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天才術師の存在証明《イグジステンス》  作者: 絢野悠
【ダルカンシェル編】 クロスオーバー:白き厄災 
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四話

 クオリアたちがいるマスカード城は南に海がある。城から半径数キロは平野が広がる。東には農村、北には商業都市、その商業都市の近くに工業地区がある。


 平野を取り囲む森を抜けると、砂漠に続く道と平野に続く道に分かれる。マスカードの兵士たちは、基本的にその周辺を警護していた。


 シャハール王にキュクリオに向かうことを説明し、三人はマスカードを離れた。その際大我に連絡し、魔法力をすべて開放してもらっていた。


 およそ一時間程度の空中旅行を楽しみながら、クオリアはキュクリオに到着。しかし楽しんでいたのはクオリアだけだった。


 キュクリオ城には行かず、直接ターナーへと攻撃を仕掛けるのが目的だ。


 兵がいない場所へと降り立つが、エミリオとナスハは息を切らしている。膨大な魔法力を秘めているクオリアには問題ない距離だが、残りの二人にとって長距離移動は負担が大きい。


「まだ結構な距離があるわね」


 ミュレストライア兵の野営場を遠くから見つめてクオリアが言う。それでも数キロという距離があり、魔導術を使って視力を強化しなければ見えない。

「あれをぶち抜きゃいいんだな。俺に任せろよ」

「貴方たち二人は休んでなさい。キュクリオ城や付近の町村への被害を抑えればいいわ」


 右腕を前に出し【先導者の威厳】を行使した。黒い靄が空いっぱいに広がり野営場を取り囲んでいく。ミュレストライア兵もそれに気付いたがもう遅い。


「いきなさい、私の坊やたち」


 咆哮、そして強襲。


 エミリオとナスハに「よろしくね」とだけ伝え、自分もまた戦場へと駆けていく。


 野営場の中央へと一直線に向かい、急ブレーキをかけた。


 大きな体躯、短い髪の毛、厳つい顔立ち。ベストから伸びる太い腕で、豪快に振るうのは身の丈ほどもある鉄鎚。


「きたか、白き厄災」

「情報は入っているのでしょう、ターナー」


 第二位の彼は、十二領帝でも上位に位置する戦闘力を持つ。先の戦いで打ち倒したメロディアとは比べ物にならないであろう。年は四十近く、十二領帝の中でも強い発言権を持っている。

「メロディアを倒したそうだが、俺はそう簡単にやられんぞ」

「それは私のことをなめている証拠ですね。十二領帝が束になっても敵わない。三嶽神とはそういう存在でしょう?」

「その十二領帝に謀られ、ゲートに押し込まれたのはどこのどいつだ?」

「信じていたのだけれど、それが裏目に出るとは思いませんでした。だからこそ許しがたく、無性に腹が立つ」

「もう一度その苦渋を味あわせてやろう。三嶽神の力を無効にする、この究極の魔導術でな!」


 ターナーが手をかざすと、クオリアの背後に黒い球体が出現した。彼女から出る魔法力を吸い取り、黒い球体はどんどんと大きくなっていく。


「どうだ! 次第に力が抜けていくだろう!」


 彼の言葉を聞き、クオリアは首を傾げた。


「別に、特に変わりませんよ? ジャンク品なんじゃありません?」


 と、楽しそうに笑った。


 わなわなと、ターナーの唇が震える。


「前はこれで魔法力を失っていたはずだ。なぜ、なぜ今は平気な顔をしているんだ」

「前回はびっくりしただけです。最初からそのつもりならなんてことありませんよ? 特に異世界の中で、ダルカンシェルはミュレストライアと酷似した空気構成をしている。含有する魔法量もかなり高い。常に吸収し続ければ対処は簡単ですわ」

「我々が見誤っていたというのか……!」

「三嶽神を侮りすぎですね」


 剣を抜き、切っ先を向ける。


「なにか言い訳はありまして?」


 その瞳は明確な殺意を含み、ターナーを釘付けにするほどの強さがあった。美しくもあり凶悪で、麗しくもあり残酷な眼差し。彼は腕も足も動かせず、口を動かす他なかった。


「十二領帝の総意だ、白き厄災は存在そのものが厄災なのだ。我々がこの手で消さなければいけない!」

「ならば戦士として死になさい」


 金縛りが解けたように、ターナーは走りだす。鉄鎚を振るい、クオリアへと振り下ろした。


 左足を軸にして半身逸らす。左足で地面を蹴ってターナーの脇をすり抜けた。一度剣を薙いで彼の足を切りつけた。


 ターナーは傷ついたことさえもどうでもいいと、ただただクオリアを追いかけた。


 地面に鉄鎚が振り下ろされる度に、轟音が空気が震わせる。地面はえぐれ、つまづいてしまうのではというほどに周囲が隆起する。


「突進力と破壊力だけは十二領帝で一番なのですけど、それ以外は最下位に近いものがあるわ」


 攻撃を避けて斬りつける。受け流しては突きを当てる。そんな繰り返しを何度かすれば、ターナーの血液で地面が染まる。


 しかし、彼は絶対に膝をつかなかった。


 戦士として、という言葉通りに戦っていたに過ぎない。魔導術は強化のみ、祠導術も一切使わなかった。例え祠導術を使ったとしても、ターナーが持つ【武将の激励スティミュラスコマンダー】は、他人の精神を高揚させる能力。自分にも使えるが、結局のところ将としての能力でしかなかった。


 クオリアは小さくため息をついた。


 この程度なのか。


 ミュレストライアでも最上位に位置するはずの十二領帝の強さ。それがこれほどまでに脆いのか。


 確かに慣れない土地、慣れない魔法力の中では動きづらいかもしれない。それでも民に信頼され、民を守る立場であるというのに。


 憤りと共に呆れ返ってしまった。


「終わりにしましょう、ターナー」


 少し強めに地面を踏み込み、上段から剣撃を放つ。


 鉄鎚を持っていた右腕が宙を舞い、数メートル先に落下した。


 次いで左足を切り落として機動力を削いだ。


「があっ!」


 巨体が地面に落ちて、その衝撃で粉塵が舞った。


 クオリアは侮蔑の瞳でターナーを見下ろす。


「まだ、まだ終わっていない!」

「無理よ」


 腹に剣を突き刺すと、彼は歯を食いしばって堪えていた。


 クオリアは剣を抜き、腕に胸にと刺していく。


「戦士としても終わり、十二領帝としても終わり。貴方はなにひとつとして私に勝てず、ただの男として死んでいく」

「お前は、こんな生き方でいいのか」

「一度はなくした命だもの、もう関係ないわ。さよなら、ターナー」

「カーティスはお前の知っている頃の男ではない。覚悟して――」


 最後まで言わせないと、その巨体を真っ二つに切り裂いた。


「どれだけ強くなろうとも、どれだけ武勲を重ねても、私に勝てるのは私だけだなのよ」


 そう言って、体温を失っていく大きな体躯に背を向けた。


「縁様には今度リベンジさせてもらおうかしら」


 ミュレストライア兵は全滅。意気揚々と野営場をあとにした。

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