十五話
ナスハの口利きで砦に入り、そのまま一晩を明かした。クオリアは医務室に直行してそのまま眠った。余りの部屋は多くないらしく、俺とエミリオが同室、ナスハとエルファが同室だった。救いだったのは、疲労のためエミリオが寝てしまったこと。俺はエミリオを倒して牢獄送りにした張本人だ。もしもエミリオが眠らなければ空気が悪くなって仕方がなかっただろう。
クオリアとナスハの回復を待ち、お互いの話をすることとなった。大我などを交えた異世界同士の情報交換だ。
俺、エルファ、ナスハ、クオリア、エミリオ。それとモニター越しの大我。一応砦の長と三国の王たちもモニターでの会話となる。
スーべリアットやその他の世界にミュレストライア兵が進撃してきたこと。
マクランディへは縁、ダルカンシェルにはクオリアを送り込んだこと。
スーべリアットは大我や清たちがなんとか頑張っているということ。
それらを大我から聞き、逆に俺はダルカンシェルに来た理由、現在俺が置かれている立場なんかを説明した。
『なるほどな、ナスハからパトリオットという名前が出た時もしかしてと思ったが、お前のことだとは思わなかったよ』
「そりゃな、俺は記憶がぐちゃぐちゃだったわけだし、名前が同じだけだって思うのが普通だろ」
厳つい顔、その眉間にシワを寄せた大我にそう言った。
『まあその話は後にしよう。今はお前の目的である「他の世界と協定を結ぶ」ということについて話をせねばならない』
「そりゃ願ったり叶ったりだ。すぐにでも協定を結んで俺を王位に近づけて欲しいってのが本心だしな」
『この状況だとかなり難しいだろうな。お前が指示したわけじゃないにせよ、ミュレストライアが侵略を開始したのは間違いない』
「難しいのは重々承知だ。それでも、成さなきゃならないことがあるんだ。そうしなきゃアイツが王になって、今より酷い状況が生まれる。俺にしかできないんだよ」
『気概は認めよう。しかし、協定を結んだ後の懸念が拭えない』
「その懸念とは?」
『お前が協定を結んだのち、お前が王位を継承できなかった場合だ。結んだ協定はどうなる? そのままライオネルに渡り、お前が思うよりも遥かにマズイ状況になるのではないか?』
考えてなかったわけじゃない。
他世界との交渉が終わった時、それは「俺が王位につくか、つかないか決めるためのデッドライン」になる。なにもしなければ継承権を捨てることになるが、他世界との協定を結べば後戻りはできなくなる。
「そんなことはわかってるんだよ。リスキーな賭けだってことも理解してる。成せなかった時のリスクの高さも、可能性が低いこともわかってる。評議会の連中が皆ライオネルとグルで、俺がどんな継承条件を提示してもいいように仕組まれてるのかとも思った。全てを横からぶん取るように画策されてるんじゃないかとも考えた。それでも動かなきゃなにも変わらないだろう。アイツが笑って権力を振るう傍らで、一体どれだけの人間が泣いてると思ってるんだ。アイツが酒を飲み肉を食っている時に、一体どれだけの人間が餓死してると思ってるんだ」
『それはお前の国の話であり、その他の世界は関係ない。だからこそこの懸念が成り立つのだ』
「いいや違うな。アイツは第六世界になにがあるかを突き止めている。それがもしも、全ての世界を侵略できるような力があれば、ミュレストライア以外の人間も奴隷と化す可能性がある。それを止めるのにはお前や、他の世界の協力が必要なんだ。俺の策が筒抜けだとかどうとかは関係ない。第六世界到達を阻止するのにも、他世界との協定も、俺だけじゃどうにもできないんだ」
『ならばどうする? お前が王になれなかった場合、お前が持つ権限を使わせないための策があるのか?』
初めて出会った時から、この強い瞳を怖いと感じていた。モニター越しであったとしても変わらない。意志と威厳、畏怖と矜持。それらの塊と言っても良い、そんな光を宿している。
打ち砕け。懐柔しろ。そしてそれ以上に理解してもらうんだ。
「策はある。協力さえしてくれればの話だがな」
『ほう、では言ってもらえるか?』
微笑んでもなお、その瞳は強かさを持ったままだった。
「簡単な話だ。ミュレストライアを破壊してくれればいい。そのためには、他の世界に協力してもらわないとどうにもならん」
雰囲気で伝わってくる。この室内にいる人間、その誰もが息を飲んでいたのだろう。
『本気で言っているのか? お前の一存でそんなことを決めていいとでも?』
「俺がミュレストライアに対して起こす謀反だよ。俺の権限とかそういうのは関係ない。脅威を排除するという単純な構図だろ」
『お前というやつは……』
言いたいことはわかってる。逆に、大我もまた俺の思考を理解しているはずだ。だから、それ以上の言葉が出てこない。
「最低だよな。クソだって言われても仕方ない。何百万、何千万、またそれ以上の民を犠牲にする。それがいいことだとは思ってはいない」
『お前は、自分がそれだけの人間の命を背負えると思っているのか。バカバカしいにもほどがあるぞ』
「思っていればいいのか? そうじゃないだろ。大我はもうわかってるはずだ。俺の言葉の裏になにが隠されてて、俺がなにを言わんとしているのか」
そう、間違いなく気がついている。
『ミュレストライアという世界の存続。その他の世界の尊厳。ライオネルに謀られようが関係なく被害は出る。両天秤もなにもなく、道はただ一つしか残されていない。そう言いたいんだな』
「ああそうだ。このままライオネルが第六世界を支配して王になった場合、間違いなく他世界も被害を受けるだろう。俺が継承条件を果たそうとしなければいずれはそうなる。そして俺が継承条件を果たしたところを横取りされても結局なにも変わらない。戦力を削るためには、ミュレストライアか第六世界を崩壊させるしかなくなる」
そこで一つ息を吐いた。
「伸るか反るか、今は決められないだろう。だが、協力してもらわなければ後も先もありはしない。背水の陣なんかじゃない、最初から崖に囲まれてるんだよ」
『八方塞がり、か』
「いいや、道はあるだろ? 俺が提示している、最後の道が」
『道とは言い難いな。お前が王になることでライオネルが止まるとは思えない。それにお前が言っているのは王になるための条件であり、世界を救う条件ではない。しかし――』
ここで初めて、大我は目を反らした。
『お前の行動がライオネルの思惑を潰すものであるとすれば、賭する価値もある。お前の肩にのしかかる責任は今の比ではないがな』
もう一度目を合わせた大我の目は笑っていた。
「上等だ。どうせ誰もやらないんだ、俺がやるしかないだろ? 必要なのは、ライオネルに対して世界が結束することだ。まあ、非常に情けない話ではあるんだが」
わざわざ笑い返してやる。情けないのも嘘ではない。それに俺たちにとっては大我が頼みの綱であることは、またコイツ自身もわかっているからだ。
『仕方がない、一応お前の父としてやってきた時間もある。外交官として見過ごせないのも事実。他世界には俺が連絡してみよう。が、上手くいくかどうかまでは保証できない。俺は一国の主ってわけでもないしな』
「その言葉が聞けただけで充分だ。借りはいつか返す」
『さあな、お前に貸したものなどすぐに忘れる』
あとは事務的な会話をしてから解散となった。




