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天才術師の存在証明《イグジステンス》  作者: 絢野悠
【スーベリアット編 -Side B-】
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一話〈クロスオーバー:綾部善〉

 綾部善は頭を捻る。どうしてこうなってしまったのか、本当に自分でいいのかと。


 縁とエルアートを見送った直後、善と汐里は大我から連絡を受けていた。どうして自分のアドレスと知っているのか、とは聞かず、ただ彼の要請を受け入れた。


 善と汐里に与えられたのは、黒澤影慈の捜索及び拿捕であった。


 工業地区をあとにし、一度寮へと戻った。


 シャワーを浴び、着替えを済ませ、女子寮の前で落ち合う。


「善くん、これからどうする?」


 黒いサブリナパンツと白いヴィクトリアンブラウスという、清楚な彼女にはぴったりの服装だった。が、それで戦闘が可能なのかと思う善だった。


 身の丈ほどもあるケースを肩からかけているが、それがスナイパーライフルであるというのは知っていた。長い付き合いであるからこそ、二人は理解しあえている。


「まずは影慈の所在を確認しなければならないだろう。と言っても、軍部がそこまでの情報を入手しているかは謎だが」


 もしもその情報があるのなら、自分たちで動いてもおかしくはない。


 しかし、善の元には兄からの連絡が入っていた。清と尽で大我のお使いをするという内容であった。その連絡から、軍部にも余裕がないのだろうという検討はついていた。


 汐里のメルカトルが持つ【瞳に映る蒼穹(ブルーアイズ)】を最大限に活かすためにと、二人は中央区にある一番高い場所に向かった。学校や軍部がある中央区で周囲を見渡して影慈を探そうというのだ。


 第八支部の頂上は、中央区ひいてはこの区画の中では一番高い。軍人に案内されて最上階の屋上までやってきた。


【瞳に映る蒼穹】は、最大五百キロ先まで見渡せるという能力。スナイパーという立ち位置を確立させたのも、この祠導術あってのものだと言える。


 汐里が持つ能力はあと二つある。グノーシスの【心に揺る漆黒(ブラックスピリット)】は視野が届く範囲と自分の周囲に球体を出現させる。周囲の球体から遠距離にある球体へと物体を瞬間移動させることができるが、球体は直径5センチほどまでしか広げられない。


 最後にミトスの【翼に宿る黄金(ゴールドウイング)】だが、物質を光速で打ち出す。ボールを投げようが銃弾を撃とうが関係ない。これは魔導術でも行えることではあるが、ほぼ無条件で使えるのはこの能力ならではの特性だった。魔導術で光属性を付与するのは高等技術のうちに入る。現在マクランディに異常が起きているせいで、ミトスだけは召喚できない状態である。


 しかし、第八支部の屋上で周囲を見渡すも、黒澤影慈の姿はどこにも見えない。影に潜って移動するという能力が厄介だと知っている。それに建物の中などに入られてしまうとどうしようもない。


 もう一つ、汐里の視界を妨害しているのは街で起きている小集団による戦闘だった。局地的に戦火が起きて、煙などに阻害されてしまう。


「善くん。住宅街が少しおかしいかも」


 その中でも、彼女は糸口を見つけ出した。


 山本汐里という少女は、周囲に合わせることで自分を正当化してきた。目立たず、波風立てずに生きていこうと幼いころから決めていた。彼女の兄弟や両親は我が強く、それによって形成された意識だったのかもしれない。


 だからこそ、周囲を見る、顔色を伺う、仕草から考察するという経験則が出来上がっていたのだ。細やかな動きも見逃さないように、小さな変化にも気がつけるように。


「住宅街がどうした?」

「敵兵士の数が圧倒的に少ないの。でも、住宅街に向かった防衛機関の軍人は他の地区に向かったのと同じくらいの数。だとすれば、あそこには兵の数を補うだけの戦力がある」

「それが黒澤影慈だと言うのか。単純に強い兵がいるだけじゃないのか」

「それだけじゃないの。速度が早くて確実なことは言えないけど、大きな影から大きな影に移動する小さな影が見えたの。黒沢先輩は自分の影を消すことができないから、きっとあれが黒澤先輩なんだと思う」

「なるほど。お前の言うことを信じてみよう」


 善はそう言って頷く。


 第八支部の軍人と一緒に住宅街に向かうことになった。


 どうしてこの軍人たちは自分で影慈と戦わないのだろう。そこまで戦力を割けない状況とは一体どういう状況なのだろう。自動車の後頭部席、汐里の隣で考え続けていた。


 車から降りると、すぐさまミュレストライア兵が攻撃をしかけてきた。


「ここは俺たちでなんとかする。二人は黒澤を頼む」


 と、軍人の一人が言った。


 大きな車体の陰に隠れ、近くにあるアパートの側面へと移動する。


 銃撃戦の音や爆発音を背に、二人は住宅街を突き進んでいく。


 しかし、影慈の居場所がわかっているわけではない。逆に言えば住宅街にいるかどうかさえもわからないのだ。


 善は半信半疑であるが、汐里の顔を見ると「本当にここにいるのでは」と思わされる。信頼しているからこそ、口元に浮かぶ笑みがどのような意味を持っているかがわかる。


 アパートやマンションの間を走りぬけ、一軒家が連なる場所までやってきた。時々現れるミュレストライア兵を倒しながら目的地まで向かった。


 そう、二人には目的地があった。


「黒澤先輩はこの先にある大きなお屋敷に何度も足を運んでた。確か今は使われてなかったはずだけど、どこかに移動しては戻って、それの繰り返し」

「正直、誘われているという気しかしないが。まずはあのフォーレットとかいう祠徒をなんとかしたいところだ」


 それでも行くしかなかった。そこに影慈がいるのなら、今は罠に引っかかってでも突き止めなければいけない。


 民家の中で異色を放つ洋館。もう何年も使われておらず買い手もいない。住宅街でも有名な幽霊屋敷なので善も汐里も把握していた。


 洋館の前で一度停止し、周囲の魔法力を分析。ミュレストライア兵がいないことを確認してから駆け出し、門を軽々と飛び越えた。


 二人のレガールは機能を果たしていない。大我によって操作され、全力で戦うことが可能となっている。


 着地し、また速度を上げてドアの横へと張り付いた。


 館内からは魔法力を感じない。しかし、善も汐里も感知系が得意ではないため、細かい部分まで分析することは不可能だった。特に、黒澤影慈の能力は魔法力をかなり小さくできる。


 善は大きく息を吸い、一気にドアを開け放った。


 すぐさまドアを閉めるも、室内は埃っぽく、窓から差す光も仄暗い。


 エントランスの正面には大きな階段があり、階段の突き当りには大きな絵画が飾ってある。突き当りから左右に伸びる階段から二階に行かれるという構図だった。


「いるんだろう! 黒澤影慈!」


 善の叫びが館内に木霊した。


 そして呼応するように、階段突き当りの絵画の前に人影が出現した。床がせり上がるようにして影慈が姿を現す。

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