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天才術師の存在証明《イグジステンス》  作者: 絢野悠
【ファーランガル編】
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五話

 寝て起きて、ご飯を食べてからシミュレーターをして、またご飯を食べてシミュレーターをして。そんなことをしているうちに数日が経過した。敵は進軍してきていたのだが、バド大陸の兵士が優秀なのか、まだ上陸させていないようだ。


 早く操作を馴染ませなければ。そんな気持ちが先に出て、どうにも上手くいかない時がある。


「おい、エニシ」


 シミュレーターから出てドリンクを飲んでいると、ジューノさんが話しかけてきた。ここ数日間つきっきりでお世話になっている現役のパイロットだ。この辺では有名なパイロットで、たくさんの部下を持っているらしい。


 カラダが大きくガタイがいい。少しだけ善先輩のことを思い出させるような風貌だ。頭は坊主だが、もみあげと髭が繋がっており、妙な野生を感じさせる。顔立ちが厳ついので、普通に喋っていても怒られたような気分になってしまうが、これもまあ慣れなんだろう。


「はい、どこかおかしかったですか?」

「お前もエルアートも反応がいい。いや、良すぎて制御できていない。正面に敵を捉えた時、別の方向からロックされた場合に気をつけた方がいいな。反射的に警戒するのも大事だが、そこはもっとアシストを信じてもいいだろう。少しキョロキョロしすぎだ」

「なるほど、アラートを一度確認しろと」

「そうだ。最悪はアボイドシステムを起動させておけば万が一は避けられるはずだ」


 アボイドシステムとは、自動で攻撃を避けてくれる機能だ。接近攻撃や投擲物は問わず、自分に向けられた攻撃を、最も最適だと分析した位置へ移動して回避する。これだけ聞けば素晴らしい機能だが、実は一つだけ致命的な欠点がある。


 それは、攻撃を避けた直後は無防備になるということ。つまり矢継ぎ早に攻撃されると避けられず、必ず次の攻撃を避けるまでのタイムラグが発生するのだ。その間は完全マニュアル操作のため、パイロットの腕が問われるシステムと言ってもいい。アボイドシステムと繋がりを持つ、被ロックアラートは生きているため、それを使って乗り切るしかない。


 あまり大勢との戦闘ではかなり使いづらいシステムだが、使いこなせれば常時つけっぱなしでも問題はないだろう。


「次はアボイドシステムを切らずにやってみます」

「大丈夫か? あれは自分が思った方向に移動しない。回避方向を予め予測し、機体を立て直す技術が必要だぞ?」

「それくらいなんとかしてみせますよ。できなきゃ、ここに来た意味がない」

「デカく出るな。いいだろう、お前の気が住むまでしごいてやる」

「よろしくお願いします」


 ジューノさんは、白い歯を惜しげも無く見せて笑った。


 その直後だった。


 天井の隅に設置されている赤色灯が光り、その光が所狭しと部屋中を駆けまわる。同時にけたたましいほどのアラートが鳴り響いた。


「な、なんですかこれ」

「敵襲だ。昨日までは上陸さえもさせなかったはずだが」


 僕たちがそんな会話をしていると、入り口からシューベルさんが入ってきた。息を切らし、額にはうっすらと汗を浮かべている。


「大変じゃ。超高速で接近してきたアーマードギアが近づいてきておる。ここを除く四大陸の技術を無理矢理収束させているのか、コストパフォーマンス度外視の殺戮兵器じゃ。このままでは、ここもすぐにやられてしまう」

「それでは、私が行きましょう」


 ジューノさんはノータイムでそう答えた。


「やめておけ。お前でもあれは手に負えない」

「時間稼ぎくらいにはなるでしょう。こいつらを逃がすための、ね」


 彼は「行くぞ」と部下を引き連れ、早々に部屋を出て行ってしまった。シューベルさんの言葉さえも聞かず、頑として意志を曲げない屈強な戦士。しかしその背中を見て、不安だけが胸に広がっていく。


「仕方がない。行くぞ、お前たち。ワシについてこい」


 僕たちに背を向けて歩き出すシューベルさん。


 でも、僕たちは一歩踏み出せないでいた。


「どうした。早くせんと敵が来てしまう」


 床を見つめ、その後目を閉じた。


 これでいいのかと自分に問いかける。ジューノさんをデコイにし、シューベルさんに連れられて逃げ出す。この選択肢は、僕らが望むべきものなのか。


 いや、望む望まないなんて関係ないんだ。こうしなければいけない、こうでなくてはいけない、結果を求めるための犠牲が必要な時もある。


 そんなこと、わかっている。


「それでも、僕は逃げるわけにはいかない」


 目を開き、シューベルさんの瞳を一直線に見つめた。


「お前も出るというのか? 無理じゃ、機体は完成しているが、お前たちは試運転もしていないんだぞ。かなり高性能に仕上げたが、微調整をしていないアーマードギアは危険な兵器だ。最悪は暴走して、爆発するケースだってある。もちろんそうならんようには作ったが、お前たちが操縦した場合の負荷計算などもしなけりゃならんのだ」

「敵は強いんでしょう? ジューノさんでも歯が立たないくらいには」

「そうじゃ。だから余計にお前たちを出すわけには――」

「勝てばいいんですよね?」


 僕がそう言うと、シューベルさんは一歩下がった。


「なにを、言っておるんじゃ」

「ようは、勝てればなにも問題はない。それなら勝ってきますよ」

「無理じゃ! 初心者がなにを言っておる! 口で言うだけならなんとでもなるわい!」

「要望通り、魔導術が使えるようになってるんですよね? もしもそうなら、なんとかなるかもしれません」

「あっちの機体がどんな性能なのか、それさえもまだわかっておらんのだぞ!」

「相手は何機なんですか?」

「一機じゃが、そういう問題ではない」

「一機なら、たぶんなんとかなると思います」


 背後にいるエルアに視線を向けた。彼女は眉根を寄せ「やれやれ」と言いながらこちらへと歩いてきた。


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