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天才術師の存在証明《イグジステンス》  作者: 絢野悠
【ジャック・ザ・リッパー編】
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五話

 俺とエルアは一度自室に戻り、寮の前で待ち合わせをした。もちろん警邏のためにだ。


「お待たせ」


 背後から声をかけてきたエルアは私服だった。水色の半袖ブラウスと、青と白のストライプ柄のスカート。いや、動きやすいようにとキュロットなのかもしれない。


 縦長のケースを肩から掛けていたので、銀髪と相俟って二つの意味で目立つ。


「おお、二時間の遅刻だな。身体で払え、と言いたいところだが、お前の身体じゃ大したことはできなさそうだ」


「うるさいわね、行くわよこの変態」


 ご立腹なエルアはそう言って、一人で歩き出してしまう。俺は「はいはい」と言いながら、後ろをついていくことにした。


 一応は生徒会の先輩だからな。それにこいつが率先してくれるのならば、俺の仕事も大幅に減る。


 俺たちが担当する西地区は繁華街だ。北地区はアパートやマンションなどが多い住宅街、南地区は工場がたくさん立ち並ぶ工業街、東地区は海に面した産業街。人が多い西地区を担当させるなんて、清は一体なにを考えているんだ。もしもジャックザリッパーが出た場合、被害を最小限に抑えなきゃいけない。それを新人に任せるのだから、あいつの思考が読めなかった。


 寮に帰る前に、清からは生徒会とは違う腕章をもらっていた。『特別警邏係』と書かれたこの黄色い腕章を付けていれば、遅い時間に出歩いていても警察官から職務質問されることもないらしい。許可証のようなものだと言われた。


