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天才術師の存在証明《イグジステンス》  作者: 絢野悠
【ホープピーシーズ編】 クロスオーバー:パトリオット=エルド=アルメイシュ
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十三話〈リターン:パトリオット=エルド=アルメイシュ〉

 光の中を突き進み、気付けば荒野に寝そべっていた。


 上体を起こして周囲を見れば、エルファも俺と同じように仰向けで寝ている。目は閉じているが、その豊満な乳房が規則正しく上下していた。


 立ち上がり、拳を何度か開いて閉じて、ミュレストライアと遜色ないことを確認する。そしてエルファの肩を揺らして起こす。


「ん、うん……」

「おい起きろ。寝てる暇はないだろ」


 呆けた顔のエルファを無理矢理立たせた時、首輪からリンの声が聞こえてきた。


『王子、大丈夫そうか?』

「ああ、問題ない。これからどこに迎えばいい?」

『南南西にクオリアの反応がある。結構派手に暴れたみたいだが、その後の反応がおかしい。急に魔法力が縮小している。なにか異常があったとみていいな』

「距離はどれくらいだ。俺が全力疾走しても間に合うか?」

『二十キロ程度。今の王子じゃ十分はかかるだろうな。が、エルファならばもっと縮められるはずだ。できるよな?』


 エルファは一つ頷き、俺の腕を掴んだ。


「おいちょっとま――」


 口元に笑みを浮かべたかと思えば、こちらの返答を聞く前に駆け出していた。駆け出すというのが正しいのかどうかさえもわからないほどの速度。ほとんど地面に足をつけず、地面スレスレを低空飛行しているような状態だった。


 腕を掴まれた瞬間に身体強化をしなければ、この速度に耐えられたかどうか謎だ。この妙に強引なところに順応したということか。


 しばらくすると遠くの方に城が見えてきた。荒れ地だった地面には草花が見え始めているが、速度が早すぎて「なにか色が付いている」程度のことしかわからない。


 城が近づく。それに伴い、城の前に大きなものがあるということもわかってきた。


 大きな大きな炎。人の形をしており、それが異常なのだとすぐにわかった。もしもダルカンシェルの人間が皆大きいのなら話は別だったんだろう。


 逃げていく人の中に、クオリアを抱えたエミリオを発見した。が、それ以上に、巨人に襲われている一人の女性に目がとまる。


 懐かしいと感じる気持ちと、今すぐに行かなければという思いが胸を満たしていく。


「投げます」


 エルファの言葉に耳を疑ったが、どうやら本人は本気らしい。


 肩を強く掴まれ、移動速度よりも更に早い速度でぶん投げられた。事前に【分析真眼】でエルファの魔力を見ておいたためそれをコピーして調整する。


 打ち下ろされる巨人の拳よりも早く、俺が巨人にたいして攻撃をしかけた。急ブレーキをかけるが、この速度では止まれないとわかっていた。が、それでいいのだ。


 魔力を拳に集中。魔力の調整は下手くそだが、十か一なら俺にもできる。


「その女に触れるな……!」


 巨人の腹部に激突すれば、あまりの攻撃力にその体躯が吹き飛んだ。個人的には「脚がもつれればいいか」くらいの気持ちだったが、想像以上に重量がなくそれでいて肌がひりつくような魔力を感じた。


 異質であることは明白だが、これが一体なんなのかまでは【分析真眼】でもわからなかった。全身は魔力の塊で、心臓部分には黒い靄。これがなんなのかを理解する必要がある。


「久しいな、ナスハ」


 振り向いてそう言えば、ナスハが化物を見たような顔をしていた。こいつがどこでなにをしていたのか、落ち着いたら訊かなきゃならないようだ。


「パトリオット、様……?」


 そう言った直後、彼女の身体は糸が切れた人形のように崩れ落ちた。片腕で受け止めるが、やはり人ひとりを支えるのは酷だな。


「待っていましたよ……」


 と言いながらも、彼女の体重は一層重くなった。気を失ったのだろう、このまましばらく寝かせておくか。


「やればできるじゃないですか」


 到着して早々ふざけたことを言う女だな。


「俺を誰だと思ってる」

「意地の悪い、正義のヒーローですかね?」

「勝手に言ってろ」


 俺のガラじゃないが、そう言われて悪い気はしない。


 巨人はゆっくりと立ち上がりこちらへと顔を向けた。一応、目のようなのもはついている。


 あの巨体に似つかわしくない、軽快な足取りで近づいてきた。軽快というよりも俊敏といった方が正しい。


「一発で撃ち抜く。下がってろ」

「承知しました」


 ナスハの身体を預ければ、特に抵抗もなく受け入れている。実の姉のはずだが、感激とかそういうのは後回しだということか。


 俺は魔術の扱いが下手くそだ。その反面、相手の魔術を細部までコピーできる。最初からできたわけじゃなく、やっているうちにできるようになった。元々魔力だけならばかなり高い部類だったはずだ。あとは使い方さえわかれば、俺にだっていろいろできることがある。


 拳を少しだけ引いて、空気中の魔法力を集めていく。


 思い出せ、俺の周りにはたくさんの術者がいただろう。


 エルファは、イクサードはどうやって魔力の流れを扱い、どういう分量で強化していたのか。


 思い出せ、俺は今まで誰の中にいたんだ。


 縁の人格になった時、アイツの記憶をほぼ体感するような感覚で垣間見てきた。魔導術式をどのようにして組み上げて使ってきたのか。


 指輪のおかげで〈巣食う魔を救う者〉自体は使えるのだ。もしもこの指輪を縁が手にしたとしたら、アイツはどうやって使うだろう。そっと手渡した後のアイツの行動を予想し、術式の方向性を想像した。


 縫い合わせるように、特性同士を思考の糸で繋いでいく。コイツを倒すのに必要な特性は〈魔導系統:攻撃系〉〈指向成型:放射型〉〈命令規式:自然式〉〈属性分類:光属性〉を基礎とする。。身体は炎のように見えるが、実際は炎ではなくただ魔力が揺らいで見えるだけにすぎない。それならば水属性は必要ない。逆に加速させる意味を込めて光属性を付与した。


 そこに〈巣食う魔を救う者〉の要素を足し、攻撃だけではなく分解することも考慮し〈指向成型:分解型〉〈指向成型:盛衰型〉〈命令規式:粒子式〉〈命令規式:物質式〉を追加。前者四つと後者四つを〈巣食う魔を救う者〉で繋ぎ合わせた。


 魔力の膨張を感じると、組み上げた術式が紋章となって目の前に現れた。その術式紋は光輝き、手のひらを目一杯広げるよりも数倍大きい。


「初めて自分で作った術式だ。安全だという保証はない」


 強化した拳を全力で突き出し、目の前の術式紋を殴りつけた。


 破裂する光の結晶は小さく細かい。威力が強すぎたかと思うほど拳に感じる反動が強く、ここだけが異常気象のように暴風が巻き起こっていた。気を抜けばこちらが吹き飛ばされてしまうだろう。


 放った放射線状の光は一直線に伸びていく。


 巨人は手を前に出し、その光線を防御しようとした。が、光線は魔力を減衰させながら分解していくように特性を与えた。威力だけではなく、攻撃力に繋がるような術式を組んだのだから当然だ。


 手を突き抜け、巨人の心臓部分に当たる黒い靄に直撃。そして貫通した。


 動きが止まったのを確認し、大きく深呼吸をしてから姿勢を正す。


「ケンカを売る相手を間違えたな」


 纏っていた炎が空気に溶けていく。

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