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天才術師の存在証明《イグジステンス》  作者: 絢野悠
【ジャック・ザ・リッパー編】
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六話

 昨日と同じように生徒会室に人が集まった。当然話の内容は昨日の事件についてだった。


 幸いにも命に別状はなさそうだが、最低一週間の入院らしい。


 会議は昨日の件についての説明だけだったので短時間で終了する。生徒会の先輩が襲われて病院に運ばれた、くらいなものだ。

清に手招きされるまでは、そう思っていた。


「お前たちを残したのには理由がある」


 生徒会室に残された俺たちに、清はそう言った。ちなみに俺、エルア、アラン、結。それに会長の清と副会長の尽だ。


「どうせアンタのことだ。俺たちを駒として使いたいんだろう?」

「縁は物分かりがいいな」

「で、どうすりゃいい。俺たちだって命を賭すほどのことはできないぞ」

「命を賭ける前に通り魔にやられたりしてな」


 とほのめかしながら、清は薄く笑った。


「わかった、わかったよ。じゃあアンタのプランを聞かせてくれ」

「プランというほどのことはない。基本的な警邏は今まで通り、生徒会と風紀委員で行う。それとは別に、お前たちには警邏をしてもらう。つまり二重に見回りとするということだ」

「時間稼ぎ、か」

「察しが良くて助かるよ」


 他のペアが遭遇した場合でも、俺たちが先に遭遇しても、人数が倍ならば時間稼ぎくらいにはなるだろう、ということだ。


「それはいいとして、アンタはほかのことを考えてるんじゃないのか? 今回の事件には別の側面があるってな」


 この発言によって、俺は全員の視線を集めた。


「お前も気付いているのか」

「気付いて当然だ。病院送りになった者は小さな無数の切り傷。死んだ人間は大きな裂傷のみ。勢い余って殺したとは考えにくい」

「ああそうだよ。私はこの事件、犯人は最低でも二人以上の犯行だと睨んでいる。それもまったく別の意思で動く二つの存在」

「じゃあなぜそれを会議で言わないんだ?」

「私にもいろいろと考えがあるんだ、。とにかく、お前たちは警邏のローテーションから外れろ。毎日見回りだから、そういうことで」


 ひらひらと手を振る清は、イジワルそうに笑っていた。緊張感の欠片も感じられないが、それが彼女の良さでもあった。


 その後、寮に帰った俺の元に一通のメールが届いた。送り主は清だ。きっと他のメンツにも届いているんだろうな。


 俺とエルアは北地区の住宅街担当。これはエルアの祠徒が多いという理由らしい。一般人と出くわしても助ける術が多いと、メールに書いてある。


 アランと結は西の繁華街。人が多く集まる場所なので、ジャックザリッパーも出づらいだという配慮。特にこの二人は、三組の中で一番戦力が低い。


 最後に生徒会役員ペア。一番殺人事件が多く起こっている南の工業街を担当する。


 それにしても、学生とは思えない生活だな。


 着替えを済ませ、女子寮の入り口でエルアと合流した。



 昨日のように、二人揃って歩き出した。


 マンションからはたくさんの光が漏れている。しかし、道路に人気はない。ジョギングをしている人を二人ほど見た程度だ。まだ八時だというのに、西地区とは比べものにならないほど静かだった。


 一時間ごとに見回り、これが最後の一時間となる。


「今日、ジャックザリッパーは現れると思う?」

「なんだよ急に。まあ正直言うと、出るかどうかは謎だな。あいつらだって毎日人を襲ってるわけじゃない」

「そう、よね」


 話を振ったかと思えば、勝手に納得して黙り込むエルア。


「なんだ、言いたいことがあったら言えよ。むずかゆいだろ」

「昨日のは愉快犯。殺人をしたのはそれとは別の人。そのどちらと当たっても、厳しい戦いになるかなと、そう思ったのよ」

「そんなのは気にしなくていい。いざとなったら自分の身を守ることだけ考えてろ。あとは俺が上手くやる」

「アナタが強いのは認めるけど、毎回毎回上手くいくとは限らない。それに一方は殺人犯なのよ?」

「相手が誰であろうと、俺はそう簡単に負けない。でもそれは俺が強いからじゃなく、俺の祠徒が優秀だからだ。それ以上でもそれ以下でもねーよ」

「アナタって不思議な人ね。強気なのに自信がない。まるで自分よりも強いなにかに怯えているような、そんな風にも見える」

「怯えてるわけじゃない。ただ、そいつを羨ましく思ってるだけだ」


 そう、俺は弱い。それは他者と比較した際の強弱ではなく、俺が求めている強さとはかけ離れているという意味だ。手にしたくてもできない強さを持っている人間を、俺は知っているから。


「そういえば気になっていたんだが」


 話すことがなくなった頃、思いついたことを口に出す。


「なによ、改まって」

「お前って友達いないのか?」


 エルアは足を止め、苦痛に顔を歪めていた。いや、無表情でありながらも悲壮さがこちらまで伝わってくるといった方が正解か。まさにこの世の終わり、という表現に相応しい表情だ。


「い、いいいいいいるし友達くらい?」

「疑問形である意味がわからん」

「ちゃんといるわよ! 学校が違ったり学科が違うだけよ!」

「つまり星架にはいないんじゃないか。おかしいと思ったんだよ。昼休みは俺と一緒だし、移動教室も一人。結やアラン以外と話をしている姿も見たことがない。そう考えれば結は友達なのかもしれないな」

