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天才術師の存在証明《イグジステンス》  作者: 絢野悠
【スーベリアット編 -Side A-】
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三話

「安瀬神外交官、増援までの時間は?」


 インカムのスイッチを押してそう言った。


『あと十分だ。それまで耐えてくれ』

「了解」


 レミーが放つ真空波を打ち消して横に飛ぶ。それでも追撃は免れず、光の弾丸を受けてしまう。その一つ一つが一撃必殺であり、彼女の顔色を見る限り魔導量もほぼ無尽蔵なのではとさえ思わされる。


 膝をつきながら、レミーに向かって手を伸ばす。


「【重力収束】!」


 周囲の重力を集め半径一メートルに収束、レミーの身体がガクンと沈んだ。


 待っていたと言わんばかりに尽が矢を放つ。夜なので【穢れ無き太陽(イノセントガラティン)】の攻撃力は非常に弱い。が、それでも魔導術で矢を作るよりもずっと強力だった。


【穢れ無き太陽】に光属性を付与。弦から指を離した瞬間にはレミーへと到達していた。


 矢の衝撃によって強風が二人を襲う。左手で目元を覆い土埃を遮った。


 周囲の重力を集めたことにより、清と尽はレミーと対極に身軽になっている。魔導術の発動起点をレミーに定めてあるため、彼女が動いてもそれは継続される。


 強風に紛れて、今までに感じたことがないほど強大な魔法力が肌を刺す。二人は思わず障壁を展開したが、それさえも瞬時に吹き飛ばされてしまった。


 光の矢が、二人の身体に打擲した。貫くことはなかったが、接触と同時に爆発した。


 予想外の攻撃に二人共吹き飛び、背中から地面に落ちてしまう。


 そんな清に重圧が降り注ぐ。


「やってくれるじゃない」


 レミーを起点とした重力は、接近してしまえば術者など関係ない。


 左手で首を掴まれ、徐々に息が苦しくなってくる。


 自分が使った魔導術でありながらもここまで強力なのか。そんなことを思いながら、レミーの腹部へと魔導弾を叩き込む。


「そんなものでどうにかなるとでも?」

「ならなくても、なさねばならない」

「その矜持もここで終わり。その心ごと塵にしてあげる」


 右手をスッと持ち上げた。手のひらには小さな魔導弾。しかしその魔導弾は街一つを吹き飛ばしかねないほどの力を内包していた。


 ただの魔導力をそのまま圧縮したにすぎないが、周囲の空気が歪むほどに強力だった。


「バイバイ」


 レミーがそう言った瞬間。彼女の右腕が宙を舞った。


 肘から先が綺麗に切断され、数メートル先に落ちた。


 唖然とするレミーの横腹を、尽が放った光の矢が直撃した。それにより清は開放され、咳をしながら立ち上がる。


「悪かったな」


 太く低い声。清の前に立つのは、黒いスーツを身にまとった中年男性だった。


「その声は、安瀬神外交官……?」

「ああ。正直時間はないのだが、この世界で十二領帝を相手にできる人材は少ない。基本的に雑兵の数が多くてな、手が回らないんだ」


 そんな清と大我の会話に割って入る一つの影。地面を駆け、大我へと手を伸ばす。


 が、大我が腕を薙ぐと横へとベクトルを変える。


 第八支部の支部長でありながらも外交官。その背中は強く逞しく、しかし魔法力は静かに沈む。


 これが、国を支え、世界を支える強さなのかと感嘆した。


「なんなの? アナタは一体何者なの?」


 レミーは力強く立ち上がった。


「一応、十二領帝と戦うために俺がいるんだ。三嶽神となれば無理だろうが、十二領帝の一人くらいは倒せる」


 清は「一人くらい」という言葉に疑問を抱く。自分たちでは時間稼ぎを出来なかった相手を片手でいなした。そんな人であれば、一人と言わず二人三人と余裕でできるのではないか。


 そんなことを考えながら、彼の背中を凝視していた。


「いくら強力な魔導術を使おうとも、どれだけ強大な魔法力を持とうとも、それを使いこなすだけの頭がなければ意味はない。その力を振りまいているだけで勝てるのは、お前がそういう環境にいたからだ」

「私をバカにするというのね?」

「あれだけの時間があったんだ、二人を殺すこともできただろう。ではなぜそれをしなかったのか。それは慢心していたからに他ならない。戦士に慢心はいらないんだよ。必要なのは相手を出し抜き、ねじ伏せるだけの戦闘力だ。服従させたりするのは戦士ではなく王の立場だからな」

「その口を閉じなさい!」


 素早く突進したレミー。大我はその様子を俯瞰し、一つため息をつく。


「止まれ」


 左手て掴もうとするレミーは、大我の目の前で停止した。


 大我の後ろには、背の高い女性が佇む。目隠しをされ、髪もボサボサで白い着物のような服装だった。


「祠導術の効果を下げる祠導術か。そんなもので俺を縛れると思うなよ」


 腕を動かすことはおろか、瞬きや口の開閉さえもできない。そう、大我がすべてを止めたのだ。


「俺の祠徒ガーネットの【切り取られた風景(ランドスケーパー)】は特定の空間を完全に固定させる。まあ、俺はガーネットしか持たないんだが、俺には優秀なパートナーがいるんでな」


 トンっという軽やかな音と共に、大我の横へと誰かが降り立つ。後頭部で結った髪の毛は、結っているにも関わらず毛先が腰よりも下にある。デニムパンツにジャケットを着ておりスタイルはとてもいい。


 彼女の横顔を見て、心なしか縁に似ているなと清は思った。


「頼む、霞」

「損な役回りばっかりだこと」


 霞が中指と親指をくっつけ、そのまま音を鳴らす。


 レミーは足元からサラサラと灰になり、数秒の間に消えていった。それが清の脳内で引っかかった。


「なにが……」

「私の能力は【土に還る時間(ランドリターナー)】だ。生物にはきかないんだが、大我の能力を使うことで生物として認識されなくなる」

「俺と霞の能力は相性がいいんだ。無駄に戦う必要はない」


 くるりと背を向け、大我と霞が歩き出した。


「ま、待ってください」


 清がそう言うと、大我は立ち止まって振り向く。


「なんだ?」

「霞さんは祠徒を召喚していない。それなのになぜ祠導術が使えるんですか」


 それは引っかかっていた疑問だった。


 意を決した清の言葉だったが、大我はすんなりと答えた。


「霞は第一世界から召喚させた祠徒だからだ。それ以上でもそれ以下でもない。こんな状況だ、隠しても仕方がない」

「霞さんとは、どういう関係なんですか?」

「霞は俺の妻だよ。つまり、縁にもその血が流れている。それがどうした、と言われればそれまでだがな。波佐間と綾部は一度第八支部に向かえ。部屋もちゃんと用意してある」

「お二人はどうされるつもりですか」

「俺たちも第八支部に帰るつもりだ。しかし、すぐには帰れない」


 大我は「行くぞ」と霞に言った。霞は「はいよ」と頭を掻く。


 尽と清を残して二人は飛んで行く。


 その姿を眺め、自分と彼らの違いを感じていた。まだ自分は幼くまだ弱い。魔導術でレミーを圧倒した大我を見て、邁進することを強く心に決めた。

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