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天才術師の存在証明《イグジステンス》  作者: 絢野悠
【ホープピーシーズ編】 クロスオーバー:パトリオット=エルド=アルメイシュ
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十二話〈ビューポイント:ナスハ=キューリット〉

 目の前でクオリアが倒れた。血しぶきを撒き散らし、為す術もなく魔導術に蹂躙された。それが本当に魔導術なのかと言われると、ナスハにも正確には答えられない。


 その直後に理解する。これが、霞や大我が言っていた【契術】というゲートを利用した魔導術だということを。


 エミリオと同時に急いで駆けより、クオリアの身体を抱きかかえる。


「ねえちゃん! ねえちゃん!」


 感情をむき出しにして泣くエミリオを横目に、クオリアの身体に起きた異常を探り始めていた。


 体内から血液を使役する契術。ライオネルの仕業だということはすぐにわかったがどういった術式なのかまではわからなかった。


 彼が現れた時点でなにが起きてもいいように警戒すべきだったと、自分の迂闊さを呪うしかなかった。


 体中を蹂躙されたせいで、クオリアの意識は朦朧とし、その吐息もかなり小さい。このままでは息絶えてしまうというのはわかるが対処法もわからない。一つだけわかるのは、クオリアのポケットから落ちた一つの魔導器が光っていたこと。


「これは……」


 拾い上げてみれば、それは魔導術を緩和するタイプの魔導器だった。背面に花の彫刻が施されている手鏡は、さびれて欠けて見るからに古めかしい。手の中に収まるほどの大きさであるが、鏡面はかなり細かくヒビが入ってしまっていた。


「これがなかったら、今頃はただの肉片になっていたか」


 ダルカンシェルに契術があるとは思えない。そうなれば普通の魔導術でも対応できるのではないかと考えた。クオリアは「この術は他者の術を緩和する」と言っていたが、緩和するだけであって完全に通用しないというのとは違う。大きな魔導力さえあれば、今すぐにでもクオリアを救えるのだという結論に至った。


 が、その魔導力のあてがない。クオリアですら諦めたのだ、彼女を上回るだけの魔導力が必要なのだ。


 さあどうすると考えている時間もなく、とにかく回復系の魔導術をかけ続けるしかなかった。


「エミリオ、彼女をつれて砦に戻りなさい。砦の中にいる術師を集めて回復系魔導術を全員でかけてください。砦以外からも人間を募ってなんとか命を繋ぎます」

「それでなんとかなるのか?!」

「やってみなければわかりませんが、諦めるのはまだ早いでしょう。クオリア様にかけられた術を魔導器が緩和したのがその証拠です」


 エミリオにクオリアを抱かせ、同時に周囲の兵への撤退命令を出した。


 直後、城の入り口が爆発した。


 炎の腕が伸び、脚が伸び、炎に包まれた巨人が飛び出してきた。身の丈は城と同じほどあり、ナスハの身長とは比較にならない。


 そして、巨体に似合わぬ猛スピードで接近し、目一杯拳を振りかぶった。


 一体なにが起きたのか、そんなことを考える前に身体が動いていた。


 魔導術で身体を強化し、傷つき倒れたクオリアと、彼女にすがりつくエミリオを遠くへとぶん投げる。周囲の空気を硬化させ、敵の攻撃を受け止めた。


「ここは私が引き受けます! 貴方たりはいますぐに退散してください!」


 ぐぅと、思わず息が漏れてしまいそうになる。元々はカーティスだと思われるこの巨人は、彼であった頃よりも大きな魔導力を有し、それを惜しげも無く開放している。見た目ではただの拳だが、向けられた圧力は今まで受けた攻撃では一番強かった。


 地面が割れ、脚がめり込む。受け止めたはいいがこれから先を考えていなかった。


【分析真眼】を発動すれば、身体を構成する魔法力の大きさや術式が見えた。そして胸元にある黒い靄が目に入った。


 これもまた契術の類かと考えたが、思考はすぐに中断させられてしまう。


 徐々に膝が落ち、身体が地面に密着していく。決して手を抜いているわけではなくむしろ全力に近い。


「うおおおおおおおおおおおおお!」


 一か八かと、水属性の魔導術をぶち当て、炎の勢いを弱めながら逃げることを選択。結果としてこれが功を奏し、拳からは逃げることができた。


 が、バックステップの直後に膝が笑う。


「魔法力を、奪われた……?」


 ただの一撃がなぜここまで苦しかったのか、離れてみてようやく理解できた。


 攻撃力もさることながら、巨人には魔法力を奪う、もしくは削り取る力が備わっている。攻撃そのものか空間を利用するものかまではわからないが、いくら【分析真眼】であっても契術までは見切れない。


 心臓部分の黒い靄が影響しているのだとしたら範囲攻撃だろう。そういう予想は立てられても、限定される範囲までは特定できない。


 巨人がノーモーションで疾駆する。筋力という物理的な部分が存在しないのか、予備動作がほとんど存在しないのだ。


 次は受け切れない。


 停止しそうになる頭を切り替えようとするが、為す術がないという現実に直面する。


 迫り来る大きな拳を前に目を閉じ、最後の力を込めて防御壁を展開した。


 しかし、いつまで経っても攻撃がやってこない。それどころか、左側遠くの方で音がした。なにか大きなものがが地面に落ちたような、重量感がある落下音。


「久しいな、ナスハ」


 少し大人びた男性の声にハッとなり、弾かれるようにして声がした方を見た。


「パトリオット、様……?」


 身長が伸び、顔立ちは少々大人っぽくなっていた。それでも彼がパトリオットであるということはすぐに気付いた。


 鼻は高く、目付きは悪いが瞳が大きい。金色の髪の毛と碧眼は、今は亡きミュレストライア女王や、先々代のミュレストライア王の面影を感じさせる。


 ライオネルは父である先代の血を強く引く黒髪赤眼。先代の王は元々王族ではなかった。逆にパトリオットは金髪碧眼で、先々代から受け継ぐ正当な王の血統だった。


「あとは任せて、静かに眠れ」


 まさかこんな日がくることになるとは。そんなことを考えると、体中がら力が抜けていく。ここで先々代の王、クラセイルの言葉を思い出した。


『お前が不幸になろうとき、きっと誰かが助けてくれる。お前が頑張った分だけ、きっと誰かが見てくれている。だからお前は、お前ができる分だけ頑張ればいい。無理をする必要なんかないんだよ。努力が報われるかどうかは運次第だが、その努力が作った道は嘘を吐かないのだから』


 意識が遠くなっていく。言いたいことは数あれど、終わってからでもいいのではと思った。


「待っていましたよ……」


 最後にそう言ってから瞼を閉じる。自分でも限界だと感じた。


 深い深い沼の底へと身体を沈める直前に、懐かしい香りに身体を支えられたような、そんな気がしていた。

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