五話
エミリオとナスハも何人か倒したようで、二人の周囲にもミュレストライア兵が何人も倒れていた。
キュクリオ兵に全てを任せ、一行はアンジェイルへと向かう。
しかしクオリア以外の二人は移動の時点で疲労が溜まっていたため、近くの町で一晩泊まることとなった。
夕日が落ちる頃に到着し、小さな町の中を歩いていく。農業が主流なのか商店などはほとんどなく、非常に簡素な作りの家ばかりが立ち並んでいた。
町というよりも村に近い場所で、一軒しかない宿屋に入った。部屋は六部屋しかないのだが、空いているのは一部屋だけとのこと。ナスハが気にしないというので、三人は同じ部屋で眠ることになった。
まだ就寝するには早く、かといって観光をする場所もない。
仕方ないと、三人はこれからの打ち合わせをすることにした。
「作戦、と言っても特に先ほどと変わらないのよね」
窓辺にイスを置き、そこに腰掛けるクオリアがそう言った。
「必要なことです。クオリアの行動は変わらないでしょうが、私とエミリオはその都度行動を変えなければいけない」
「俺たちは基本的に後方支援じゃねーのか?」
「基本的にはそれでいいでしょう。けれど、私たちの仕事は被害を抑えることです。クオリアを送り出してから、ミュレストライア兵の逃走や周囲の町などへの侵攻を阻害します」
ナスハはPDを取り出し、空中にモニターを出現させた。
マスカードとミュクリオから得られた情報を元に兵力を入力していく。アンジェイル城にはカーティス=マグナス、城の二十キロ前にはアイリス=オルバイトが陣を敷く。
アイリスは森の中心に拠点を置き、城を背に兵を扇状に配置している。
森の中にはその他の部隊が五つあるらしいが、十二領帝クラスの戦闘力を持つ者はいないだろうと推測された。現状だとアイリスとカーティスを倒せば、この世界にいる十二領帝は片付いたことになる。
「私とエミリオのどちらかがアイリスと対峙し、片方は周辺の兵を率いて兵を逃さないようにします。クオリアはどう思いますか?」
「どう思うと言われても、どう考えたってアイリスと対峙するのはエミリオでしょうね。ナスハの方が兵を統率するのに向いているもの。特に大勢となれば尚更。キュクリオとマスカード両方の兵が入り乱れる確率も低くないわ」
「えー、俺十二領帝と戦って勝てる自信がないんだけど」
「大丈夫です、戦況が厳しいのであればすぐに駆けつけますから。二人で一気にケリをつけられれば、多少持ち場を離れても大丈夫でしょうし」
PDを操作しながら戦況を修正していくナスハ。時間を早送りしながら理想の状況を描いていた。
「最終的にはアイリス及びカーティスの撃破、王女クルーナの確保ですね。一般兵はこの際無視しましょう。周囲の住民に被害がいかなければ問題ないので」
「無害に抑えられる自信はありまして?」
「被害ゼロは無理でしょうね。王女クルーナとカーティスが同盟を結んでいるか否かでも戦力は変わります。現在は連絡が取れないので、アンジェイル側の詳細が掴めないのです。宣戦布告の元で攻撃されたのならわかりやすかったのですけれどね」
「なるほどね。明日は起きたらすぐに向かいという方向でいいんですのね?」
「はい、そのような流れで結構です」
会話が一段落したとき、ドアがノックされた。クオリアが「どうぞ」と言うと、宿屋の主人が食事を運んできた。
部屋の中央にある大きめのテーブルに、主人は食事を並べていく。カットされたパン、刈安色のスープ、緑黄色野菜を使った色彩豊かなサラダ。別々の三種の肉をソテー、ムニエル、ローストと調理法を変えてある大皿が中央に置かれた。三種類の肉を三種類の焼き方で楽しめるということだろう。
出て行く主人に礼をし、丸いテーブルを囲んだ。
食事に対して一礼をした三人は、前菜から手を付け始めた。スープを飲み、肉を食べ、黙々と口に運んでいた。
「なんで誰も喋らないんだ?」
沈黙に耐え切れなかったのか、エミリオがそう言った。
「食事中よ、エミリオ」
ナフキンで口をひと拭きし、クオリアは若干冷めた視線を向ける。
「いやでもさ、美味しいとかそういうのあるでしょ。なんかあるでしょ」
「美味しいわよ。飛び抜けてというわけではないけど素朴でいいと思うわ。逆に味付けが濃くなくて素材の味がよくわかるわ」
「クオリアの意見に同意です。特色はありませんが、高級素材に強い味付けをしたものよりもずっといいと思いますよ」
それきり、食事が終わるまで会話はなかった。エミリオはバツが悪そうな顔をして、ただ食事を食べ続けるのだった。
食事が終わり、三人は外で腹ごなしをした。軽くランニングをしてから簡単な手合わせをする程度だった。
汗をかいて風呂に入り、すぐに就寝の準備をする。準備というほどのものではなく、用意された寝間着に着替えてベッドに入るだけ。
クオリアはスッと布団に潜り込み、布団の冷たさを気持ちいいと感じていた。今日一日蓄積された熱を吸い取るような感覚に顔を緩めた。
電気を消し、目を閉じる。すぐにエミリオのいびきが聞こえてきた。うるさいというほどのものでもないのでそのまま放っておいた。
「クオリア、起きていますか」
「ええ、もちろん」
最初に声を出したのはナスハだった。背中合わせで横になる二人の間に微妙な空気が生まれる。
「アナタは、最初にスーベリアットの住人を皆殺しにする、というようなことを言っていたそうですね」
「ええ、それが?」
「どうしてスーベリアットに手を貸そうと思ったのですか? 私は、アナタの目的がさっぱりわかりません。大我様も同じことを申されていましたが」
「目的、ね」
布が擦れる音をさせて、クオリアは小さく寝返りをうった。ナスハの背中を見つめ、
「殺すつもりは最初からなかった。ただ、スーベリアットを手中におさめることができたのなら、ミュレストライアに報復できると思いましたの。スーベリアットに召喚された時から、私の目的は十二領帝への復讐なんですわ」
「正直な話、私は今でもアナタを信用しきれていない。当然と言えば当然なのでしょうが」
「当然と思っているのならばそれが貴女の答え。他人の前に自分を信じなければいけないし、逆に自分よりも他人を信頼しなければいけない時も来る。それを判断するのは貴女自身。今はそれでいいのではなくて?」
その言葉を聞き、ナスハは息を飲んだ。
「今はそれで納得しておきましょう。けれどもし、スーベリアットに害なすのであれば、私も容赦はしません」
「ええ、こちらとしても貴女とはあまり戦いたくはありませんので」
「それは、どういう意味でしょうか」
「想像にお任せするわ」
もう一度寝返りをうち背中を向ける。口元には笑みを浮かべていた。
微妙な空気のまま彼女たちは眠りにつく。けれど、クオリアがその空気を気にすることはなかった。




