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天才術師の存在証明《イグジステンス》  作者: 絢野悠
【スーベリアット編 -Side B-】
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二話

「呼んだか、綾部弟」

「案外簡単に姿を現すのだな。少し前は尻尾を巻いて逃げていたが」

「挑発しても無駄だ。時に戦線離脱も戦いのうち。それがわからないから脳筋だのなんだのと言われるんだ」

「その脳筋に倒された時の気持ちを、後で聞かせてもらうことにしよう」


 善は阿吽と金剛を召喚。【膂力増強(マーベラスパワー)】と【肉体硬化(アイアンボディ)】を発動した。


 阿吽が持つ【膂力増強】は、善の筋力を底上げするという単純な祠導術。


 金剛が持つ【肉体硬化】は、皮膚を金属のように硬くする。


 両方共小難しい操作を必要とせず、善の性格には非常に合っていた。


「お前は魔導術で俺に勝つことはできない。その上、祠導術の相性だって良くはないはずだ。お前の祠導術は魔導術でも補えるんだからな」


 そう言った直後に影慈は姿を消す。


 そして、影慈がいた場所にはフォーレットがいた。


 彼女はニヤリと笑い、高速で善へと迫る。


 フォーレットの能力を聞いていたため、彼女が持つ【帰還せし胎動】がどのようなものであるかを知っていた。


 だからこそ、善は自ら祠徒を召喚した。祠徒を召喚すれば、間違いなくそちら側に向かうだろうという考えがあった。


「考えが甘い」


 半身開いてスペースを空けると、善の背後で汐里が銃を構えていた。


「知っているわ、アナタの幼稚な策略くらい」


 放たれた銃弾を片手で弾き、フォーレットは汐里へと一直線に向かった。彼女もまた、狙いが善ではなかった。


 この時、汐里はスナイパーライフルではなく拳銃を持っていた。彼女は拳銃を構えたまま、視線はフォーレットからはずさない。


 伸ばされた手が汐里へと到達するだろうその時、瞬時に反応して攻撃を捌く。


 どうしてこれがよけられるのかと、フォーレットの瞳はそう言っているようだった。


 銃を使い、遠距離攻撃を起点にして戦うということ。拳銃を持っていたとしても、基本的には前衛がいることで相手にとって脅威となりうる役回りである。だからと言って接近戦が苦手かどうかはまた別の話だった。


 汐里は祠徒がもつ特性によって武器の方向性を決めた。元々慎重な性格であるため、周囲から反対されることもなかった。


 これから自分がどうしていくべきかを考えたうえで決めたこと。つまり、得手不得手ではない、できることをしようという思考が前に出た。


 彼女は接近戦が苦手ではない。むしろ、銃撃兵だからこそ接近戦を磨かなければと鍛錬を続けてきた。


 汐里は銃を持ったまま、右拳でフォーレットの腹部を下から打ち上げる。それに対してフォーレットも反応してくるが、蹴りや拳をすべて叩き落とした。


「銃撃兵のくせに……!」

「銃撃兵だから、ですよ」


 床を蹴り壁を蹴り、フォーレットは部屋の隅へと逃げていく。


「よく来たな」


 待っていたかのように、善が彼女の顔面に裏拳を叩き込んだ。


 それでも怯まず、二人から距離をとるフォーレット。鼻血が出ており、目は若干虚ろであるが戦意は失っていない。


「そこまでだ、綾部弟」


 追撃をかけようとした時、影慈の声が聞こえた。そちらを見ると、汐里が影慈の影に捕まっていた。


 床から触手のように伸びた影。そんな使い方ができるのかと思いながら、小さく舌打ちをした。


 細さは様々で、口元を覆うのはガムテープほどの太さ。身体には蔓のように巻きつき、糸のように細い影は手足を縛る。ここまで自在に動かせるのだ、下手に動いたら汐里の命も危ない。


「先にフォーレットを潰したかったらしいがそういうわけにもいかない。こっちとしては、お前ら二人が早く離れてくれないかと思ってたんだ」

「つまり、二対二では勝てないと思ってたわけだ」

「バカだな、一緒だと面倒なだけだ。少しでも負ける確率を下げた、ただそれだけに過ぎない」

「汐里を盾にして勝率が上がるとでも?」

「お前はなにが言いたいんだ? 祠徒を出してもフォーレットの祠導術で無効化され、今やパートナーは戦うことさえもできないんだぞ? 俺の祠導術を破れるほど、山本汐里は強くない」

「彼女が祠徒を消すのも、それができる環境がなければ成り立たないぞ」

「なにを――」


 三体の祠徒を召喚し、三つの祠導術を発動させた善。そのまま一気にフォーレットへと詰め寄り、その大きな拳で顔面を殴りつけた。彼女の身体は回転しながら壁へと衝突するが、洋館に障壁が施されているのか、壁が崩れることはなかった。


 壁から床へと落ちたフォーレットは身動き一つせず、気絶したのだというのが誰の目にも明らかだった。


「お前、今なにをしたんだ」

「さあ、なんだろうな」


 地面を踏み込み、今度は影慈へと一歩で近づく。その間、影慈は動くことをしなかった。逃げること、避けること、守ることなど一切ない。


 影慈の顔面にも、フォーレットと同じように拳を叩き込む。彼の身体が吹き飛ぶと、汐里に巻き付いていた影が地面に落ちた。


 吹き飛び、そのまま壁に吸い込まれた影慈。それを追うことは不可能だが、フォーレットがいなくなった以上は自分で攻撃を仕掛けなければならない。が、影慈が出てくるのを待つことはできないだろう。影を意のままに操るのだから、影から出てくる必要がない。


「どうするの、善くん」

「問題ないさ、奴は絶対に出てくる。ずっと影に潜ってはいられないはずだ」


 善は考えた。なぜ汐里を捕まえた時に外に出てきたのか。なぜエルアートを捕まえる時に表に出てきたのか。


 まだ確証はないが、そうせざるを得ないのではという結論に行き着いた。影を扱うという点もそうだが、影に潜り続けていられない理由があるのだと。


 善と汐里の息遣いだけが聞こえる洋館の中、周囲の気配を探りながら見渡す。影が伸びてくる気配もなければ、本人が出てくる素振りもない。


 耐えればいいのだと自分に言い聞かせた。これは無駄に動いたほうが負けの勝負と理解していた。


 目の端に、影から手を伸ばす影慈の姿を捉えた。もう一度汐里を捕まえようとしているのがわかった。

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