「なに冷静に分析してるのよ! しかもなんでそんなに良く見てるの!?」

「見てるんじゃない、目につくんだよお前は」

「人を地味キャラ呼ばわりしておいてそういうこと言う?」

「なんだかんだで聞こえてたのか。まあキャラは弱いけど、見た目はそこそこインパクトあると思うぞ」

「まあ、目立ってても仕方ないわよね」


 エルアはふふん、と鼻を鳴らす。なんだか自信に満ちているあたりにモヤっとしてしまう。違うな、イラッとしてるんだ俺は。


「いや、そこそこな。ロリで派手な長髪でツンデレっぽい雰囲気とか、結構ありふれてるステータス詰め込んでるだけっぽい気もするけどな。ちっちゃいから人の陰に隠れるっていうのもマイナスだ」


「アナタって、どうしてこうトゲのある言い方しかできないの……」


 落差が激しい女だ。まあ見ているぶんには面白いからいいが。


 ただ、身長をコンプレックスには感じていないようだ。芯の太さは予想以上で、パートナーとしては申し分ない。


「はぁ、まあいいわ。そろそろ十二時だし帰りましょうか」

「ああ、なにもなくて良かったよ」

「それでも、近いうちに対峙しなくちゃいけない。先延ばしにしても、いいことはないと思うわ」

「面倒なことは早めに片付けたいわな」


 その後は特に会話もなく、俺たちは寮に向かった。


 寮に帰るまでの間は街灯も少なく、いい雰囲気とは言えない。現に、エルアもなんだかそわそわしている。先ほどまでは普通に会話していたはずだが、会話が途切れた途端にこんな感じになっていた。


「お前、暗いの苦手なのか?」

「そんなわけないでしょう?」と言いながら、俺の服の裾を掴んでくる。


 もうなにも言うまいと、そのまま寮へと帰るのだった。


「わっ」

「ひっ」


 急に立ち止まって脅かすのも悪くない。


「このっ! このーっ!」

「はいはい痛い痛い」


 何度も何度も脇腹を小突かれた。


 コイツをからかうのはなんだか楽しい。毎日の日課になってしまいそうだ。


 風呂に入る時に、脇腹が紫色になっていることに気付いた。淀みなく同じ所を何度も攻撃しするなんてと、エルアの恐ろしさを実感した。






「エニシさー、女の子からかうのもほどほどにしときなよ―?」


 風呂から上がり、部屋に入った直後だ。ルキナスがそんなことを言い出した。


「勝手に出てくるな」と言うのは、もう既に言い飽きた。


 ちなみに、尽は近所の実家に帰っているらしく、今日だけは一人部屋だ。実家が近いのに何故寮に入ったのか、というのは野暮なので聞いていない。


「四六時中かまってるわけじゃないんだ、別に問題ないだろ?」

「そういうことじゃないんだなー。女の子にはかまって欲しいときとかまって欲しくないときってのがあるんだよー」

「それにはボクも同感」

「パンドラもー」


 なんとなくわかってはいたさ。一人出てくれば、残り二人も出てくることくらい。


 タオルを窓際に掛け、ベッドに座った。コイツらの妙なお説教はそこそこ長くなる場合が多い。


 俺の膝の上にパンドラが乗ってくる。ここが特等席だと言わんばかりにナチュラルだ。


「じゃあ右はアタシー!」

「左はボクかな」

「なんなんだよお前ら……説教するなら早くしてくれないか」


 祠徒にここまで思われるのは嬉しい限りだ。しかしあまりベタベタされるのも困ってしまう。俺も一応男だからな、と何度言っても聞いてくれやしない。。


「そうそう、エルアちゃんね。あまりからかってると、いつか本気で嫌われるぞ?」


 なんんてリュノアがおどかしてくる。でも俺は好かれたいわけじゃないし、ある程度の距離感を保っていられれば問題ない。


「いや構わないんだが」

「かーつ!」


 と、ルキナスにチョップされた。いつものことだが、話をするのはリュノアで、攻撃をするのはルキナスと決まっている。


「いいかいエニシ。その身体は大事にしなきゃダメだ。前の高校と同じことを、絶対に繰り返してはいけない」

「そうそう。アタシたちはエニシの味方だけど、自分を追い込むような姿は見たくないし。エルアとの模擬戦闘もやりすぎだしね」

「アレは俺も悪いと思ってる」

「アレは、じゃないでしょ?」


 ルキナスに言われると無性に腹が立つ。しかし悪いのは俺だ。


「アレも悪いと思ってる」

「よしよし、これからはもうちょっと身の振り方を考えるように!」


 左右から手が伸びてきて、同時に頭を撫でられた。その反動でか、俺もパンドラの頭を撫でる。


「はふー……」


 と、パンドラは気持ちよさそうな声を上げた。こいつは頭を撫でるといつもこんにゃくみたいにふにゃふにゃになる。


「あー! パンドラばっかりズルい! アタシも! アタシもー!

「ルキナスの次はボクだからね?」

「はいはい、わかったわかった……」


 女ってのはどうしてこんなにも面倒なのか。そして、なぜそんなにも頭を撫でられるのが好きなのか。俺には一生理解できなさそうだ。


 コイツらのおかげで今までなんとかなってきた部分もある。導術師としてだけじゃなく、日常生活もだ。


 それに俺を愛してくれているのだとよくわかる。


 俺だって大切に思っている。だからこそ逆らえないのだ。


 これまでの礼と、これからも迷惑をかけるであろうという意味を込めて、何度も何度も頭を撫でた。


 今までありがとう、これからもよろしく頼むぞ、と。

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