がない。


「まあ落ち着け。というかこんな状況この前にもあったな」

「そんなことはどうでもいいんです! どうしてまたあんなことを言ったんですか!」


 ずいっと前に出たエルファは、俺の鼻先ほどまで迫ってきた。鬼の形相、というのはまさしくこのことを言うんだろう。


「ああ言うしかなかったんだ。わかってくれ」

「わかりません! もう、どうして勝手に……」


 一筋の涙が頬を伝った。彼女の顔は瞬く間に泣き顔へと変わっていく。まるでスローモーションのように、綺麗な顔がくちゃくちゃになった。


「――悪かった」

「ゆる、しません」


 どうしていいかなんてわからない。が、身体が勝手に動いた。


「悪かった」


 両腕で彼女の身体を抱いた。背中を軽く何度か叩く。


「交渉材料がめちゃくちゃです。話し合いにもなりません。あの場で少し時間をくれとでも言えば、大我様だってわかってくれたでしょう。どうして自分の立場を悪くするような発言ばかりするのです」

「泥を被るのは俺の仕事だ」

「それなら私も共に被ります。ですから、これからは自分だけでなんとかしようとしないでください」


 顔を上げ、上目遣いでこちらを見た。顔の造形が綺麗なだけあって、破壊力には凄まじいものがある。


「その時は、頼む」

「わかりました。それなら、今回のことは不問にいたします」


 怒ったかと思ったら泣いて、今度は満面の笑みを浮かべている。情緒不安定なのか感情豊かなのか。いつもの様子からはうかがえないが、こういう部分が妙に子供っぽくて愛らしい。


「いちゃつくのはそこまでにして、これからの方針を話し合った方がいいんじゃないかしら?」


 クオリアの言葉に、エルファは急いで俺を突き飛ばした。顔を真赤にし、ナスハの陰に隠れてしまった。


「そうだな、クオリアの言う通りだ。で、お前は俺に協力してくれるのか?」

「私? ええ、いいですよ。私がここにいる理由や経緯はお話しましたね。最初はミュレストライアそのものをなんとかしたいなと思っていたけれど、原因がライオネル様にあるのであればその限りではない。その王候補を屠るのを手伝います」

「エミリオも?」

「え!? あ!? 俺!? うん、俺は別にいいけど。ねえちゃんを騙したのがライオネルなんだろ? だったらぶっ潰すまでさ」


 ランゼルフ姉弟は問題ないと。大我に飼われてるようだから、あとで確認しないといけないだろう。


 俺はナスハへと視線を向けた。


「お前も問題ないか」

「ええ、大我様への報告は必要でしょうが、問題ないと思われますよ。また貴方にお仕えでき、心から嬉しく思います」


 彼女は片膝をつき、頭を垂れた。


「そういうのは必要ない。元々主従関係ってのが苦手でな、口調は仕方ないにしても、態度までは大げさに変えなくてもいい。こっちとしても、かしこまられるとやりづらいからな」

「わかりました、おっしゃるとおりに」


 立ち上がり、今度は軽く会釈をした。


 エルファが可愛らしいとすれば、ナスハは美しいという表現が似合う。顔の造形、立ち振舞い、全てにおいて美しい。


 俺は今でもまだ子供だが、ナスハのこの姿は幼い頃に憧れたあの時のままだ。


「それでは、すぐにでも行動を開始した方がよろしいんじゃなくて?」


 ナスハとの会話に、クオリアが空気を読まずに割り込んできた。優雅に見えて意外にせっかちなヤツだな。


「そうしたいところだがそうもいかない。俺たちが次に異世界に転移できるのは約二日後だろうな。転移をするためには魔法力の充填が必要だって説明された」

「あらあらまあまあ、ミュレストライアの世界転移技術はそんなにも脆弱なものなの?」

「こっちは正規軍じゃないし、研究員なんかはライオネルに取られてる。その上で優秀な有志が作った装置だ。文句も言えん」

「それならば、ダルカンシェルの王たちに謁見してはどうでしょう。友好関係を結ぶのであれば、あの方々にも自ら話しを通すべきかと」


 今度はナスハが口を開く。


「そうだな、今すべきは王たちに理解を求めることだ。すぐにでも向かいたいところだ」

「それならばこちらで手配しましょう。私たちも同行します」

「待て待て、俺とエルファはミュレストライアの技術でここまで来たが、お前らはスーべリアットの技術だろ? 別について来なくてもいいぞ。一足先に他世界に向かってもいいし、一度スーべリアットに戻ってもいい」

「そういうわけにも行きません。それに、大我様からパトリオット様のことを頼まれましたので」

「ああそうかい、手が早いな大我は」

「優秀な上司ですよ、大我様は。ミュレストライアから来た私を手厚く看病してくれましたし」

「そういや、お前も召喚されたんだよな? 一体誰に?」

「わかりません。気が付いたら病院でしたので」


 そこはおいおい大我に直接聞くとしよう。エミリオやクオリアが召喚されたのはかなり特殊な状況だった。大人数での召喚だったからミュレストライアからの召喚を実行できた。もしもナスハを召喚した人間が一人で召喚したのだとすれば、それはかなり高度な魔術を使えるということになる。どうにかこちらに引き込めればいいが。

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