「それは武器か?」


 俺は担いでいる縦長のケースを指差した。大きさ的にはエルアの身長とそう変わらない。


「中身はロングハンマー。ミスリル製で頭部は小さく柄は長い、私用の特注。一応『ヘカトンケイル』って名前がある」


 ミスリルは世界最硬クラスの金属で、よく武器にも使われている。非常に高価なため、個人で入手するのは難しい。


「お前の身体能力から考えると、短刀の二刀流とかの方がしっくりきそうだけどな」

「最初は機動力を生かすことも考えた。けれど、敏捷の程度くらいならば導術でカバーできるから、それならば非力な通常火力を強化した方がいいと思ってね」

「なるほどな。それにしても特注ってのがすげーな。有名人だからか?」

「貴方だって元有名人。武器くらい持っているでしょう?」

「持ってないこともないが……」


 いつも腰に引っかけているケースから、俺はそれを取り出した。


「十手……? アナタってそういうのが好みなの?」

「一応これもミスリル製なんだが、正直趣味じゃない。妙に手に馴染むが、素手で戦うことの方が向いてる」


 十手を空中に放り、落ちてくるそれを受け止めた。


 そう、これは仕方なく持ってるだけだし、俺自身は生身で打撃をした方が強い。


「じゃあなぜ持っているの?」

「お守りだよ。いいからさっさと行くぞ」


 会話を切るために、俺はエルアの前に出た。「待ちなさいよ!」なんて言いながら追い越すあたり、どれだけ負けず嫌いなのかが伺えた。


 一時間おきに、人通りの多い場所を二人で歩く。九時前は学生が多かったが、それ以降は大人の方が多くなった。それでも不良っぽい連中はうろついているが。


 あれよあれよという間に時間は過ぎ、あと三十分で今日の警邏は終了する。


「そういやあの学校って、強さによって順位みたいなのあるよな?」

「それがどうかした?」

「お前って今何位くらいなんだ?」

「私の順位は学園で六位、学級で一位よ。まあ次の総合試験では、学園順位も学級順位も下がると思うけど」

「なんだ、自信ないのか」

「アナタが来たからでしょ!」


 エルアはそう言って、俺の脇腹を小突いてきた。あの小さな手だ、妙なむず痒さがある。


「それって出なきゃいけないもんなのか?」

「どれだけ具合悪かろうが、出なければ強制退学なのよ」

「難儀な世の中だな」

「学園側の意向だから仕方ないわ」


 会話は何度かした。しかしすぐに終わってしまう。俺とこいつはどっちもおしゃべりが下手くそで、それでいて相性もあまりよくないのだと思う。


 街はまだ眠ることを知らない。その喧噪の中で、俺のPDが鳴った。いや、正確には俺とエルアのPDが、だ。


「どうした尽。終わりの時間まではあと三十分あるぞ」

「北地区にジャックザリッパーが現れた! 南地区にいる僕よりも、西地区にいる君たちの方が近い!」


 尽はすぐに通話を切った。が、あまりにも唐突すぎる。


 PDには生徒会用に用意された特殊アプリがインストールされている。尽からもらったデジタルカード内に勝手に入っていた。アプリは生徒会員や風紀委員の位置がわかるというもので、いわゆるGPSという機能だった。名簿なんかも閲覧できるようだ。


「今から走ったところでって感じはするな」

「今日北地区を担当している人はわかるし大丈夫よ。すぐに飛ぶわ。私に掴まりなさい」


 彼女はそう言って、PDの画面に触れた。PDと手の境目には、青白い光の粒が現れ始める。


「デバイス、コネクト」


 渋々だが、俺はエルアの腕を掴んだ。見た目通りの細腕は、少し力を入れれば砕けてしまいそうだった。ボコボコにした俺が言うのもなんだが。


「なあ、ちなみに飛ぶってどういうことだ?」

「私の祠徒、ホープの『星の観測者(スターゲイザー)』は、相手の居場所さえわかればその位置までワープできる。私の中で数少ないAランクの能力よ」


 なるほどな。それで生徒会アプリを使うってことか。


 瞬く間に、強烈な光に呑まれた。


 思わず目を閉じた俺だったが、次に瞼を開けたときには別の場所。心許ない街灯だけが点在する、人気のない港の一角だった。


 ポニーテールの女がうずくまり、その下には男子生徒が倒れていた。彼女は彼に覆いかぶさり、外敵から守っていたように見える。


 ずっと向こうには、黒いパンツに黒いパーカーの人物が角を曲がった。本当にチラッと見えただけなので、ここからだと追いつくのは難しい。


 辺りが暗いのと、フードを深く被っていたこともあり、顔はまったく見えなかった。


 とにかく、今は怪我人の方を優先させるべきだ。


「容態はどんな感じだ?」


 俺は、ポニーテールの女生徒に声をかけた。肩を微震させており、おそらく泣いているのだろう。


「私……私なにもできなかった……」

「それは仕方ないことだ。いいから状況を説明してくれ。俺たちがなんとかしてやる」


 俺がそういうと、女は顔を上げて小さく頷いた。


「か、カマイタチのような衝撃波で攻撃されました。何個も何個も衝撃波が飛んできて、それで彼が私を守ってくれて……」


 さらに、彼女の瞳から涙が溢れてくる。こういうのは苦手なんだがな。


「とにかく今は彼の身が心配です。一度相手の魔導を洗い流しましょう。クイーンよ、私に力を貸して」


 祠徒を召喚したエルアは、その力で治療していく。が、治療とは少し違う。先ほど言っていたように、相手から受けた魔導を取り去っているのだ。他人の魔導を拭うことで、直接治癒系魔導術を使うよりも治りが早い。しかし治癒系の魔導術を使っているあたり、エルアには回復型の祠徒がいないのだと推測できる。


 そうこうしているうちに救急車は到着し、目を開けないまま運ばれていった。パートナーの女が付いていったので大丈夫だろう。


 尽に連絡を入れると、明日の放課後に詳しい話をすると言っていた。


「これでアナタもわかったでしょう。見回りの風紀委員でさえ太刀打ちできないのよ、今回の相手は」

「それでも、俺がなんとかするって言っちまったからな。約束は守る」

「アナタって割りとテキトーな態度とるくせに、妙に真面目なところあるわよね」

「性分なんだ」


 エルアに背を向け、俺は寮へと歩きだした。


「ああそうだ、お前もちゃんと手伝えよ」


 首だけで後ろを向いてそう言ってやった。エルアは豆鉄砲を食らったような顔をしているが、コイツの性格なら付き合ってくれるだろう。


 さて、明日から忙しくなりそうだ。

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